クリスタル鉱山
クリスタル鉱山の入口にて。
王族の装飾品や、他国への献上品を作る時にのみ採掘が許可される、鉱山の街リスタルで最も上質な鉱石が採掘される場所。
常に王国兵士による巡回、警備の体勢が敷かれ、無断で立ち入ったり採掘をした者は問答無用で『処刑』である。
なので、通常の冒険者が入ることなど、一生の人生であるかどうか言われたら、まずない。
「そんな鉱山に、あたしたち入っちゃったんだね……」
ロビンがゴクリと唾を飲み込み、周囲をキョロキョロ観察する。
すると、クレスが「あはは」と笑った。
「オレも、一度しか来たことないな。まだ五歳だったっけ……退屈で、同行した騎士に『早く帰ろう』なんて、駄々こねたっけなぁ」
「お兄さまに、そんな過去があったなんて」
ミュアネは驚いていた。
ここで、タイクーンがため息を吐く。
「全く……もう鉱山内だぞ。無駄なおしゃべりはするな。ロビン、お前も斥候の役割を果たせ」
「はーいっ」
ロビンが先に進んだ。
弓士であるロビンだが、戦闘前は『斥候』としてチームの先を行く。
ロビンの能力は『必中』……弓士として最高の能力だが、それに慢心することなく、持ち前の身軽さを徹底的に鍛えた。
隠形、気配察知、周辺地域把握能力は、チーム随一。
誰よりも早く地形を把握することで、弓士として活躍するために最も適した場所に陣取ることができる。
サーシャは、そっと壁に触れた。
「クリスタル鉱山……不思議な輝きだ」
クリスタル鉱山内の通路は、天井も高く左右も広い。
そして、ところどころで剥き出しになっている透明なクリスタルの結晶が、淡く輝いているために非常に明るい。まるで昼間のようだ。
タイクーンが言う。
「ここのクリスタルは純度が低く、装飾品には向かないそうだ。まぁ、ここ以外のクリスタル鉱山ではかなり純度が高い部類に入るが」
「そうなんか? じゃあ、この辺のクリスタル何で残ってんだ?」
レイノルドが首を傾げる。
タイクーンは、眼鏡をくいッと上げた。
「見ての通り、装飾品には向かないが、光源として使い道がある。奥に進めば高純度のクリスタルがいくらでも採掘できるからな。わざわざランプの代わりになっているクリスタルを採掘する必要がない」
「ほー……そういうことかい」
すると、黙っていたピアソラが言う。
「クレス!!」
「うわっ、びっくりした……な、なんだい?」
「お願いいたします。ここのクリスタル、少しでいいから分けてくださらない? ククク……高純度のクリスタルを売れば、時間停止効果のあるアイテムボックスを買える……!!」
「別にいいけど……」
「やったァァァァっしゃぁぁぁぁぁぁ!!」
豪快に喜ぶピアソラ。
クレスは苦笑していたが、ミュアネの様子がおかしいことに気付く。
「ミュアネ、どうした?」
「い、いえその……私、あまりこういう洞窟とか、狭いところは」
「ああ~……そういや、そうだったな」
「む? ミュアネ、どうしたのだ?」
「サーシャ……ううん、なんでもないの」
ミュアネは首を振り、レイノルドの隣で歩きだす。
すると、クレスがサーシャの隣に。
「ミュアネ、こういう洞窟が苦手なんだ。悪い……言い忘れていた」
「気にするな。ミュアネに付いててやってくれ」
「ああ」
「…………」
「ん? どうした?」
「あ、いや……なんでもない」
「ふ、見惚れてたのか?」
「!!」
サーシャはそっぽ向き、タイクーンの隣に移動し歩きだす。
「な、なんだ? サーシャ」
「なんでもない!!」
「あ、ああ……」
タイクーンは、小さく首を傾げた。
◇◇◇◇◇
洞窟を進むこと五分、ロビンが戻ってきた。
完全に気配を殺し、いつの間にかいる。
チームでも、気配を殺したロビンに気付けるのはサーシャだけ。隠密技術だけならS級レベルの実力を持つロビンは、戻るなり言った。
「いる。クリスタルゴーレム」
「数は?」
「七。でも……妙なの」
「妙だぁ?」
レイノルドが言うと、ロビンは「うん」と頷く。
「ここから百メートルくらい奥に、鉱石採掘場があるの。天井もすごく高いし、休憩用の小屋とか水場とかもある。そこに七体いるんだけど……妙に統率が取れてるの」
「……統率だと?」
タイクーンが眼鏡を上げる。
「うん。二体は採掘場内を監視するように動いて、二体は採掘場奥の加工場かな? そっちの入口を守ってる。残り三体は採掘場内を監視するように立ってるだけ……まるで、何かを守っているみたい」
「魔獣にそんな知能が? おかしい……ゴブリンは三歳児程度の知能を持つ魔獣と言われているが、ゴーレムは鉱石や岩石が突然変異を起こし魔獣化しただけの存在だ。意志などない、目の前にいる敵だけを倒すようなモノだぞ」
「とりあえず、近づいてみるか」
サーシャが先頭に立ち、チームは進む。
そして、採掘場の中心に到着。入口から様子をうかがう。
「……かなり広いな」
採掘場内は広かった。
半円形のドーム状で、休憩小屋、水場、そして採掘で使う道具が散乱している。
サーシャたちのいる位置から反対側に、奥へ続く道がある。
そして、採掘場内を巡回する二体のクリスタルゴーレム。奥の道を塞ぐように立つクリスタルゴーレムが二体。監視するように三か所に分かれて立つクリスタルゴーレムが三体。合計七体のクリスタルゴーレムがいた。
「一体でも厄介なのに、七体とはな……」
タイクーンがボソッと言う。
「サーシャ、作戦は?」
「当然───変更は、ない!!」
ボッ!! と、サーシャの身体を闘気が包み込む。
そのサーシャの肩を、クレスがポンと叩いた。
「『倍加』!!」
すると、サーシャの隣に『もう一人のサーシャ』が現れる。
クレスの能力、『倍加』は、触れたモノを二倍にする。二倍にしたものに触れればさらに倍に増やすことが可能だ。
一見、地味な能力に見えるが……サーシャが二人いるだけで、かなりの戦力となる。
そして、ロビンが矢を数本取り出し、ミュアネへ渡す。
「お願い!!」
「うん!!」
ミュアネが矢を握ると、矢が赤く発光する。
飛び出したサーシャに合わせて矢を放つ。
矢は、クリスタルゴーレムの一体に命中し、爆発を起こした。
衝撃で、クリスタルゴーレムの腕が砕け散る。他のクリスタルゴーレムが一斉に起動した。
「ふふん、これが私の能力なんだから!! さぁ、みんな爆破してあげる!!」
ミュアネの能力、『爆破』
力を込めた武器に《爆破》の属性を持たせることができる。触れた時間が長ければ長いほど爆破の威力が増す。剣などにも爆破を付与できるが、使用者もダメージを受けるので、飛び道具に込めるのが一般的である。
「頼もしいな」
「ああ。そっちは任せる」
「わかった」
サーシャは、サーシャ(分裂体)と共に、クリスタルゴーレム討伐に向かった。