あとしまつ
『四十人の大盗賊』の壊滅。
ハイセ、クレア、プレセア、ヒジリ、イーサン、シムーン……そして、ロビンとサーシャ。
八人は集まり、周囲を確認……もう、敵はいなかった。
ヒジリは、満足そうに腕をぐるぐる回す。
「あ~楽しかった。『四十人の大盗賊』、けっこう強いやついたし、あのワニ野郎……ビビらなきゃもっと楽しかったのになー」
マッシモリッチは、ヒジリに殴り殺され転がっていた。
シャーレイ、バーベナ、フレイズ、ホーキンス、アルクたち……そして、『四十人の大盗賊』の主要メンバーたちは、全員死んだ。
だが、死ななかった者たちもいる。
「二人、逃がした」
ハイセが言うと、ロビンとサーシャが俯く。
そして、追い打ちをかけるようにハイセは言う。
「サーシャ、ロビン。俺たちの邪魔したんだ……あの男、そして連れ去った『四十人の大盗賊』の一人のことを教えろ」
「……わかった」
「サーシャ、いいの?」
「私も、正しいことをしたのか、ハイセたちの邪魔をしたのか整理がつかない。ロビン……お前の兄には悪いが、ハイセと敵対だけはしたくない」
「……うん、だよね」
「ね!! ロビン、あっちの部屋調べない? そういやここ、最上級のダンジョンだったわ。くふふ、このまま踏破しちゃうのもアリかも?」
と、ヒジリがワクワクしながらロビンの手を引く。
「わわ、ちょっとヒジリ~……」
「ね、サーシャ、ハイセ。ロビンを借りるわよ、ほらアンタたちも行くよ!」
そう言い、ヒジリはロビンを連れて、クレア、プレセア、シムーンと、他の部屋を調べに行った。
サーシャはため息を吐き、ハイセに事情を説明する。
「……ロビンの兄が、S級冒険者序列五位か。で、そいつが『銀の明星』とかいうクランに雇われている、か……」
「ああ。そのクランは序列二位、エクリプス・ゾロアスターの運営するクランであり『学園』だ。セイナは、そのクランの幹部らしい……お前が手を下すと、エクリプスが動く可能性があるとか」
「関係ない。序列二位だろうが何だろうが、シムーンを攫った関係者に慈悲なんて与えない。サーシャ……お前の事情は理解した」
「……すまない。お前が『四十人の大盗賊』を追っていたことは聞いたが、まさかシムーンが誘拐されていたなんて。それを知っていれば、私も……」
「もういい。それより……『四十人の大盗賊』は壊滅した。ボスだけは逃がしたが……まさか、魔族だったとはな」
そう言い、ハイセはイーサンを見た。
「イーサン。お前も、能力……いや、『スキル』に目覚めたようだな」
「は、はい……なんか、すごい『雷』が出ます」
「……その力は、シムーンを守ろうとして得た力だ。使い方を間違えるなよ」
「はい!! おれ、もっと鍛えて強くなります!! 雷使いの大工を目指して頑張ります!!」
「……あ?、ああ」
雷使いの大工……聞いたことのない組み合わせに、ハイセとサーシャは顔を合わせるのだった。
すると、奥の部屋からヒジリたちが来た。
「おーい!! すっごいお宝いっぱいあるわ!!」
「盗品ね」
興奮するヒジリの手には、黄金の王冠があった。
プレセアは冷静に言うが、ロビンが首をかしげて言う。
「ね、サーシャ。ダンジョンのお宝じゃないけど、こういう盗品って、見つけたらどうなるのかな~?」
「……まずはギルドへ報告だな。ダンジョンに隠されていたとはいえ、盗品に変わりない」
「だよねぇ。ヒジリ、残念だったね」
「うぅぅ……まぁ、いいか」
ヒジリは残念そうにしていたが、すぐに切り替える。
「じゃ、さっさと帰りましょ。ここ、死体だらけで気分悪いわ」
「そうね。ダンジョンの死体は、放っておけばダンジョンに吸収されるはず」
「そうなんだ……イーサン、知ってた?」
「ううん、知らない」
イーサン、シムーンも、普段通りに戻っていた。
ハイセは、二人に言う。
「さぁ、帰ろうか。じいさんが心配してるぞ」
「はい!! おじいちゃん、会いたいな」
「おれも。あの、ハイセさん……」
「ん?」
「その、じいちゃんにお土産、買いたいです」
「……ふ」
ハイセは少しだけ微笑み、イーサンの頭を撫でた。
◇◇◇◇◇◇
ハイセたちと別れ、サーシャとロビンは宿に戻ってきた。
「お、二人とも帰って来たか」
「あぁん!! サーシャってば、私を差し置いてロビンと二人でぇ!!」
「用事と聞いたが、もう済んだのか?」
宿のロビーに併設されている喫茶スペースで、三人揃ってお茶を飲んでいたようだ。
サーシャは、ロビンと顔を合わせる。
「……依頼のことは内緒だぞ」
「うん。ややこしいもんね」
サーシャ、ロビンは三人がいるテーブルへ。
紅茶を注文し、さりげなく話題を変えた。
「みんな、休暇は楽しんでいるか?」
「まぁな。というか、毎日酒飲んでるせいでダルいぜ……明日はマッサージでも受けようか考えていたんだ」
「私はサーシャと美容エステに行きますの。ふふふ……私のお誘い、受けてくれますわよね?」
「あ、ああ」
「ボクは図書館だ。ここの図書館には興味深い本が山ほどある」
「ね、ピアソラ、美容エステあたしも行きたいな~」
いつもの日常。久しぶりの休暇、だが…。
「…………」
「サーシャ? どうしましたの?」
「……いや」
サーシャは、今を楽しもうと、何とか笑顔を作るのだった。
◇◇◇◇◇◇
ハイセたちは、ハイベルグ王国に戻ってきた。
そして、宿屋へと帰り、ドアを開ける。
「───……おお」
「おじいちゃん!!」
「じいちゃん!!」
主人はカウンターを出て、シムーンとイーサンを抱きしめる。
イーサン、シムーンは涙を流し……主人の胸に顔を埋める。主人も、顔をしわくちゃにして涙を流していた。いつの間にか、二人は本当の孫と同じくらい、大事な存在だったのだろう。
すると、ハイセの隣にラプラスが。
「私の中の神が言っています……『お帰りなさい、留守番終わりました』と」
「……ほれ」
ハイセは白金貨を一枚、ラプラスの手に落とす。
「おおお! よ、よろしいので?」
「金貨のがよかったか?」
「いえいえ。ではダークストーカー様、私はこれにて失礼。神が叫んでいます……『美味い酒飲め』と」
ラプラスはダッシュで帰ってしまった。
主人はシムーンたちを離し、ハイセに言う。
「……ありがとう。お前さんには」
「そういうのはいい。やって当然のことをしただけだ」
「……ふ、そうか。そちらのお嬢さんたちも、ありがとう」
「いえいえ。私、あんまり役に立ってないですけど……」
「シムーンは友達。当然よ」
「アタシ、戦えればなんでもいいわ。ま、楽しかった!!」
こうして、ボロ宿に笑顔が戻った。
ハイセは椅子に座り、シムーンに言う。
「シムーン。久しぶりに、お前のお茶が飲みたい……頼めるか?」
「はい!! お任せください。あ、おじいちゃん、お菓子の材料あるかな?」
「おお、あるぞ。ふふ……ワシも手伝おう」
『きゃんきゃんっ!!』
「わ、フェンリルちゃん。えへへ、ただいま。よーし、皆さんのお茶、淹れますね!!」
「はい!! シムーンちゃん、よろしくお願いします!!」
「ふふ、にぎやかね」
「シムーン、ケーキ食べたいわ!!」
一気に騒がしくなり、ハイセはため息を吐く……が、どこか楽しそうに見えたのは、きっと気のせいではないだろう。





