情報
ハイセは、冒険者ギルドからほど近い場所にある、この辺りでは一番大きな屋敷の前にいた。
何かあった時誰より早くギルドに入れるようにとガイストが買った屋敷。
一人暮らしだが、他にいい物件がなく、仕方なく買った物件らしい。
ハイセは強くドアをノックすると、十秒と経たずドアが開いた。
「やはりお前か」
ガイストだ。
風呂上りなのか、タンクトップにズボンというラフな格好だ。
還暦間近とは思えないくらい若々しい肉体は鋼のように鍛え抜かれている。
ガイストはため息を吐く。
「殺気を押さえんか……勘のいい冒険者なら瞬時に警戒するぞ」
「…………」
「何かあった、で間違いないな。とりあえず入れ」
応接間に案内され、ガイストが棚に置いてあるブランデーをグラスに注ぎハイセの前に出す。
ハイセは大きくため息を吐き、ブランデーを一気に飲み干した。
「っぷは……すみません、落ち着きました」
「うむ」
ガイストもブランデーを飲み、ハイセのグラスにも注ぐ。
「で、何があった。ワシの家に来るほどの緊急事態だな?」
「はい。シムーンが攫われました」
「……!!」
ハイセは、今わかる範囲の情報をすべて、ガイストに提供する。
ガイストはしばし考え込み、ブランデーを飲み干した。
「お前の想像通りだ。あの奴隷オークションの裏には、『四十人の大盗賊』の痕跡があった……といっても、運営は別の組織で、アリババは資金提供をしただけのようだがな」
「……資金提供」
「うむ。見返りは、奴隷オークションの商品リスト。アリババはここで、何人か『奴隷』を横流ししてもらったようだ」
「横流し? 奴隷をですか?」
「ああ。人間、獣人を一人ずつ横流ししている。ワシの想像だが……おそらく『補充』だ」
「補充……?」
「うむ。『四十人の大盗賊』はその名の通り、総勢四十名の組織だ。だが、常に四十人いるとは限らん……素質ある者を鍛え、加入させることもある」
「……その、横流しした人間と獣人ってのは?」
「…………」
ガイストは、重々しい声で言う。
「元S級冒険者『殺戮魔刃』ホーキンス・チョッパーと、同じく元S級冒険者『大喰らい』マッシモリッチ。冒険者最悪の二人だ。数年前、ワシがこの手で叩きのめし逮捕したのだが……どうやら裏ルートで奴隷オークションの商品となっていたようだ」
「…………」
「イーサンとシムーン、そしてホーキンスとマッシモリッチ。この四人がドレナ村オークションの目玉だったようだ。ホーキンスとマッシモリッチが『四十人の大盗賊』に横流しされ、『四十人の大盗賊』に加入した可能性がある」
「…………」
「ここまでが、ワシの知る情報だ」
ガイストはブランデーをグラスに注ぐ。
「ガイストさん、『四十人の大盗賊』の情報はある? 本拠地とか……」
「ふむ……合流場所に歓楽街を選ぶくらいだ。稼いだ金を使う場所としてはもってこいの場所だが……・本拠地はそう遠くない場所にあるはず」
「何か、ヒントでもあれば」
「ふむ……クレアは襲撃者の顔を知っているのだろう? 歓楽街で張り込みし、捕らえるという手も」
ガイストがそう言うと、ハイセは無表情で言う。
「それもいいけど……先に本拠地を知っておけば、シムーンを取り返した後、楽に皆殺しにできる」
「……殺すのだな?」
「ええ。皆殺しにします。まぁ、四十人の盗賊ってわかりやすくていい……四十人殺せば殲滅だ」
「……わかった。ワシの方で、できる限りの情報を集めておく」
「……時間がない」
「そうだな。準備ができているなら、明日にでも歓楽街……『夢と希望と愛の楽園』に行け。そこまで言うなら、ワシの『とっておき』を使い情報収集をしよう……何かわかったら、追って伝える」
「わかりました。あ……そういえば、歓楽街のギルドマスターって」
「無駄だ」
ハイセが続きを言う前に、ガイストは首を振った。
「『夢と希望と愛の楽園』の総支配人メリーアベルは中立だ。たとえ極悪人だろうと、問題を起こさない限り手は出さないし、我々の事情も関係ないと突っぱねるだろうな」
ハイセをまっすぐ見て、ガイストは確信したように呟いた。
◇◇◇◇◇◇
翌日。
宿の一階に降りると、すでにヒジリ、プレセア、クレア、イーサンがいた。
宿の主人は心労で寝込み、ラプラスが付いている。
「これから、『夢と希望と愛の楽園』へ向かう。ガイストさんができる限りの情報を集めて、追って知らせる予定だ。それとクレア……道中、お前を痛めつけた連中を見つけたらすぐに言え」
ガイストの『とっておき』で情報を集めるらしいが、ハイセは詳しく知らない。
だが、ガイストなので信用できるし、疑っていない。
クレアは、ハイセを見て首を傾げた。
「え……」
「俺が殺す。引き出せるだけ情報を引き出してからな」
「……」
殺すことに、ためらいがない。
クレアも手を汚したことはある。だが……ハイセの『濃度』は桁違いだ。
「敵は全員、S級冒険者クラス。数は四十だ……覚悟はいいか」
「当然。シムーンを取り戻すわよ」
「シムーンは当然だけど……ヤバイわね。滾ってきたわ!!」
「……姉ちゃん」
プレセアは迷わず、ヒジリは不敵な笑みを浮かべ、イーサンは覚悟を決める。
クレアも深呼吸をして、両頬をパンと叩いた。
「私も、もう負けません!!」
「……よし。『夢と希望と愛の楽園』へ向かい、情報を集めるぞ」
「どうやって行くの?」
「ギルドの馬車を借りた。まずは冒険者ギルドに行く」
ハイセたちは、冒険者ギルドへ向かう。
馬車に乗り、王都を出て、『夢と希望と愛の楽園』へ向かう。
そこで、『四十人の大盗賊』についての情報を集める。ガイストが『とっておき』で集めた情報と合わせ、シムーンの居場所を探し当て奪還。そのあとは『四十人の大盗賊』をハイセが皆殺しにする。
「行くぞ」
こうして、シムーン奪還、そして『四十人の大盗賊』殲滅作戦が始まった。





