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S級冒険者が歩む道~パーティーを追放された少年は真の能力『武器マスター』に覚醒し、やがて世界最強へ至る~  作者: さとう
第十三章 四十人の大盗賊

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黒の砦

 黒の砦。人間界屈指の最上級ダンジョン。

 現在、最上級レベルのダンジョンは四つ確認されている。

 大型魔獣が闊歩する『破滅のグレイブヤード』。

 世界中の危険植物が集まる『アカシヤの森』。

 一度入ると脱出が困難な天然の迷路『レストレイント大鍾乳洞』。

 そして、深き森の中心にある巨大遺跡『黒の砦』。

 シムーンは、シャーレイ、フレイズ、バーベナの三人に連れられ、目の前にある砦を見上げていた。


「…………」

「どうだ? 壮観だろう」


 シャーレイに言われ、シムーンはハッとする。

 黒の砦。漆黒の外壁に囲まれた、ハイベルク王城のような荘厳な建物だ。砦というのに相応しい頑強さが感じられ、入口は鉄の門で守られている。


「最上級ダンジョンの中でも、屈指の難易度を誇る『黒の砦』だ。我々『四十人の大盗賊(アリババ)』の本拠地でもある」

「ダンジョンが、本拠地……」

「ああ。本拠地があるのは、砦の隠し部屋だ。普通に入ればまず到達することはない。入れるのは、我々だけ……ふ、いずれお前にも教えよう」

「……いいんですか。私、いろんな人にお喋りしちゃいますよ」

「すればいい。それに……我々の『ボス』が、お前に『ロック』をかければ、誰にも話すことはできない」

「……ロック?」

「まあ、その名の通りの『枷』だ。詳細は不明だが、ボスの『能力』と思え」

「……能力」


 警戒するシムーン。すると、フレイズが言う。


「おいシャーレイ、こんな門の前でお喋りしてねーで、中入ろうぜ。お宝の山分け早くしてーんだよ」

「同感~。ふふん、シムーンちゃん、あんたも加入記念に、何かもらえるかもねぇ」


 バーベナがシムーンの頭を撫でるが、シムーンはその手を振り払った。

 

「わお、反抗的」

「……本当に、このままでは済みません。お願いします、私を解放してください」

「はっ……愚問だな」


 シャーレイは嘲笑った。


「序列一位、『闇の化身(ダークストーカー)』が来るだと? それが真実だとして、いつ来るというのだ? 仮に、このダンジョンに乗り込んだところで、我々の所には到達できん。到達できたところで、メンバー三十五人が揃った状態で何ができる? 我々は全員が、S級冒険者に匹敵するか、それ以上の力を持つ。たった一人で何かできるなど、思い上がりも過ぎる」

「…………」

「ま、オレとしてはヤりてぇけどな」


 フレイズの手がボッと燃える。

 バーベナも、袖から垂れる鎖でチャラチャラ音を立てた。


「…………」


 シムーンは、もう何も言わずに肩を落とした。


 ◇◇◇◇◇◇


 シムーンは目隠しをされ、バーベナの鎖で拘束された。

 まだ、秘密の通路については教えてもらえないらしい。しばらく進むと目隠しが外される。


「……ぅ」


 まぶしい光だった。

 天井が高く、室内も相当な広さだ。ただ、周りには何もなく、四方に入口が一つずつある。

 室内には、何人もの男女がいた。全員が若く、何やら楽しそうに話をしている。

 すると、シャーレイが言う。


「ここは『黒の砦』の隠し部屋、我々は『大会議室』と呼んでいる……四方に入口があるだろう? 一つはボスの部屋に、もう一つは我々の居住区、一つはダンジョンに戻る通路で、最後の一つは宝物庫に繋がっている」

「……こんな場所が」

「なぜ、ダンジョンにこんな部屋があるのかは不明だがな。利用させてもらっている」


 すると、一人の紳士が近付いてきた。

 年齢は三十後半ほど。ダークピンクのスーツに、腰に太いベルトを装備している。ベルトにはいくつものポケットがあり、そこに差してあったのは全て、シムーンも使ったことのある『ハサミ』だった。

 紳士は完璧な一礼をする。


「これはこれは、美しいお嬢さん方……初めまして。ワタクシは『殺戮魔刃(ジャックザリッパー)』、ホーキンス・チョッパーと申します。以後、宜しくお願い致します。こう見えて、元S級冒険者です」

「元S級冒険者という肩書なぞ、ここでは無意味だと教えておこう。ちなみに、私も元S級冒険者だ」

「これはこれは。フフ……アナタも素晴らしい《肉》をお持ちだ」


 ホーキンスの目は、尋常でないほどギラついていた。

 そして、大きな欠伸をしながら近づいてくる男が一人。


「やあやあ、挨拶挨拶。おいらはマッシモリッチ。見ての通り『鰐獣人』だよ。きみたちの組織に助けられてねぇ。これからお手伝いすることにした。よろしくね」


 見た目は、完全な鰐。

 だが、その肉体は頑強そのもの。上半身裸だがとんでもなく分厚い筋肉に覆われている。口を開けると牙がズラリと並んでおり、シムーンは恐怖で青くなる。


「お、きみがオイラたちと同じ『オークション』の商品かい。ふんふん……強そうには見えないけどなあ」

「ひっ……」


 マッシモリッチが顔を近づけると、生臭い香りが鼻に突く。

 

「ふふ、うまそう……そういや、しばらく肉を食ってなかったなぁ」

「……やめておけ。ボスに殺されたくはあるまい」

「おっと。それは勘弁。じゃあ、あっちで挨拶してくるから。またね~」


 マッシモリッチは行ってしまった。

 ホーキンスも一礼。一人がいいのか、少し離れた場所に移動した。

 すると、入口から慌てて駆けこんでくる四人の姿。


「おいおいおい、オレら最後かよ!!」

「前日入りすれば一番とか言ってたじゃん!! ってか前日どころか、当日ギリギリだし!!」

「あーあ……目立ってる。どうすんの?」

「ハハハッ!! まあいいだろ。目立つのはスキだ!!」


 シムーンが見たのは、少年と少女、翼の生えた少年、そして狼獣人の少年だった。

 慌てたように駆け込み、全員の注目を浴びている。


「あ、シャーレイ。久しぶりじゃん」

「アルクか。ノルマはどうした? 大口を叩いたのだから、新メンバーは連れて来たんだろうな」

「うっぐ……い、痛いところ突きやがる」

「ごめんシャーレイ。お兄ちゃんってば口ばっかりでさー」

「苦労が絶えないな、セイナ」


 アルク、セイナの二人は、シャーレイの傍にいるシムーンを見た。


「お、そいつがオークションの商品か?」

「魔族だっけ。あれれ? 肌白いし、ツノないけど」

「っ……」


 一歩下がるシムーン。すると、サーズとウルフスがシムーンの後ろに回る。


「普通のヒトにしか見えないけどなー」

「でもでも、強いんだよな!!」

「やめておけ。後にボスに届ける予定だ。と……これで全員か?」


 シャーレイが室内を見渡すと、来ていないのは四人だけ。


「ショディケルとジュビーナ。グレイハルトにアディーレ。ペアの連中が来ていないか」

「マジで。ショディケルの野郎どもはいつものことだろ? グレイハルトさんとアディーレさんが遅いのは珍しいな」

「ああ。まぁいい……」


 シムーンを入れ、総勢三十名が集まった。

 すると───ボスの部屋に続く通路から、気配がする。

 アルクは言う。


「ボスか……声しか聴いたことないぜ」

「あたしも。女の人、だよね……」


 セイナは緊張しているようだった。

 この中で、ボスに直接会ったことがある者は、誰もいない。

 シャーレイでさえ、ボスのいる部屋に近づくことができず、声だけしか聴いたことがなかった。

 それがなぜ、今になって姿を見せることになったのか。

 その答えが──すぐ、目の前にあった。

 通路から姿を見せたのは、身長が二メートルほどある大きな女性だった。


「……えっ」


 全員が、驚愕した。

 アルクたちも、シャーレイたちも、他のメンバーたちも。

 中でも、特に驚いていたのは……シムーン。


「この姿で会うのは、初めてねぇ」


 女は、身長二メートルほど。

 筋骨隆々で、手には黄金の煙管を持っている。

 白い髪は大きなお団子にまとめられ、真紅の瞳は優し気に輝いている。

 肌は褐色。年齢は四十代前半ほど。煙管を吸って煙を吐くと……その煙は、虹色に輝いていた。

 何より目立つのは、側頭部に生えた二本のツノ。

 誰かが、ポツリと呟いた。


「ま……魔族」


 SS級盗賊団『四十人の大盗賊(アリババ)』のボス、『盗賊の女王』カーリープーラン。

 彼女は──魔族だった。


「あたしはカーリープーラン。見ての通り、魔族さ。可愛い子供たち、驚いたかい?」


 カーリープーランはクスクス笑う。

 そして、視線がシムーンに向いた。


「こうして姿を見せるつもりになったのは、アンタのおかげさ。シムーン」

「わ、私……?」

「お前と、もう一人の片割れ……お前たち、『突然変異体(ナンセンス)』だね?」

「え……?」

「魔族の突然変異態のことさ。数千万分の一の確率で生まれる特殊個体。存在そのものが奇跡。知ってるかい? ナンセンスの身体は普通の魔族と全く素材構成が異なる。流れる血は万能薬に、内臓は霊薬の素材、脳は食せば魔族の《スキル》を拡張させる。くくっ……お前たちの両親は真正の大馬鹿だ。お前たちを魔界錬金術師に見せれば、ひと財産築けたというのに」

「え、え……」

「お前と、もう片割れは、これまで『四十人の大盗賊(アリババ)』の集めた全ての宝と比べても比較にならないほどの宝。お前と弟の脳を喰らい、アタシのスキルを拡張させれば──ふふ、人間界のお宝は全て、アタシらのモンだ」


 シムーンを見る全員の目が、ハイエナのように獰猛になった。

 シムーンはブルリと震えた。


「全員、喜びな。ふふ……そいつと、弟が揃えば……もう、怖いモンなんてない。たとえS級冒険者が来ようとも、アタシの『スキル』でお前たちを『改造』できれば、敵じゃないよ」


 カーリープーランは、邪悪だった。

 すると、シャーレイがシムーンの腕を掴む。


「ボス。殺しますか?」

「ひっ」

「今はダメだ。弟を連れて、二人同時に喰らうとする。それに、内臓や血は霊薬の素材になる。必要な材料も集めておかないとねぇ」

「かしこまりました。では、監禁しておきます」

「そうだね。ふふふ……悪いねぇ、すぐに弟も連れて来てやるよ。さて、次は宝の山分けだね。全員、これまで集めた宝を出し


 ◇◇◇◇◇◇



 次の瞬間───入口が爆発し、黒い何かが転がって来た。



 ◇◇◇◇◇◇


 黒い何かは、シャーレイの近くまで転がった。

 よく見るとそれは、人間だった。

 かろうじて呼吸している。両腕が肘から消滅し、両足も炭化していた。

 アルクは気付いた。


「ぐ……ぐ、グレイハルト、さん?」


 名を呼んだ瞬間、黒い何かは事切れた。

 全員が、入口に注目した。

 コツン──コツン──コツン──と、何かが歩いてくる。


「…………あぁ──いたいた」


 それは、黒いコートを着ていた。

 右目に眼帯をしていた。

 真紅の瞳が、凶悪に輝いていた。

 右手で、女の顔面を鷲掴みにしていた。両腕が千切れ飛び、下半身が消失した女の身体だ。散弾銃を近距離で受け、下半身が吹き飛んだようだった。

 左手で散弾銃を掴み、肩をポンポン叩いている。

 おぞましいほど、恐ろしいほど、狂いそうなくらい凶悪な殺気を放っていた。


「楽しいな」


 黒いナニカ──……ハイセは、楽しそうに顔を歪めて嗤っていた。

 右手で摑んでいた女の顔面が、べきべきぐちゃっと音を立てて潰れていく。ビクビク痙攣し、ハイセはその身体を放り投げた。


「お前らには、価値がない」


 ゆっくりと歩き、散弾銃で肩を叩く。


「よくも……俺の大事なものを、踏みにじったな」


 誰も動けない。

 S級冒険者序列一位『闇の化身(ダークストーカー)』の殺気に、飲まれていた。


「全員──喰い殺してやる」

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〇S級冒険者が歩む道 追放された少年は真の能力『武器マスター』で世界最強に至る 2巻
レーベル:GAコミック
著者:カネツキマサト
原著:さとう
その他:ひたきゆう
発売日:2025年 10月 11日
定価 748円(税込み)

【↓情報はこちらのリンクから↓】
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お読みいただき有難うございます!
月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
連載中です!
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― 新着の感想 ―
[一言] ハイセ血祭りの時間だ でしゃばりのサーシャは邪魔だけどな
[良い点] ハイセ無双楽しみにしています [気になる点] サーシャが変な横槍を入れなければいいけど……
2023/08/10 11:11 退会済み
管理
[良い点] ハイセが激高して出て来るのでは無く淡々として登場する所が二つ名の『闇の化身』みたくて良いね。 [気になる点] カーリープーランが「この姿で会うのは、初めてねぇ」と言うのは初めて姿を見せたか…
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