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S級冒険者が歩む道~パーティーを追放された少年は真の能力『武器マスター』に覚醒し、やがて世界最強へ至る~  作者: さとう
第十五章 神の箱庭

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一方、ハイセは

 ハイセは、宿に戻るなり、自室のベッドに寝そべっていた。


「…………」


 天井を見上げる。

 つい最近、シムーンが綺麗に掃除をした。塵も埃もなく、蜘蛛の巣もない。

 ハイセはコートを脱ぎ、壁に掛ける。

 そして、読書でもしようとソファに座ろうとした時だった。


「ハイセ、いる?」

「……」


 エクリプスが、ドアをノックした。

 ハイセはドアを開け、部屋には入れずに言う。


「なんだ」

「ね、少しだけ、私の話を聞いてくれない?」

「どうせくだらない話だろうが」


 昨夜は帰ってこなかったエクリプス。戻るなり『話を聞け』ということは、間違いなくサーシャが絡んでいるだろう……そう考え、ハイセは拒絶する。 

 だが、エクリプスは引かない。ポケットから鍵を出し、ハイセに突きつける。


「これを持ってて欲しいの。『神の箱庭』の鍵……きっと必要になるわ」

「確かに、必要にはなるだろうな。だが、俺に渡してどうするつもりだ? お前……俺とサーシャのこと、知ってるんだろ」

「知ってるわ。でも、それはそれ、これはこれ。禁忌六迷宮『神の箱庭』は、九人でしか挑めない……九人のうち一人は、あなたしかいないと思っているわ」

「…………」

「私に対して思うことはあると思うけど……今はそれを置いて、私の話を聞いてくれない?」

「…………下で話すぞ」


 ハイセはコートを掴み、部屋を出た。

 エクリプスと一緒に階段を降り、食堂スペースにある椅子に対面で座る。

 エクリプスは、テーブルに鍵を置いた。


「正直に言う。私は、あなたとサーシャが手を取り合い、禁忌六迷宮を攻略するのを見に来たの……あなたたちの確執を知っているからね」

「……正直だな」

「あなたには、もう偽りを言わないと決めたから。あなたを好きになったのも本当よ?」


 エクリプスはなぜか、嬉しそうにほほ笑んだ。

 妙に胡散臭い……ハイセはそう思うが、眉を顰めるだけにした。


「でも、あなたもサーシャも、長年の友人みたいに接するから驚いたわ。逆に、私がしたことで、確執を思い出させてしまったようね」

「……かもな」

「それと……私も、興味があったのよ。あなたやサーシャ、同じS級冒険者同士で、冒険してみたいって。おかしいかしら?」

「……知らん」

「お願いハイセ……一緒に、冒険しましょう。私のことを、あなたに知って欲しい。私の想いが嘘じゃないと、あなたに理解してほしい。あなたを陥れようとした私じゃない、今の私を見てほしい」

「……お前、なんでそこまで俺に拘る」

「一目惚れ。それしかないでしょう?」


 エクリプスは、真っすぐハイセを見て微笑んだ。

 その笑みは嘘じゃない。不思議と信じることができた。


「……チッ」


 ハイセは鍵を取り、ポケットに入れる。


「俺は今まで、サーシャたちに追放されて、陥れられたことを忘れていた。いつの間にか、仲良しこよしでやっていた……ようやく気付いた。そんなの、俺じゃない」

「……どうするつもり?」

「お前がサーシャたちに渡した『箱』を、手に入れる」

「……まさか」


 ハイセは頷き、エクリプスに向けて初めて笑いかけた。


「決闘する。俺は鍵、サーシャたちには箱を賭けて、正々堂々とな」


 ◇◇◇◇◇◇


 数時間後、ハイセはクラン『セイクリッド』に来ていた。

 受付に入るなり、あっさりと本部に案内され……出迎えたのはチーム『セイクリッド』の面々。

 サーシャは、ハイセが来るなり言う。


「よく来てくれた……ハイセ、昨日の返事を聞きたい」

「……」


 ハイセは、エクリプスから受け取った鍵をテーブルに置く。

 それを見たタイクーンが言う。


「それがこの箱の鍵……つまり、協力するということか?」

「違う。俺の答えは協力じゃない……その箱をもらいに来た」

「……何?」


 意味不明とばかりに、タイクーンは眼鏡をクイッと上げる。

 ハイセは、サーシャに向けて言った。


「サーシャ、俺はこの鍵、お前はその箱……二つを賭けて勝負しろ」

「な……何?」

「忘れたのか? 俺たちは冒険者だ。仲良しこよしのチームじゃねえんだよ」

「……本気なのか。それが、お前の答えなのか」


 サーシャも、厳しい表情で言う。

 過去の負い目はある。だが、それとこれとは話が別と言わんばかりに。


「本気だ……忘れたのか? 俺は、お前たち『セイクリッド』から追放された身だ。今更、仲良くできるわけがない。今までがおかしかったんだ……俺はお前たちのこと、毛嫌いしていたはずなのにな」

「…………」


 すると、ロビンが言う。


「ハイセ、そんな……あたし」

「ロビン。お前が俺の追放に反対したことは素直に嬉しい。でも、お前は『セイクリッド』だ」

「……っ」

「フン!! 確かに、あなたと私たちが協力するなんて、本来はあり得ませんわね!!」

「その通り。ピアソラ、お前は変わってなくて安心する」


 そして、レイノルドが大きくため息を吐く。


「ったく……そうだよな。お前と一緒にいるうちに、お前を追放したことや、お前に大怪我させたこと忘れてたぜ。なあなあで済むような問題じゃねぇんだよな……」

「そういうことだ。さぁ、答えを聞かせろ。サーシャ……その箱を賭けて、俺と勝負するかどうか」

「…………」


 サーシャは顔を伏せていた。

 そして、木箱を掴むと……ハイセの前に置く。


「……やはり、私はダメだな」


 サーシャは……泣いていた。

 涙を流し、どこか辛そうに笑っていた。


「お前と戦うなんて、できない……お前がどんなに嫌っても、それが偽りでも……お前と過ごした時間、絆を捨てることなんて、できない」

「…………」

「ハイセ。頼む……過去は必ず清算する。だから、私たちとの間にできた新しい絆を、否定しないでくれ……私は、嫌なんだ……もう、お前が遠くに行ってしまうのが」

「…………」


 サーシャは、子供だ。

 割り切れないのだ。

 確かに、全ての原因はサーシャたちにある。ハイセを追放すると決めたのもサーシャであり、ドラゴンが住む泉を教えたのもサーシャ。ハイセが右目を失った原因もサーシャにある。

 ハイセは誰も信じなくなった、たった一人でS級冒険者になったのは、ハイセの力だが…。

 サーシャたちを恨む力を糧に強くなった。『闇の化身(ダークストーカー)』が生まれたのも、サーシャたちが原因といえるだろう。


 サーシャはずっと、胸を痛めてきた。

 謝りたくても、ハイセが怖くて近づけなかった。

 忙しいのもあった。でも……明らかに、サーシャはハイセを避けていた。

 ハイセの活躍を知り、嬉しくもあり複雑だった。

 ようやく声を掛けれたが、何もかもが遅かった。


 でも……少しずつ、少しずつ、距離を縮めることができた。

 小さいながらも、絆というものが新しく芽生えていた。

 そして、絆が芽生えると同時に、過去の傷に新しい絆が覆いかぶさり、薄れていった。

 サーシャは無自覚に、「それでいい」と思ってしまった……卑怯にもだ。

 ハイセは、忘れないことを選択した。全てを無しにして、『闇の化身(ダークストーカー)』として生きることを選んだ。

 だがサーシャは……もう、失いたくなかった。


 たとえ偽りでも……一度は失ったハイセとの『絆』を、再び捨て去ることなんて、できなかった。

 

 決闘なんて、できるわけがなかった。

 どこまでも甘く、どこまでも情けない決断……サーシャは、それしかできなかった。

 レイノルド、ピアソラ、タイクーン、ロビン。四人は、サーシャの気持ちが痛いくらい理解できた。だからこそ涙を流すサーシャに何も言えず、声も出せない。

 ハイセは……。


「…………それが、お前の答えなのか」


 サーシャに深く、失望していた。

 その姿は、ハイセの知るサーシャではなかった。

 弱く、情けない姿。

 見たくなかった。ハイセの中のサーシャは、凛々しく美しい『銀の戦乙女(ブリュンヒルデ)』だったのに……今は、わがままで泣く少女にしか見えなかった。

 

 それくらい、ハイセを想っている。

 そのことに気づかないくらい、ハイセは鈍感で……子供だった。

 

「…………」


 ハイセは無言で鍵をポケットに入れ、立ち上がる。

 そして、何も言わずにその場を後にした。

 

 どこまでも真っすぐで、どこまでも不器用なハイセとサーシャ。二人の仲はこれまでにないくらいこじれて、ねじ曲がっていた。

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〇S級冒険者が歩む道 追放された少年は真の能力『武器マスター』で世界最強に至る 2巻
レーベル:GAコミック
著者:カネツキマサト
原著:さとう
その他:ひたきゆう
発売日:2025年 10月 11日
定価 748円(税込み)

【↓情報はこちらのリンクから↓】
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お読みいただき有難うございます!
月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
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― 新着の感想 ―
ハイセはダークストーカーのままブレてない様に見える ただ生来の優しさで困っている弱者を見捨てれないだけで それとサーシャやセイグリッドに甘くなるのは、夢を叶える為に自分が作ったチームだった故の感傷かな…
[良い点] 今まで散々読者から指摘があった問題に切り込んだこと [気になる点] サーシャ以外のセイクリッドメンバーの反応 ピアソラは最初から敵意剥き出しだから別として、レイノルドは追放したのが正解だっ…
[良い点] 本来在るべき仲に戻ったように見える所はまぁよかったかな。 [気になる点] この世界の成人の扱いはどうなのかは解りませんがクランいう組織を引き継いだのではなく自ら立ち上げたサーシャを子供扱い…
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