SS級盗賊団『四十人の大盗賊』のボス
ハイセたちは、『夢と希望と愛の楽園』にある中規模の宿で部屋を取り、『四十人の大盗賊』殲滅に向けて動いていた。
現在、プレセアが椅子に座って目を閉じ集中している。
汗を流し、呼吸も荒い……『精霊使役』をフルに使い、クラン内にいると思われる『四十人の大盗賊』の構成員を探していた。
クレアは、剣を磨きつつプレセアを見た。
「プレセアさん、大丈夫でしょうか……」
その問いに答えたのは、ベッドに寝転がっていたヒジリ。
「大丈夫でしょ。よくわかんないけど、プレセアが『任せて』って言ったんだし」
「でも、すごい汗です。少し休憩した方が……」
現在時刻は夕方前。プレセアは朝食を食べる終えると、すぐに探索を始めた。
お昼も食べず、半日以上『能力』を酷使している。
すると、隣の部屋を取っていたハイセ、イーサンが来た。
「入るぞ。プレセアの様子はどうだ」
「すごく集中しています。あの、師匠……プレセアさんを、休ませた方が」
「大丈夫。もう終わったから」
と───ここでプレセアの目が開いた。
呼吸を整え、クレアが差し出した水を一気に飲み干す。
「クラン内にいる『四十人の大盗賊』の位置をほぼ把握した。人数は二十二名……話によると、ここは合流地点であって、各チームのリーダーが軽く顔合わせをして、それぞれのチームで本部へ向かうみたい」
「なるほどな……数は間違いないか?」
「ええ。新入りの二名はすでに向かったらしいわ。シムーンはまだここにいる」
と、イーサンが立ち上がる。
拳を握り、今にも飛び出そうとするが。
「飛び出すなら、叩きのめすからね」
ヒジリが僅かに殺気を籠めると、イーサンの身体がビクッと跳ねた。
「最悪なのは、アンタがバカ騒ぎして『四十人の盗賊』の連中に目を付けられること。いい? 無謀なことしないように。アンタが活躍する場面はきっとあるから」
「……はい」
イーサンは再び椅子に座りなおす。
ハイセは意外そうにヒジリを見るが、何も言わなかった。
「それと、気になる情報が……『四十人の大盗賊』のボスだけど、名前だけはわかったわ。問題は、ボスは一度も仲間たちの前に姿を現していないみたいなの」
「……何?」
「でも今回、初めて姿を見せるらしいわ。そんな話をしていた」
「……ボスの名前は?」
「冒険者でも何でもない人らしいわ。『盗賊の女王』カーリープーラン。わかっているのは、女ということ、『四十人の大盗賊』の創立者ということ、彼女を除いた三十九人が逆らえない『力』を持つということね……どうして今回、姿を見せる気になったのかは、構成員たちも疑問に思っているみたい」
「…………」
ハイセは少し考える。
ガイストの情報には『カーリープーラン』という名前はあった。信じていないわけではなかったが、これで確定だろう。
「集会まで、残り三日だ。全員、準備を怠るなよ」
『四十人の大盗賊』の殲滅戦まで、もう間もなく。
◇◇◇◇◇◇
『四十人の大盗賊』、四人チームの一つに所属する金髪ロングヘアの少女セイナは、ベッドの上で本を開き、羊皮紙に何かを書いていた。
それを、兄であるアルクが見て言う。
「セイナ、何書いてるんだ?」
「宿題~……私、学生でもあるしね。今は長期休暇中だから『四十人の大盗賊』の活動もできるけど、学園始まったらそっち優先にしちゃうし。『銀の明星』のクラン活動もあるし、忙しいのよ」
「宿題ね……学校とか、楽しいか?」
「ま、普通。でも、S級冒険者序列二位のクランなだけあって、秘宝とか、貴族のお宝とかの情報、けっこう集まるんだよね」
セイナはニヤッと笑う。
すると、本を読んでいた翼人のサーズが言う。
「それってさぁ、大丈夫なの?」
「何が?」
「いや、バレたらヤバイじゃん。殺されるんじゃない?」
「そんなヘマしないし。こう見えて私、幹部組織である『黄金夜明』の一人なんだから。エクリプスの信頼もあるし、問題なし」
「ふーん。ま、ボクらに危険が及ばなきゃ別にいいけどね」
「オイお前ら、いつになったら本部に行くんだ?」
と、オオカミ獣人のウルフスが尻尾を揺らしながら言う。
アルクは椅子に座り、大きく伸びをしながら言った。
「明日には出発するかぁ。集会もあるし、前乗りしてボスに『仲間勧誘できませんでした!』って先に謝っておこう。それに、新人たちは先に行ったみたいだし、挨拶するのもいいしな」
アルクが言うと、特に反対意見は出なかった。
◇◇◇◇◇◇
サーシャ、ロビンの二人は、ウルと別れ宿に戻ってきた。
「お、帰ってきたか」
ロビーで待っていたのか、レイノルドがいた。
「サーシャ、ロビン、晩飯食ったか? まだなら行こうぜ」
「あれ、レイノルド……もしかして、待っててくれたの?」
「いや、タイクーン誘ってこれから行く予定だ。あいつ、読書しながら歩いたせいで盛大に転んで、眼鏡割っちまったんだと……今、替えの眼鏡取りに部屋に戻ってる」
「ふーん。ピアソラは?」
「あいつ、大量に化粧品買いこんで、今はメイクの真っ最中だ。晩飯誘ったけど『お化粧のノリがイマイチなので遠慮します!』だとさ……意味わからん」
「あはは……」
ロビンが苦笑すると、サーシャが言う。
「すまない。夕飯はもう済ませてきたんだ。悪いが、タイクーンと二人で楽しんでくれ」
「そうかい。じゃ、また今度付き合えよ。休暇はまだまだあるしな」
「ああ。よし、部屋に戻ろうか、ロビン」
「うん。じゃ、レイノルド、またね」
部屋に戻るが、サーシャは自分の部屋に行かず、ロビンの部屋へ。
椅子に座るなり、ロビンが言う。
「ふぃぃ……自然に振舞えたかな?」
「上出来だ。やれやれ……こんな、だますような真似はしたくないが」
「お兄ちゃんが迷惑かけてごめん……断ればよかったよね」
「そうでもない。この一件、ハイセが関わっているとなると……」
サーシャとロビンが得た情報。
ウルが間違いなく言った。
『『四十人の大盗賊』の一件、『闇の化身』が関わっている……どうやら、奴さんも『四十人の大盗賊』について調べまわっているようだ』
ハイセが、『四十人の大盗賊』を探し回っている。
この情報を聞いただけで、サーシャは関わることを決めた。
「明日、私たちは『四十人の大盗賊』の本拠地がある『黒の砦』に向かう。そして、『銀の明星』に関わりのある子を保護するんだな」
「うん。どの子かはお兄ちゃんが調べるみたい」
「……明日はピアソラとの買い物予定があるんだが、どう断るべきか」
「また一緒にお風呂とか、裸で添い寝とかするしかないんじゃない?」
「お、お前な……あの時のことは、なるべく思い出したくないんだが」
ロビンがクスっと笑う。
サーシャは、質問してみた。
「ロビン。お前は……貴族だったのだな」
「あー……うん。まぁね」
「兄とは久しいのか?」
「うん。三年ぶりくらいかも。お兄ちゃん、貴族のくせにあんな性格だから、お父様やお母様に嫌われてたんだよね」
「そ、そうなのか?」
「うん。あと、プルメリア王国ってさ、『魔法系』以外の能力では冷遇されるの。一番上のお兄ちゃん、お姉ちゃんは魔法系能力を持ってたんだけど、私とお兄ちゃんは『必中』の能力でさ……お兄ちゃん、フッド伯爵家を追放されたの。あー……追放というか、追放の決定が出て、いざお兄ちゃんを追放!って時には、部屋がもぬけの殻だったんだけどね。書置きで『オレは荒鷲、風になる』とか意味不明なこと書いておいてあったし……」
「それはなんとも……」
「馬鹿だよね。あたしも追放って話あったんだけど、あたしはその……女だからさ。政略結婚の道具みたいな感じで残されたの。でも、扱いがひどくてね……とうとうキレて、大喧嘩して家を飛び出しちゃった。で、ハイベルグ王国でお兄ちゃんに会ったら、開口一番に『冒険者やめろ』だもん。そこでも大喧嘩して、ソロで頑張っていこー!って思ったら、ハイセとサーシャに出会った、ってわけ」
「…………」
「えへへ、長くなってごめんね。そういえば、ちゃんと話したことなかったよね」
ロビンの過去を、サーシャは初めて知った。
「さぁ。サーシャはピアソラのところに行かないと。明日、用事があって行けなくなったって言わないとね」
「う、うむ……また身体を触られる覚悟は必要かもしれん…」
ロビンがこれ以上触れてほしくないと言っているような気がしたので、サーシャは何も言わなかった。





