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S級冒険者が歩む道~パーティーを追放された少年は真の能力『武器マスター』に覚醒し、やがて世界最強へ至る~  作者: さとう
第十三章 四十人の大盗賊

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ガイストの『とっておき』

 ガイストは一人、夜の居酒屋街を歩いていた。

 そして、一軒のバー……『追想の淡雪』と書かれた看板が下がっているバーに入る。

 店内には誰もいない。いるのは、カウンターで静かにグラスを磨く、温和そうな初老の男性だけ。

 男性は、ガイストを見て柔らかくほほ笑んだ。


「いらっしゃいませ」

「───『雪はもう止んだ』」

「……そうですか。では、晴れたんですね」

「───『いや、淡い雪だ』」

「…………」


 ガチャン!! と、入口のドアに鍵がかかる。

 ガイストの前に、黒いゴブレットが置かれ、血のような深紅のワインが注がれる。

 ガイストはゴブレットを一気に飲み干して言った。

 

「久しぶりだな。マーレボルジェ」

「……お久しぶりです。ガイストさん」


 ガイストの表情は硬い。だが、バーのマスターことマーレボルジェは、温和なままだった。

 マーレボルジェは、グラス磨きを再開しながら言う。


「あなたが、私のところに来るのは何年振りでしょうか」

「三十年前だ。お前が『絡み合う蛇(ウロボロス)』を立ち上げた時……」

「ふふ、あなたには随分と世話になりましたね」

「…………」


 マーレボルジェは、黒いゴブレットにワインを注ぐ。


「マーレボルジェ、借りを返してもらいに来た」

「…………ほう」

「三十年前。お前を見逃した。その借りを返してもらおうか」

「……随分と、余裕がないようで」


 ガイストはゴブレットを一気に飲み干す。


「ああ、そうだ。余裕がない……お前に頼らなければならないほどにな」

「そうですか。ふふ……誘拐事件(・・・・)でも起きたような、時間がないということですね」

「……貴様」

「『四十人の大盗賊(アリババ)』、ですね」


 マーレボルジェはグラスを磨く手を止め、ワイン棚から一本のボトルを取る。

 ワインオープナーでコルクを開け、コルクの匂いを嗅ぐ。


「『ディープレッド』の二百四十年物です。一本、金貨七百枚の価値があるワインです……ガイストさん、如何ですか?」

「もらおう」


 ドン!! と、カウンターに白金貨を一枚置く。

 マーレボルジェは頷き、店で最高級のグラスを出してガイストの前に置き、『ディープレッド』をゆっくりと注いだ。

 ガイストは香りを楽しみ、口に含む。

 そして、目を閉じてしっかり味わい、飲み干した。


「───いい味だ」

「そうでしょう。私の、とっておきの一本です」


 しばし───ワインを堪能する。

 そして、マーレボルジェは言う。


「『四十人の大盗賊(アリババ)』······今は、チーム増員のために動いているようです。シムーン……その子が狙われたのは、あなたが調べた奴隷オークションの『商品』だからですよ」

「何?」

「現時点で私が知るのは、『四十人の大盗賊(アリババ)』の本拠地。構成員数名の名前と居場所。トップであるボスの名前だけ……ひと月いただければ、全員の名前と能力と居場所を調べられますが」

「……時間がない。知る範囲だけでいい。あとは、ハイセがやる」

「ふふ、立派なお弟子さんがいるようだ」


 マーレボルジェは、お土産用に新しいワインボトルをガイストへ渡した。


「本日は閉店でございます。お客様、またのお越しを」

「…………」


 ボトルを受け取り、ガイストは店を出た。

 そのまま自宅に戻り、ワインボトルを出す。

 

「……相変わらず、面倒な仕込みだ」


 ワインボトルのラベルをはがすと……細かい字がびっしりと書き込まれていた。

 現時点で、マーレボルジェが知る限りの『四十人の大盗賊(アリババ)』の情報。ガイストは一通り見て記憶した。


「ハイセ……敵は強大だ。気をつけろよ」


 ◇◇◇◇◇◇


 ハイベルグ王国から数十キロ離れた岩場に、一台の馬車が留まっていた。

 ハイセは、焚火の前にいた。

 火をじっと見つめ、手にナイフを持ち、枯れ枝を削っている。

 作っているのはフェザースティック。本来は着火用に使うものだが、暇なので作っていた。


「…………」


 ハイセは、テントを見る。

 寝台馬車はイーサンが、テントにはプレセア、ヒジリ、クレアの三人が寝ていた。

 すると───……ハイセの肩に、一羽のフクロウが止まる。

 フクロウの足には、羊皮紙が巻き付いていた。


「…………」


 ハイセは無言で羊皮紙を外し、内容を確認する。

 そして、アイテムボックスから串焼きを取り出し、フクロウに食わせる。

 このフクロウは、ガイストが飼っている連絡用フクロウだ。


「……ガイストさんに、礼を言っといてくれ」

『クルルル……』


 フクロウを撫でると、気持ちよさそうに鳴く。

 水を飲ませると、そのまま飛んで行った。ガイストの元へ帰ったのだろう。

 ハイセは、羊皮紙の内容を完璧に記憶し、焚火の中に放り込んだ。


「まずは……西」


 一つ目の情報───……『四十人の大盗賊(アリババ)』の数人が、西の街で『補給』をしている。

 その補給というのは、新たな『四十人の大盗賊(アリババ)』のメンバー。

 ハイセは、ニヤリと笑った。


「まずは西。メンバーを見つけて殺す……とりあえず、一人は残して拷問する。情報を引き出して、シムーン絡みのことを調べるか」


 当たり前のように呟き、ハイセは焚火の炎を見つめていた。


 ◇◇◇◇◇◇


 翌日。

 女性陣が水浴びをしに近くの川へ向かい、イーサンと二人きりになったハイセ。

 イーサンは手際よく荷物をまとめ、テントを片付ける。

 ハイセは、テーブルの上に朝食のサンドイッチを置いた。女性陣が戻るまでまだ時間がある。


「イーサン、少しいいか」

「あ、はい」


 イーサンを呼び、椅子に座らせた。

 ハイセはアイテムボックスから沸かしたばかりの紅茶を出し、イーサンのカップに注ぐ。


「あ、ありがとうございます」

「今日、向かうのは西の町。歓楽街からほど近い、なんてことのない町だ。そこに、『四十人の大盗賊(アリババ)』の構成員が何人か居る」

「えっ」


 いきなりの話に、イーサンはぽかんとする。

 ハイセは自分にも紅茶を淹れる。


「数は不明だが、名前がわかってるのが二人いる。一人は、『鎌士(サイズ)』の能力を持つ男。もう一人は『三種魔法(トリニティ)』の能力を持つ女だ。捕らえて拷問し、情報を引き出す……おそらく、シムーンの情報はない。だが、他の『四十人の大盗賊(アリババ)』構成員の情報は出る」

「…………」

「お前が望むなら、戦闘に参加しろ」

「…………っ」


 イーサンは、カップを強く握りしめた。


「お前が努力しているのは知っている。能力者にはかなわないだろうけど……それでも、シムーンを取り戻したい気持ちがあるなら、一緒に戦うぞ」

「…………」

「どうする。ここで戦わなくても構わないが」

「やります!!」


 イーサンは、熱々の紅茶を一気に飲み干し、カップを置く。


「おれも戦います。戦って、姉ちゃんを取り戻す!! おれの家族は、おれが……!!」

「よし。じゃあ───これをやる」


 ハイセは、アイテムボックスから籠手(ガントレット)具足(グリーブ)、そして胸当てを出す。イーサン用、格闘用に調整した特別製であり、ヒジリが生み出した『テラオリハルコン』を加工して作り出した特注品だ。


「こ、これ……」

「お前用の装備だ。ヒジリに相談されて、お前用に作った」

「……っ、す、っげぇ」


 イーサンの目が、オモチャを前にした子供のようにキラキラしていた。

 ハイセが「装備しろ」というと、イーサンは装備。

 構えを取り、正拳、回し蹴りを繰り出した。


「重くないか?」

「はい!! すっごくなじみます!!」

「あー!! ちょっとハイセ、アタシがいない間になーに渡してんのよ!! せっかく師であるアタシが渡そうと思ってたのにぃ!!」


 と、ここでヒジリが戻ってきた。

 ヒジリがハイセに文句を言うが無視。仕方なく、ヒジリはイーサンに言う。


「朝飯前に、少し馴染ませよっか。イーサン、かかってきなさい!!」

「はい!!」


 ヒジリ、イーサンの摸擬戦が始まった。

 クレア、プレセアはまだ戻ってこない。

 ハイセは、二杯目の紅茶を淹れようとして───気づいた。


「……これは」


 ハイセが見たのは、イーサンのカップ。

 イーサンのカップは木製。その持ち手部分が、酷く焼け焦げていた。

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〇S級冒険者が歩む道 追放された少年は真の能力『武器マスター』で世界最強に至る 2巻
レーベル:GAコミック
著者:カネツキマサト
原著:さとう
その他:ひたきゆう
発売日:2025年 10月 11日
定価 748円(税込み)

【↓情報はこちらのリンクから↓】
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お読みいただき有難うございます!
月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
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― 新着の感想 ―
[一言] つまりイーサンのとくせいはほのおのからだ!
[良い点] イーサン覚醒フラグ。もしかしたらシムーンも? [一言] ハイセ達がアリババの本部に辿り着いた時にはアリババはシムーンによって皆殺しにされてたりして
[気になる点] 『イーサンのカップは木製。その持ち手部分が、酷く焼け焦げていた。』これはイーサンが能力に目覚め始めたのかな?発火能力?それとも熱を操る能力か? 後、ガイストが「敵は強大だ。」と言ってる…
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