盗賊戦④
カチン、と……サーシャは剣を鞘に納めた。
その様子を見ていたセキ、アカネは絶句する。
時間にして約二分、サーシャは四十名以上いた盗賊団を一刀両断した。
手足を両断され失血死、首を両断され即死、胴を両断され苦しみながら盗賊たちは死んだ。
サーシャは、両腕を切断され死にかけているオーエンを、冷たい眼で見下ろす。
「アジトはどこだ?」
「へ、へへ……」
「言えば楽にしてやる」
「ば、馬鹿が……言うわけねぇだろ。まだ、ボスがいる。知らねぇのか? ボスは元S級冒険者だ。オーガの群れをたった一人で壊滅させた男だぜ? 仲間殺しで冒険者を追放されて、オレらみてぇなはみだし者のボスだけどよ……あの強さはそこが知れ
と、オーエンがここまで行った瞬間、民家が爆発し両腕が炭化したゲルニカが地面を転がり出て、オーエンの傍で停止した。
「ひ、ひ、ひぃぃぃぃっ!? う、ウデ、オレの、腕ぇ!!」
ガシャッと、グレネードランチャーの薬莢を排出し次弾装填をするハイセとクレアが、ボロボロの民家から現れた。当然、無傷で。
グレネードランチャーを向けたが、威力が強すぎると思ったのか銃を消し、腰にある自動拳銃を抜いてゲルニカの元へ。
ゲルニカを蹴り飛ばし、右足に向けて銃を連射した。
「っぎゃぁぁぁぁぁ!!」
「まだ死ぬなよ? うちの弟子を苦しめた報いはこんなんじゃ済まねぇ……さぁ、楽しもうぜ」
「ハイセ、待て……どうやら、こいつらのアジトがあるようだ」
「あぁそれなら問題ない。こいつらの仲間を一人拷問して吐かせた」
すると、ハイセたちの元へラプラスが来た。
「ダークストーカー様、ブリュンヒルデ様。村人の治療が完了しました」
「お疲れ。死者は?」
「いません。ふぅ、なかなかに疲れました」
「……よし、ラプラス、動ける住人たちを集めろ」
「はい」
それから十分後、住人たちが集まった。
集まったのは若い男が数名と村長、中年女性が数名だ。ハイセは止血をしたオーエンの首根っこを掴み、村長たちの前に転がす。
「そいつは盗賊の副首領だ。好きに拷問して憂さ晴らししな。ああ、最後は必ず殺せよ」
クレア、セキ、アカネは絶句した。
ハイセの感情の籠っていない瞳が、あまりにも恐ろしく感じた。
住人たちも驚いていたが、ぶるぶる震えるオーエンを見て怒りがこみ上げたのか、青年の一人がオーエンを蹴る。そして、他の男も蹴り、村長が杖で殴り、中年女性が石を掴んで殴り……十五分ほどで、オーエンは肉塊となって死亡した。
そちらを見もせず、ハイセはゲルニカの頭を掴み、眼球を一つ潰す。
「ほぎゃぁぁぁぁ!?」
「クレア。ついでにそっちの二人……これが、生きる価値のない存在だ」
「「「…………」」」
「最後は、お前たちでトドメを刺せ。それで、この依頼は完了だ」
ハイセはゲルニカを三人の前に投げた。
クレア、セキ、アカネの三人は剣を抜き───……。
「や、やめ───……」
迷いなく、ゲルニカの身体に突き刺した。
こうして、クレアたち初めての盗賊退治は、幕を下ろしたのであった。
◇◇◇◇◇◇
後片付けは、『セイクリッド』から来た冒険者たちに任せ、ハイセたちはハイベルク王国へ戻ってきた。
行きは徒歩だったが、帰りは高速馬車を使ったので一日で帰ってこれた。道中、クレアたちは無言……ギルドへの報告を済ませ、解散する。
「では、私はこれで。みなさん、お疲れ様でした」
ラプラスはペコっと頭を下げ、冒険者ギルドの前で別れる。
別れる直前、ラプラスはクレアたちに言った。
「冒険者。命と悲しみを背負い戦う使徒。私は、そのお手伝いができて光栄です……また、冒険に出るときはお誘いください。では」
そう言い、クレアたちが何かを言う前に町へ消えた。
そして、ハイセはサーシャに言う。
「俺たちも今日は帰る。またな」
「ああ。お疲れ、ハイセ……あ、クレア」
「……はい」
「お前の闘気。見事な輝きだった……ふ、私も負けていられんな」
「…………」
そして、セキとアカネがクレアの前へ。
「クレア。あんたと一緒に戦ったこと、忘れないから」
「またいつか、一緒に冒険をしましょうね。ああ……もしよろしければ、私たちのチーム『スカーレット』へ。いつでもお待ちしております」
サーシャたちと別れ、ハイセとクレアは歩き出した。
道中、クレアは無言……宿に到着し、ドアを開けると。
「あ、お帰りなさい、ハイセさん、クレアさん」
「おう」
「……シムーンちゃん」
「クレアさん、お疲れ様でした。えへへ……無事に帰ってくるって信じていました」
「…………うっ」
クレアは、何かの栓が抜けたようにボロボロ泣き出し、シムーンを困惑させるのだった。
◇◇◇◇◇◇
その日の夜。
ハイセは自室で本を読み、眠くなってきたので本を閉じた。
すると、見計らったようなタイミングでドアがノックされる。
「あの、師匠……いいですか?」
「……ん」
ドアが開くと、クレアが枕を持って入って来た。
すでに寝間着に着替えており、どこか緊張したように言う。
「ね、眠れなくて……その、一緒に寝ていいですか?」
「……ガキかお前」
「す、すみません……」
クレアの手は、震えていた。
初めて『人間』の『命』を『奪った』ということを、ようやく自覚したのだ。
心で理解し、身体が極度の緊張で震えている。かつてハイセも、サーシャも通った道だ。
クレアの顔色は悪い。怖いのだろう。
「わ、私……なんだか、眠れなくて」
「…………」
「し、師匠と一緒なら、寝られるような気がして……」
「…………」
「……お、お願いします」
「…………」
ハイセは無言で、ベッドを見た。
クレアがベッドを見ると、ハイセは言う。
「そこで寝ろ。不安なら、俺が傍にいる。だから、目を閉じていろ」
「……い、いいんですか?」
「一緒に寝るんじゃない。お前がそこで寝るだけ、俺はここにいる」
「……師匠」
クレアはベッドに入り、ハイセの方をジッと見た。
「師匠……手を、いいですか?」
「……ガキか、お前」
「……お願いします」
ハイセは仕方なく、クレアの手を握ってやった。
すると、クレアは嬉しそうに笑う。
「ありがとうございます、師匠……」
「…………」
クレアは安心したように微笑み、そっと目を閉じた。
数分しないうちに、クレアの小さな寝息が聞こえ始める。
「……ったく」
クレアの手は、ハイセの手を握ったままだった。





