白青の双剣、これからも強く
「…………ぅ」
ゆらゆら揺れる。
クレアが目を覚ますとそこは、大きな背中だった。
「起きたか」
「え? え……え!? し、師匠!?」
クレアは、ハイセの背中……おんぶされていた。
いきなりのことであわてるクレアに、ハイセは言う。
「お前とサーシャの摸擬戦はお前の負け。まぁ当然だな……『ソードマスター』としての練度は桁違い、実力も経験も全てが格下だ。気づいてると思うが、サーシャは全力の二割以下でお前と戦ってたぞ」
「…………」
「でもまぁ、最後の一撃……あれはよかった」
「え……」
「俺の弾丸を見て、技に応用するとはな」
ハイセの頭しか見えないが、笑っているような声だった。
クレアは、やや気恥ずかしいのか何も言えない。
「お前は闘気の放出に長けているようだな」
「……放出、ですか?」
「ああ。サーシャは強化を得意として、放出はやや苦手だ。お前の戦闘スタイルも見えてきたな。双剣による連続攻撃と、中~遠距離からの闘気放出による攻撃、ってところか」
「……放出」
「どうだ? 自分でわかるだろ?」
「……はい。確かにその通りです。強化より、溜めて放つ方がしっくりくるというか……」
「それでいい。と……そろそろ歩けるか?」
「……すみません。まだちょっとだけ」
「…………」
クレアは、ハイセにぎゅっとしがみつく。。
表情が見えなくてよかったと思う。今のクレアは、どこか猫のように顔をほころばせ、ハイセの背中に甘えていた。
◇◇◇◇◇◇
宿に戻ると、クレアはハイセの背中でグースカ寝ていた。
叩き起こそうと思ったハイセだが、ため息を吐いてクレアの部屋へ。
そのままベッドに投げ捨て、一階に戻る。
すると、丸くなって寝ていたフェンリルが甘えるようにハイセの足元へ。ハイセは何度かフェンリルを撫で、テーブルにあった新聞を手に取る。
クレアの鎧やら剣をひっぺがし寝やすくしたシムーンが二階から降りてきて、ハイセに紅茶を入れてくれた。
シムーンは思い出したのか言う。
「あ、そうだ!! あの、ハイセさんにお手紙届いてました」
「手紙?」
「はい。これです」
エプロンのポケットから取り出した手紙を受け取り、ハイセは封を開ける。
中身を確認し、どうでもよさそうにテーブルへ置いた。
「あの、お手紙……なんでした?」
「ん? ああ、冒険者ギルド連盟から。『七大冒険者』とかいうのに選ばれたから、その報告だとさ」
「七大冒険者……?」
「今の冒険者を象徴する七人だとさ。ま、興味ない」
七大冒険者序列第一位、『闇の化身』ハイセは、本当にどうでもよさそうに紅茶をすすり、新聞を読みはじめた。
シムーンは「えっと……」と、考え込んでいる。
その様子を見て、ハイセは新聞をとじた。
「シムーン、気になることがあるなら聞いていいぞ」
「え、えっと……」
「遠慮するな。な?」
『わん!』
なぜかフェンリルが吠えた。
シムーンはトレイを胸に抱いたまま、ハイセに聞く。
「じゃあ……あの、冒険者ギルドれんめい? って、何ですか?」
「そうだな……よし、少し世界について教えるか」
◇◇◇◇◇◇
世界最大の国にして、世界の中心にあるハイベルグ王国。
現在、ハイベルグ王国には七つの属国がある。
森国ユグドラ。砂漠王国ディザーラ。氷結国フリズド。聖十字アドラメルク神国。魔法国プルメリア。獣王国サリヴァン。東方の島国アズマ。
属国と言っても、立場はほぼ対等。
これら七つの国を興した初代国王たちがハイベルグ王国出身ということもあり、一応は属国ということになっている。だが、それぞれの国の規模はハイベルグ王国には遠く及ばない。
「なるほど……」
「一応、例外はある。島国アズマとかは属国とか関係なしに独立してるし、獣王国サリヴァンは獣人の国で人間の立ち入りを制限してる。今、ハイベルグ王国と付き合いがあるのは、ユグドラ、ディザーラ、フリズドくらいだな」
「へぇ~」
「で、冒険者ギルド連盟ってのは、この七つの属国とハイベルグ王国の冒険者ギルドの連盟だ。もし連盟で集会を行うとする。この時ばかりは、獣王国も魔法国も島国も連盟の一員として顔を出す」
「そうなんですか?」
「ああ。それくらい、冒険者ギルド、そして冒険者の存在は国にとってなくてはならない」
「すごいんですね……」
「ちなみに、冒険者ギルドってのは『それぞれの王国が運営しているギルド』で、それ以外のギルドは『ギルド支部』って言うんだ。ギルド支部は冒険者ギルドが運営し、冒険者ギルドは国が運営している」
「……えっと」
「ま、覚えなくてもいい。ちなみに、ハイベルグ王国にはギルド支部が五百以上ある」
つまり、ガイストはハイベルグ王国冒険者ギルドで、最も偉い存在だ。
ハイセがディザーラ王国で世話になったギルドマスターのシャンテも同じ。
「七大冒険者ってのは、そのギルド連盟のマスターたちが話し合って決めた、今の世代を代表する七人の冒険者のことだ」
「え……じゃあハイセさん、その人たちに認められた冒険者ってことですよね?」
「まぁ、そうなる」
どういう話し合いが行われたのかは知らないハイセ。
サーシャ、ヒジリと知り合いが二人もいることに、どうもキナ臭さを感じていた。七つの属国だったら、それぞれ国の代表としての冒険者を推薦するだろう。
だが、ハイセは一瞬で「どうでもいい」と切り捨てた。
「ふぁぁ~……おはようございます」
「あ、クレアさん」
「シムーンちゃん、お茶を~」
「はーい」
クレアは寝巻のまま、ハイセの向かい側に座った。
「師匠、運んでくれてありがとうございましたぁ」
「ああ」
「あの……」
「明日から修行を再開する。それと、明日からは俺も自分の依頼を受けるから、訓練は早朝だけだ」
「えー……」
「なんだよその返事は……」
「でもでも、私」
「道はもう示した。あとは自分で歩け……たまに確認してやるから」
「……」
クレアの前に、紅茶が置かれた。
クレアはそれを一気に飲み干し、立ち上がる。
「よし!! まだ外は明るいし、新技の開発と自主トレします!! 師匠、また後程!!」
そう叫び、クレアは自室へダッシュ。
着替え、装備を整えると、宿屋の中まで声が聞こえてきた。
『イーサンくん!! 一緒に修行しましょう!!』
『わわ、びっくりした……っと、修行!! やりましょう!!』
底抜けに明るい声。
クレアは、自分が進むべき道を見つけ、歩き出した。
まだまだ時間はかかる。でも……ハイセは、もう投げるつもりはない。
クレアが一人前になるまで、根気よく育てようと改めて決意をするのだった。





