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S級冒険者が歩む道~パーティーを追放された少年は真の能力『武器マスター』に覚醒し、やがて世界最強へ至る~  作者: さとう
第十五章 神の箱庭

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ここにいる理由

 S級冒険者序列二位『聖典魔卿』エクリプス・ゾロアスター。

 現在、彼女はハイセの宿の食堂スペースにいた。しかも、ハイセの座る席の対面に。

 クレアはハイセの隣に移動し、なぜかハイセの腕に抱き着いている。


「師匠師匠、なんですかこの人、なんでいるんですか」

「知るか。ってかくっつくな」


 エクリプスは、紅茶を飲んでいる。

 上品な仕草は貴族令嬢としての教育を受けたからなのか。カップを置くと、トレイを抱えたシムーンに向かって柔らかく微笑みかける。


「美味しい紅茶ね。ありがとう、お嬢さん」

「えへへ。嬉しいです」

「淹れ方も上手ね。ハイセに習ったのかしら?」

「いえ。プレセアさん……えっと、お知り合いのエルフの方に」

「なるほど。それに、カップも上質な物ね。いいセンスだわ」

「はい。わたしもお気に入りで」


 カーリープーランの送ってきたカップ、そして紅茶である。

 シムーンが嬉しそうにキッチンに戻ったのを確認し、ハイセは言う。


「で、報復に来たのか? やるなら相手になるが」


 ハイセは自動拳銃を抜く。が……エクリプスは首を振る。


「求婚よ」

「へ? 球根? 花でも植えるんですか?」

「ハイセ。私……本気であなたが好きになったわ。私と、結婚を前提にお付き合いして欲しいの」

「「…………」」


 ハイセは無言だったが、クレアは口を大きく開けて愕然としていた。

 どストレートな、愛の告白。

 だがハイセは緊張も、告白に浮かれることも、喜びもない。


「論外だ。まず、俺はお前が大嫌いだ。目の前にいるのも不快だ。はっきり言ってやる。消え失せろ」

「……そう言うと思った。まあ、いいわ」

「え、諦め早いですね」

「ってかお前はいい加減離れろ」


 クレアはハイセの腕に抱き着いたままだ。ハイセに頭を掴まれて押されるが、意地でも離さない。

 ハイセに頭を掴まれたまま、クレアは言う。


「そもそも、自分のクラン放って何してるんですか? クラン『銀の明星シルヴァー・ヴェスペリア』は壊滅したって噂になってますけど」


 クレアの質問に、エクリプスは初めて答えた。


「壊滅ね。まあ、建物が壊滅という点では間違っていないわね。魔法実験の失敗(・・・・・・・)で、壊滅したというだけで、クランそのものが壊滅したわけじゃないわ。今、全力で校舎や研究棟の復旧作業中。研究資料や機材の発掘、修復も行っているから、完全復旧には一年ほどかかる見通しね」

「一年……長いんだか短いんだか、よくわかりませんね」


 ちなみに、かなり早い方である。

 研究棟の数は七十棟。本校舎の大きさは小さな村ほどある。普通に建て直すだけなら二年半ほどかかる。だが、エクリプスの伝手、資金を豊富に使い、修復を急がせている……それでも、一年だ。


「それで、エクリプスさんは何でここに? その……求婚とか。ってか、クランマスターなのに、こんなところにいていいんですか?」


 ハイセがエクリプスと会話をするつもりがないので、クレアが質問する。

 エクリプスは紅茶に口を付ける。


「全ての指示は出したわ。それに、生徒会メンバーもいる。さらに、魔法でここから声を飛ばせるし、私を模した『人形』もいるわ。つまり……私がここにいても、魔法学園にいても、何も変わらないの」

「へ、へえ……すごいですね」

「そう。それで、ハイセに会いに来たの。まあ、目的もあるけどね」

「……その目的を言え」


 ようやくハイセが口を開く。

 すると、エクリプスはアイテムボックスから、小さな鍵を出しハイセの前に置いた。

 鍵は銀製。小さな輪っかに紐が通してあり、机の鍵にも見えた。

 

「私がサーシャに見せた『神の箱庭』の木箱の話し、聞いているでしょ?」

「…………」

「これは、木箱を開ける鍵。木箱は、サーシャに渡したわ」

「───!」

「ハイセ。この鍵をあなたにあげる。きっとサーシャは、あなたに『神の箱庭』攻略の協力を申し込んでくる。あなたが禁忌六迷宮に挑むチャンスよ」

「…………お前、どこまで俺を馬鹿にする?」


 ハイセはクレアの腕を無理やり外し、前のめりになり、エクリプスの胸倉を掴んだ。

 エクリプスは顔色一つ変えない。


「お前、まだ俺とサーシャで遊ぶつもりか? 神の箱庭? 今度は、俺とサーシャをそこに放り込んで楽しむつもりか? お前、カーリープーランよりも頭にくるな……死なない程度に拷問してやろうか」


 ハイセは、エクリプスの手を掴み、人差し指の爪に指をかけた……その気になれば、無理やり剥がすこともできるように。

 だが───それでも、エクリプスの表情は変わらない。


「勘違いしないで。私は、あなたを陥れるつもりはないわ。それに……『神の箱庭』攻略には、サーシャたち『セイクリッド』だけじゃ無理。あなたと……もしかしたら、序列三位の子や、あなたも必要になる」

「わ、私も?」

「……そして、私も」

「…………」


 ハイセはエクリプスの襟から手を放し、椅子に座る。 

 座ると同時に、クレアが腕にしがみつく。

 さっきよりも力が強いことから、どうやら甘えているのではなく、ハイセを押さえようとしているらしい。


「御託はもうたくさんだ」


 ハイセは鍵を手に取り、エクリプスの紅茶カップに投げ入れた。


「ここは宿屋だ。お前が金払って滞在するのに文句は言わない……だが、俺に関わるな。俺の生活に入ってくるな。もし俺の周りを脅かすなら、容赦なく潰す」

 

 そう言い、ハイセは立ち上がり、部屋に戻ってしまった。

 クレアは気まずそうにエクリプスを見る。あれほど苛烈に他人を批判、拒絶するハイセを初めて見た。

 すると、エクリプスは紅茶カップの中身を飲み干し……舌の上で、鍵を転がした。


「ふふ、本当に素敵。ねえあなた、クレアだったわね。この鍵……ハイセに渡してくれない?」

「……師匠はあなたを拒絶しました。諦めた方がいいんじゃないですか?」

「嫌。私、誰かに恋をしたのは初めてなの……どんなに拒絶されようと、きっとハイセと結ばれて見せるわ。ふふふ……」


 恋。

 クレアは否定しようとしたが、できなかった。

 ハイセを想うエクリプスの表情は、年相応の少女にしか見えなかった。

 歪んだ感情……そう思いたかったが、その表情を見ると、どうも嘘に見えない。


「あの、エクリプスさん……師匠のどこを好きになったんですか?」

「わからないわ。最初は、どこにでもいる『普通』の男かと思ったわ。強いだけの男なんて、いくらでも観てきたから……でもね、ハイセは違った。ハイセは、私の想像を超えた人だった。それがわかった時、胸の高鳴りが止まらなかったの……」


 エクリプスは胸を押さえ、頬を染める。

 これ、マジだ。

 クレアは頬を染めるエクリプスを見てゴクリと唾をのんだ。


「ハイセのこと、夢にも見たわ。気が付いたら私、復旧作業の指示を出して、ハイベルグ王国に向かってたの……本当に、来るつもりなんてなかったのにね」

「そ、そうなんですかー……」


 ちょっと重い。クレアはそう思った。

 そして、少し考え込む。


「ふむ。エクリプスさんは、最終的に師匠とどうなりたいんですか?」

「結ばれたいわ。心も、身体も……私を満たしてほしい」

「そ、そうですか。えっと……まずは、師匠に好かれないといけませんね。今のエクリプスさん、師匠に滅茶苦茶嫌われてますから」

「そうかしら? 爪、剥がさなかったし、拷問されてもいいように、口の中に鎮痛薬を仕込んできたのだけれど……」

「え、えぇ~っと……」


 ブッ飛んでる……と、クレアは何を言えばいいのか迷った。

 というか、エクリプスなど無視して部屋に戻ればいいのだが、なぜか放っておけなかった。

 

「ね、あなた……クレアだったわね」

「あ、はい」

「その……手を貸してくれない? この鍵、ハイセに渡したいの。できれば……自分で渡したいの」

「えっと……その鍵、そんな大事なんですか?」

「ええ。これがないと、サーシャに渡した『神の箱庭』は開けないわ。ただの鍵じゃなくて、魔法を込めた鍵だから」

「はあ……それで、私の手も必要とか言ってましたけど」

「あの箱を開けると、いくつか入口が開くのよ。一人でどうにかなるものじゃない……禁忌六迷宮らしい、嫌らしいところね」

「そ、そうなんだ……ふむ」

「ね、手を貸してくれない? お礼はするから」

「……わ、わかりました」


 こうして、クレアはエクリプスに協力することになった。

 ハイセに『神の箱庭』の鍵を渡し、ハイセとエクリプスの仲を改善するために。


「……なんで私、こんな苦労をすることになってるんだろう」


 部屋に戻ったクレアは、大きなため息を吐くことになるのだった。

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〇S級冒険者が歩む道 追放された少年は真の能力『武器マスター』で世界最強に至る 2巻
レーベル:GAコミック
著者:カネツキマサト
原著:さとう
その他:ひたきゆう
発売日:2025年 10月 11日
定価 748円(税込み)

【↓情報はこちらのリンクから↓】
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お読みいただき有難うございます!
月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
連載中です!
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― 新着の感想 ―
[一言] エクリプス、キャラ自体は良いんだけどなんか結局カーリープーランとセットで迷宮のお膳立て要員が主な役割で終わりそう。 恋愛面でもサーシャ以外はろくな進展はないだろうしサーシャはサーシャで自覚を…
[気になる点] ハイセにパーティーのエスコートとは別に追加で依頼をする予定だったけど、依頼内容はなんだったんだろう。 エクリプスの真意。 クランを潰された報復はしないのか。 依頼を放棄した二人に何故…
2023/10/16 22:37 退会済み
管理
[気になる点] サーシャのハイセに協力願う発言に対する内外の反応は気になるなぁ。 しかも、クラン「セイクリッド」としてだし。 [一言] カーリープーランは、箱を開けて羊皮紙しまってたから、開けるだけ…
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