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S級冒険者が歩む道~パーティーを追放された少年は真の能力『武器マスター』に覚醒し、やがて世界最強へ至る~  作者: さとう
第十三章 四十人の大盗賊

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202/422

銀の明星、蝕みの月

 S級冒険者序列五位『月夜の荒鷹(ヴェズルフェルニル)』ウル・フッド。

 彼は、ハイベルグ王国から南西にある国に足を踏み入れた。

 

「あ~……気が重いぜ」


 プルメリア王国。

 魔法の研究国であり、魔法系能力者たちが集まる国。

 ハイベルグ王国の属国ではあるが、今はほとんど交流がない。

 一応、王政ではある。だが……王家の力より、王都の四分の一を敷地とするクランが、ある意味で国を支配していた。

 ウルは、プルメリア王国で最も強大なクラン、『銀の明星シルヴァー・ヴェスペリア』へ。正確には、クランが運営する『プルメリア王立魔法学園』へやってきた。

 ウルは、冒険者カードを学園の正門受付で見せると、大きな門がゆっくり開く。

 足を踏み込むとそこは───まさに『学園』だった。


「かぁ~……相変わらず、若々しいぜ」


 プルメリア王立魔法学園。

 プルメリア王都の四分の一の敷地を持ち、魔法系能力者が魔法の使い方を学び、研究をする場。

 クランという形ではあるが、依頼を受けるための受付などはない。

 ウルは呟く。


「魔法を学び、研究するためだけのクランか……本来なら、『セイクリッド』より先に、五大クランとして名を残していたかもしれないクラン……」


 『銀の明星シルヴァー・ヴェスペリア』は昔から存在したクラン。だが……十年ほど前から、その規模や権力が一気に増し、今ではプルメリア王国を陰から支配しているとまで言われていた。


「S級冒険者序列二位……『聖典魔卿(アヴェスター・ワン)』エクリプス・ゾロアスター……ゾロアスター公爵家の『天才少女』か」


 クランをここまで巨大化させたのは、若干七歳の少女。

 少女は、十年かけてクランをここまで巨大化させた。

 

「恐ろしいぜ……」


 ウルはブルっと震えながら、要塞のような建物を目指す。

 敷地内にある大きな要塞……ではなく、そこは『生徒会室』と看板が掛けられていた。

 要塞に似つかわしくない、豪華な装飾が施されたドアをノックすると、ドアが開いた。


「お帰りなさい、冒険者様」

「どーも。頼まれたモン、持ってきたぜ」


 出迎えたのは、学生服を着た女生徒だ。

 長い黒髪をポニーテールにしており、ウルから見て全く隙のない少女だ。

 少女は一礼し、奥を指す。


「では、会長の元へご案内致します」

「おう。頼むぜ」


 少女と一緒に、建物の奥へ。

 奥に向かうに連れ、ウルは重圧を感じ始めていた。

 冷や汗を流さないよう集中───最奥にある、豪華な観音開きの扉の前へ。

 扉が開かれると、そこは広い空間だった。


「───いらっしゃい」


 聞こえてきたのは、凛とした声。

 しかしどこか、毒に侵されたような、甘ったるさもあるような、そんな声。


「……お届けモンだぜ」


 ウルはそれだけ言い、室内の奥にいる、豪華すぎる椅子に座った少女を見た。

 真っ白な腰まで伸びるロングストレートヘア。瞳の色はアイスブルー、学生服を着た華奢そうな少女だが、スタイルは抜群だとウルは見ている。

 髪がいくつか細い三つ編みに結われ、赤いリボンで結んであった。シンプルな髪型だが、少女の美貌があまりにも眩いので気にもならない。

 ウルは少女……エクリプス・ゾロアスターに圧倒されないよう、生物保管型のアイテムボックスから、セイナを出した。


「ガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチ……」

 

 セイナは、震えていた。

 酷い匂いがした。粗相したままだったのをウルは忘れていた。

 セイナは、目の焦点が合っていない。血塗れの指は嚙み続けたのか、今にも千切れてしまいそうだった。

 すると、室内にいた少女の一人が顔をしかめる。


「くっさいなぁ~!! コイツ、大も小も漏らしてんじゃん!!」


 そして、上品そうな少女も顔をしかめて言う。


「全く。このような汚物を、神聖な生徒会室に入れるとは……まったく、全く、全くもう」


 そして、ウルを案内した黒髪の少女が言う。


「ウル・フッド様。一度収納して頂けますか? さすがに、この状態では」

「あー、悪い」


 ウルがアイテムボックスにセイナを収納しようとしたときだった。


「待てよ。そいつ、ぶっ壊れてんじゃん。いちいち収納しねえで、殺しちまおうぜ!!」


 口元から牙を覗かせる少女が、犬歯を剥き出しにして言う。

 プルメリア王立学園生徒会。通称『黄金夜明(ゴールデンドーン)』……クラン『銀の明星シルヴァー・ヴェスペリア』の最高戦力たちが、揃っていた。

 すると、エクリプスが手で制し、そっとセイナに近づく。

 

「会長、汚れます」


 黒髪の少女が言うが、エクリプスは無視。

 座り込み、汚物で汚れ、ただ指を噛む少女の頭をそっと撫でた。


「セイナ」

「ガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチ」

「あなたは、何を見たの?」

「ガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチ……」

「あなたが、そこまで『壊れた』理由……教えてくれないかしら?」

「…………」


 セイナが、エクリプスを見た。

 エクリプスは、微笑を浮かべている。まるで聖母のような、包み込む笑顔だった。

 セイナは涙を流し、震える声で言う。


「み、み……見た」

「何を?」

「だ、だだ……ダ、『闇の化身(ダークストーカー)』……あ、あたし、殺そうと、赤い目で」

「……そう」

「し、死ぬ。死ぬ、死ぬ、死ぬ!! たた、助け、助けて……み、みんな、死んだ!!」

「……それは、あなたの仲間?」

「そう!! 仲間、死んだ……みんな!! し、しし、死んだの!!」

 

 セイナは、ハイセの殺気を受けて、心が壊されていた。

 エクリプスは小さく頷くと、ウルがセイナをアイテムボックスに収納した。


「序列一位、『闇の化身(ダークストーカー)』……」

「……おいエクリプスよ。悪いことは言わねぇ、奴に関わるな」

「あら、どうして?」


 エクリプスは、本当に不思議そうな顔をして、首を傾げた。


「対峙してわかった。ありゃバケモンだ。お前さんを初めて見た時もバケモンかと思ったが……あの死神は遥か上だ。関わろうモンなら、喰われるぞ」

「ふふ、それはいいわね」


 エクリプスは笑顔を浮かべ、自分の席に戻る。

 ウルは冷や汗を流しつつ、慎重に聞く。


「どうするつもりだ。セイナは裏切り者とはいえ、お前のクランに所属していた冒険者だ。お前さん……奴にやり返すつもりじゃないだろうな」

「……ふふ、そうして欲しいのかしら?」

「やめろ。お前さんと『闇の化身(ダークストーカー)』が殺しあったら、国一つ滅びるぞ」

「……ふぅん」


 エクリプスは椅子に寄りかかり、ウルの指にある、指輪型のアイテムボックスを指さす。


「ウル。今回の報酬は、白金貨十枚とその子をあげる。壊してもいいし、好きに調教して食べてもいいわ。若い子、欲しかったでしょ?」

「……そりゃありがたいね」

「それと───次のお仕事」

「……S級冒険者使いが荒いな。なんだ?」


 エクリプスは両手で頬杖をつき、妖艶にほほ笑む。


「S級冒険者序列一位、『闇の化身(ダークストーカー)』……戦争はしないけど、お仕置きは必要ね。彼の身辺調査を。大事な人がいれば、教えてほしいわね」

「……やめろ!! 『四十人の大盗賊(アリババ)』が虐殺されたのは、『闇の化身(ダークストーカー)』の身内に手を出したからだぞ!? 奴は一度決めたらもう、女子供だろうが容赦しない!! 本当にお前も死ぬぞ!?」

「ふふ。冗談……でも、会いたいのは本当よ? 実は私……縁談が来ているの」

「……は?」


 縁談? と、ウルは思わず言う……あまりにも、場違いな言葉だった。


「聞けば、『闇の化身(ダークストーカー)』は私と同い年。どうせ結婚するなら、つまらない貴族や王族のお坊ちゃんより、強くて面白い方がいいわ」

「お、おいお前、まさか……『闇の化身(ダークストーカー)』に求婚するつもりか!?」

「ふふ、さぁね。でも……彼を呼び出す道具なら、面白いのがあるわ」


 エクリプスは、机から古びた木箱を取り出す。

 そこには、古い文字で『神の箱庭』と書かれていた。


「……なんだ、そのきったねぇ箱」

私の友人(・・・・)がくれたの。ふふ、彼ならきっと、この箱に興味を持つ……ウル、彼に手紙を書くから、届けてちょうだい」

「……はぁぁ。わかったよ。ったく……今のオレは、奴に手紙届けるだけでも命がけなんだがな」


 そう言い、ウルは帽子を脱いで頭をボリボリ掻いた。

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〇S級冒険者が歩む道 追放された少年は真の能力『武器マスター』で世界最強に至る 2巻
レーベル:GAコミック
著者:カネツキマサト
原著:さとう
その他:ひたきゆう
発売日:2025年 10月 11日
定価 748円(税込み)

【↓情報はこちらのリンクから↓】
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お読みいただき有難うございます!
月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
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― 新着の感想 ―
クランをここまで巨大化させたのは、若干「七」歳の少女。  少女は、「十」年かけてクランをここまで巨大化させた。 生まれる前からやってたのか!! 精子と卵子の状態でやったん?
[一言] 今回の神の箱庭の攻略はサーシャは関与しない感じかな?別にサーシャとか他のキャラは嫌いって訳じゃないけど、最近ソロの冒険が少なかったからそろそろ完全ソロか新キャラとだけの回が欲しいと思った
[気になる点] エクリプスとカーリープーランが関係を持ってるのはほぼ確定みたいだけど何時頃からか気になる。七歳の頃には接触してたのかな? ハイセの婚姻関係の話は初なので周り特にプレセア辺りがどう動くの…
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