白の騎士
シャーレイは、荒い息で自分の右腕を見た。
右肩、二の腕、手の甲に穴が開き血が止まらない。さらに、中指と親指が消失している。
ハイセのアサルトライフルを躱しきれなかった結果が、ここにあった。
「はぁ、はぁ、はぁ……クソ、怪物め……!!」
「…………」
一方のハイセは、無傷でカービン銃のマガジンを交換。
あまりにも、強かった。
シャーレイは、ハイセの能力が『地面を爆破物に変える』ことだと思っていた……が、爆破する地面以上に、ハイセの持つ『武器』が脅威だった。
何か、小さな鉄が飛んでくる……それだけの武器が、こうも恐ろしい。
躱すことも、視認もほぼ不可能。気づいたら腕が穴だらけ。
「ダーク、ストーカー……!! 初めてだ、この組織にここまで盾突いた男は」
「あっそ」
ハイセは嗤った。
シャーレイを嘲笑った。そのことに、シャーレイが青筋を浮かべる。
「別に、どうでもいいんだよ」
「……何?」
「お前らがどこで何をしようが、誰を殺そうが、何を盗もうが、俺には関係なかった」
「…………」
「だがお前らは、俺の日常に踏み込んだ。お前らが滅ぶ理由は、それだけだ」
「貴様ぁぁぁ!!」
シャーレイは、氷で腕を凍結させ止血。左腕で氷の剣を構え、ハイセに向かって走り出し───……。
「バーカ」
ボン!! と、踏み込んだ瞬間に爆発。右足が膝下から吹き飛び、地面を転がった。
「っぐ、ぁぁぁぁぁぁ!!」
もう、立てない。
ハイセがゆっくり近づいてくる。
カービン銃を消し、手には大型拳銃を。
引き金に指を添え、シャーレイに向ける。
「……謝れば、許してくれるか?」
「…………」
引き金が引かれた。
心臓に四発撃ちこみ、倒れたところで頭に三発。
確実な死を与えるため、シャーレイが死んでもハイセは引金を引いた。
◇◇◇◇◇◇
「おぉぉぉぉッホッホッホォォォォォォッ!!」
「くっ……!?」
ジョキジョキジョキ!! と、大きな鋏を両手で操りながらの攻撃。
ホーキンスの猛攻。サーシャは剣で鋏を受けながら、鋭い攻撃を躱す。
なんだ、こいつは。
それが、サーシャが感じたホーキンス。
正直、猛攻とはいうがサーシャにとって躱すのも受けるのも大した問題ではない。
ホーキンスの鋏が、サーシャの髪に触れた。
「美しい髪ぃ!!」
「サーシャ!!」
ロビンの援護。
矢が飛び、ホーキンスの頭に矢が刺さる。
「んん、無駄ぁ!!」
だが、矢が頭に刺さることはなかった。
まるで、柔らかいモチのような皮膚が、矢を弾いたのだ。
サーシャの斬撃も、餅を箸で撫でるような感覚……そう、斬れない。
ホーキンスの能力『軟体』が、斬撃や刺突を無効化していた。
そして、ホーキンスの鋏がサーシャの腕に軽く触れ、血が出た。
「くっ……」
「サーシャ、大丈夫!?」
「ああ、問題ない」
ロビンが近づき傷を確認する。どうやら毒などは塗られていないようだ。
「ピアソラがいたらブチ切れてたね……」
「違いない。ロビン、奴は強敵だ。本気でいくぞ」
「うん!!」
すると、ホーキンスは……サーシャの血が付いた鋏を舐め、口をモチャモチャと音を立てながら全身全霊で味わっていた。
「お、ォォォォォォ……───甘露」
ぶるるっ、と震え、涙を流す。
あまりの狂人っぷりに、サーシャもロビンもドン引きする。
「な、なにこいつ……」
「……気持ち悪い」
「いい!! 貴女、最高ですぞ!! 私が食らった肉の中でも最上級……クククっ、光栄に思いなさい。あなたの頭部は、我がコレクション棚の最上段に飾る!!」
「「…………」」
「くくっ、肉は刺身、ソテー、ああ……極上のワインを用意せねば。その柔らかそうな乳房はどう食しようか? おぉぉ……考えただけでも、もう、もう!!」
「「…………」」
おぞましい生物。
サーシャとロビンは顔を見合わせた。
「こいつ、キモくてヤバイよぉ」
「同感だ。食す? た、食べるというのか?」
「……コレクションとか言ってるけど」
「……こいつの被害者がいた、ということか。ロビン、どうやらこいつは生かしておくわけにはいかないな」
「うん。サーシャ、マジでやっちゃって」
「ああ。───……こいつに使うのも癪だが、見せてやろう」
サーシャは闘気で全身を覆う。黄金の闘気の輝きに、ホーキンスは歓喜した。
「美しい!! おお、美しい!!」
「美しい、か……貴様の言葉でなかったら、素直に喜べた」
「ほ?」
「どうやら貴様は、S級冒険者に匹敵する強さのようだ。だったら……見せてやろう」
黄金が、変わる。
白みがかった銀───……白銀色。
黄金に変わる前の闘気は銀色だったが、こちらの色はクロスファルドが見せたプラチナ色に近い。だが、サーシャの闘気の色は、銀よりも白に近かった。
「え……さ、サーシャ?」
ロビンも知らない色の闘気に、驚きを隠せない。
サーシャは言う。
「二分───……今の私がこの闘気を使える時間だ」
「サーシャ、いつの間に……」
「なに、クレアが闘気の色を青に変えた時から考えていた。私にも、私の闘気の色があるのではないか、とな……私はどうやら、この色がもっともしっくりくる」
剣を構え、白の闘気が剣を包み込む。
ホーキンスは両手を広げ……歓喜の涙を流していた。
「ああ───……白の女神が、私の前に」
サーシャは走り出す。
そして、剣を振るった。
「白帝剣───『白帝神話聖剣』」
四肢を、首を両断されたホーキンスは、とても澄んだ笑みを浮かべて言った。
「ありがとう───」
サーシャは剣を収め、笑顔のまま転がっているホーキンスの首を見て言う。
「どうか安らかに、とは言わないからな」
◇◇◇◇◇◇
カーリープーランは、周囲を見渡していた。
主戦力はほぼ壊滅。シャーレイ、ホーキンスも死亡。マッシモリッチは生きているが、ヒジリに殺されるのは時間の問題。
残った戦力は十にも満たない。
「終わりかねぇ」
SS級盗賊団『四十人の大盗賊』は、壊滅寸前。
ハイセを怒らせたのがまずかった。と、今更ながらに反省する。
だが……収穫は、あった。
「……魔族の双子。くくっ……『四十人の大盗賊』壊滅を差し引いても、おつりのくる収穫。まぁ……ここでの回収は難しいねぇ」
すると、聞こえてきた。
「うぎゃあぁぁぁぁ!?」
「さぁさぁ、まだこんなモンじゃないでしょ!? もっと、もっとヤろう!!」
ヒジリが、マッシモリッチの腕を引きちぎった。
マッシモリッチは、ヒジリに完全に恐怖している……負け犬の目をしていた。
「あれはダメだねぇ」
イーサンは、フレイズと戦っている。
ハイセは、残った構成員たちを始末し、クレアも戦いに参加、プレセアはシムーンを守るように周囲を警戒。
ちなみに、カーリープーランは自身に『気配を希薄に』と言って、気配をできるだけ消していた。
「まぁ、だいぶ稼げたしね。私は、私のために動くとしようかねぇ。例えば……とある魔法学園にいる、お嬢様に助けを求めようか。ちょうどいい手土産もある」
カーリープーランの手には、一枚の羊皮紙があった。
かなりボロボロの羊皮紙だ。それを装飾の施された木箱に入れ、紐をする。
木箱には、文字が彫られていた。
そこに書かれていたのは、『神の箱庭』
「さて、私はここで失礼しようか。ふふ……『四十人の大盗賊』の終焉を見届けられないのは、少しだけ残念かねぇ」
そう言い、カーリープーランは消えた。
ダンジョンから、自身の『スキル』を使い脱出した。





