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S級冒険者が歩む道~パーティーを追放された少年は真の能力『武器マスター』に覚醒し、やがて世界最強へ至る~  作者: さとう
第十四章 S級冒険者序列二位『聖典魔卿』エクリプス・ゾロアスター

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S級冒険者序列五位『月夜の荒鷲』ウル・フッド

 ハイセはリボルバーをクレアに向けていた。

 クレアは双剣を抜き、肩で息をして、汗を流している。

 ハイセの表情はいつもと変わらない。クレアと模擬戦をする時、『四十人の大盗賊(アリババ)』を皆殺しにした時とも同じ……『いつもの日常』だ。

 だからこそ、読めない。


「───…行くぞ…」

「ッ!!」


 ドン!! と、ゴム弾が発射された。

 クレアは双剣で弾く。そして、二発、三発とゴム弾が発射され、クレアは辛うじて双剣で弾いた。

 弾丸。ゴム製で、当たっても死にはしない……が、当たり所が悪ければ骨に亀裂くらいは入るし、お腹や胸など柔らかい部分に当たれば悶絶する痛みが走る。

 近くにラプラスがしゃがんで様子を見ており、フェンリルのお腹をワシワシ撫でていた。怪我をしても大丈夫だが、これ以上治療費を払うとクレアは破産する。

 そう、現在クレアは、ハイセの銃弾を弾き飛ばす訓練をしていた。

 ハイセがシリンダーを開き、薬莢を地面に落とす。


「まっすぐ飛ぶ銃弾なら落とせるようになったか」

「な、なんとか……というか、勘で弾いてるところもあります。その、どういう原理なのかわかりませんけど、ただ飛んでくる小さな塊が、魔法よりも高威力なんて……今更ながらすごいです」


 この世界に、『火薬』はない。

 魔法で爆発を起こせるが、弾丸を飛ばすような複雑で緻密な爆発を起こすのは、どんな魔法師にも不可能だった。

 銃のように、小さな弾丸を連続で高速射出する技術は、あり得ない。

 だからこそ、初見でハイセと戦い銃弾を躱すのは、不可能なのだ。

 今回の場合、ハイセが「撃つ」と言い、引金をゆっくり引いたことで、クレアにもタイミングが計れた。だが、銃弾を視認するのは不可能だった。


「こ、怖かった……当たるとすごく痛いんですもん」

「だろうな。暴徒鎮圧用ゴム弾だから死にはしないが」


 ハイセは弾丸を込め、シリンダーを閉じる。


「さぁ、もう一度だ。この銃弾が見えるようになれば、大抵の速度ある攻撃は見切れる……と、思う」

「と、思う……ですか」

「まぁ、世界は広い。俺の武器よりも速い武器は、探せばあるかもな」


 ハイセはクレアに銃を向け、クレアは再び剣を構えるのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 朝食を食べ、新聞を読みながら紅茶を飲んでいた時だった。


「失礼する。ハイセはいるか?」

「……は?」


 なんと、サーシャがやって来た。

 鎧、剣を装備したいつもの冒険者スタイル。新聞を読むハイセを見つけると、入ってくる。


「朝早くからすまん。少し、お前に用がある」

「……食後なんだ。ゆっくりさせろ」

「すまん。その、速い方がいいと言うのでな」


 と、宿の入口にいたのは、ウルだった。

 帽子を取り頭を下げるが、ハイセは新聞を捨て立ち上がる。そして、腰にある自動拳銃を抜こうとしたところで、キッチンにいたシムーンが出てきた。


「わ、サーシャさん。それと、お客様ですか? 今、お茶を淹れますね」

「すまないな、シムーン」

「……チッ」


 ハイセは自動拳銃をホルスターにしまい、新聞を拾う。

 ウルも宿屋に入り、ハイセとサーシャがいるテーブルへ。空いた椅子に腰かけた。


「失せろ」


 眼も合わせず、ハイセはウルに言う。

 ウルは緊張しているのか、帽子をテーブルに置いた。

 

「お前さんが、オレを毛嫌いする理由はわかる。だが……話を聞いちゃくれねぇか」

「失せろってのが聞こえなかったのか」


 ハイセにとってウルは『アリババ討伐を邪魔した男』だ。しかも最悪なことに、引っ掻き回してさっさと逃げた卑怯者。

 ハイセは、サーシャを睨む。


「サーシャ。こいつ連れて帰れ。これ以上こいつがグダグダ言うなら、シムーンやイーサンの前だろうとブチのめす」

「……サーシャちゃんは関係ない。オレが無理やり案内を頼んだだけだ──ッ!!」


 ドン!! と、音がした。

 ハイセがテーブルの下で、ウルに向けてゴム弾を撃った。

 弾丸はウルの脇腹に命中。ウルは悶絶し、顔を歪める。

 ハイセは、ウルを睨んだ。


「黙ってろ。俺は、お前が嫌いだ。お前の話なんてどうでもいいし、俺は聞かない。お前がするべきことは、ここから失せるか、俺にブチのめされるかだ」

「ッ……っぐ」

「ハイセ!! 頼む、やめてくれ……こちらにも事情があったんだ」

「知ってる。巻き込まれたお前に同情はできるが、こいつに関わるならお前も同罪だ。忘れてるのか? こいつに関わったせいで『セイクリッド』は分裂しかけたんだろ」

「っ!…それを……」

「サーシャ、お前は優しい。こいつの話を聞いて、セイナとかいう女を救いたかっただけなんだろ。でもな……その優しさが、お前を苦しめた。サーシャ、お前にとって大事なのは『セイクリッド』と『禁忌六迷宮』だろ。こんなヤツに関わるな」

「……」


 サーシャは黙り込む。が、ハイセに言う。


「お前の言う通りかもしれん。でも……私は、困ってる人を助けたかっただけだ。あの時は、ウル殿が困っていた。ただ、助けたかった」

「お人好しだな。そんなんじゃ、大事な物失って後悔するぞ」

「かもしれない。でも……あの時は、あの選択が正しいと思ったんだ」


 サーシャは、微笑んだ。

 相変わらず、優しくて甘い。

 すると、脂汗を流していたウルが言う。


「『闇の化身(ダークストーカー)』……お前の気が済むまでオレを殴って痛めつけて構わねぇ。だから、話だけ聞いてくれ」

「………」


 すると、キッチンのドアが開き、お茶を用意したシムーンが来た。


「お茶が入りました! あの、ハイセさん、さっき破裂音みたいなのがしたんですけど……イーサン、何か悪戯でもしましたか?」

「気にすんな。それと、お茶ありがとうな」

「はい!!」

「あーいい湯でした!! あれ? サーシャさんに……えっと、誰でしたっけ?」


 クレアも風呂から上がり、ラフな格好で、首に手拭いを掛けてハイセの元へ。

 人が増え、やや面倒になってきたハイセ。


「……簡潔に用件だけ言え。そして、一分後に出てけ」


 ハイセはウルに言う。

 ウルは脂汗を流したまま、苦し気に微笑んだ。


「S級冒険者序列二位『聖典魔卿(アヴェスター・ワン)』エクリプス・ゾロアスターがお前に会いたがっている。詳しい話を聞いてくれるなら今夜、古商業区にあるバー、『ブライアンホーク』に来てくれ」


 それだけ言い、ウルは紅茶を一気飲み。

 出口でシムーンに「ごっそさん。お茶うまかった」と微笑みかけ、出て行った。

 残ったのは、ハイセ、サーシャ、クレア。

 

「……S級冒険者序列二位が、ハイセに?」

「お前も知らなかったのか?」

「あ、ああ……」

「えーっと、なんだかサッパリです。私はサッパリしましたけど。あはは、なんちゃって」

「……ハイセ、行くのか? S級冒険者序列二位……私は、嫌な予感がする」

「あの、ちょっと恥ずかしいんで流さないでくださいー」

「行く理由がない。S級冒険者序列二位? そいつが用事あるなら、あんな奴をメッセンジャーにしないで直接来ればいい。喧嘩売るなら買うけどな」

「……ハイセ」

「うう、無視……なんだか寂しいです、師匠ぉー」


 ハイセは紅茶を飲み干し、少しだけ考えた。

 サーシャが言う。


「そういえば、セイナ……ウル殿が救った少女が所属していたクランは、S級冒険者序列二位のクランだ。恐らく、それも関係している」

「……そういや、逃がした一匹がいたっけな」


 ハイセは、セイナとカーリープーランを逃がしたことを忘れていない。

 サーシャは迷う。セイナは今、『セイクリッド』で匿っているのだ。

 だが……サーシャはもう、噓は付きたくなかった。


「ハイセ。その……セイナのことだが」

「……居場所、知ってんのか」

「……セイナは今、『セイクリッド』で保護している。その、精神状態が悪くてな、まともな会話もできないし、食事や着替えもままならない状態だ」

「…………」

「……まだ、殺すのか?」

「脅威となるならな」

「それなら大丈夫だ。もう彼女は戦えない……生きるのに、精一杯だ」

「それが真実という証拠は?」

「私の言葉が証拠だ。ハイセ、約束する。もしセイナがまた、シムーンの誘拐に加担、実行したら……私がこの手で、始末をつける」

「………わかった。お前を信じる」


 ハイセは、サーシャの真っすぐな目を見て、サーシャを信じることにした。

 サーシャは礼を言う。


「ありがとう。ハイセ」

「…………」


 ハイセはサーシャを見て、ウルが出て行った扉を見た。


「……さて、どうしたもんか」

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〇S級冒険者が歩む道 追放された少年は真の能力『武器マスター』で世界最強に至る 2巻
レーベル:GAコミック
著者:カネツキマサト
原著:さとう
その他:ひたきゆう
発売日:2025年 10月 11日
定価 748円(税込み)

【↓情報はこちらのリンクから↓】
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お読みいただき有難うございます!
月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
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― 新着の感想 ―
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