盗賊戦③
数時間前。
盗賊が占拠している村から一キロほど離れた場所で、ハイセとサーシャは言う。
「ここからはお前たちだけで行け」
「「「え……」」」
「お前はこっちだ」
「神の御心のままに……」
ラプラスがハイセの隣へ。
そして、サーシャがセキとアカネに言う。
「セキ、アカネ。お前たちはもう、盗賊ごときに遅れを取る実力ではない。問題なのはお前たちの心の問題だ。だから、クレアと協力して、盗賊団から村を取り返せ」
「「……は、はい」」
ハイセがクレアに言う。
「クレア、お前もだ。三人で村を取り返せ……俺とサーシャは村の反対側に行く」
「し、師匠……」
「忘れるな。あそこにいるのは魔獣と同じだ。人間にもどうしようもないクズが存在する。魔獣以下のゲスに手心を加える必要はないからな。いいか……この世の中には、生きる価値のない人間がいるってことを、覚えておけ」
「……は、はい」
そう言い、ハイセとサーシャ、ラプラスは行ってしまった。
残された三人は顔を見合わせて頷く。
「セキさん、アカネさん。やりましょう!! 私たちで、村を取り返しましょう!!」
「そうね……アカネ、いける?」
「当然です。冒険者としての試練、乗り越えてみせましょう」
三人は頷き、村に向かって歩き出す。
そして、村の入口近くの藪から様子を眺めていると……そこで、信じられないものを見た。
「次、オレな」
「おう。外していいぜ?」
「や、やめ……」
「お願いします、お願いします!! どうか、どうか!!」
「た、たすけて!! お父さん、お母さん!!」
木に括り付けられた子供、父親、母親。
それに向かって弓を構える盗賊が二人。
盗賊が矢を放つと、母親の足に矢が刺さった。
「うぁぁぁぁぁ!?」
「お、お母さん!!」
「頼む、やめて、やめてくれぇぇ!!」
「ヒット。足だからポイント1な」
「ちっ、次はオレだ。見てろよ」
それは、あまりにも残酷なゲーム。
家族を的に、当てた矢でポイントを競い合う、盗賊の暇つぶしだった。
あまりにも残酷な光景に、クレアたちは絶句……セキが呟いた。
「生きる価値のない、人間」
その理由がはっきりわかる光景だった。
クレアは武器を手に、無言で飛び出した。
「やめなさい!!」
「あ?」「ん? おい、このガキ……冒険者じゃね?」
「く、クレア!! 作戦は!?」
「助けます!! そして、戦います!!」
すると……盗賊がニヤリと笑った。
「おい、このガキがどうなってもいいのか?」
「ひっ」
「家族全員、殺しちゃおうかネェ?」
「なっ……ひ、卑怯な!!」
盗賊は子供に剣を突き付けたまま、クレアに言う。
「全員、こっちに来な。へへへ……楽しもうぜぇ?」
こうして、クレアたちは全員、盗賊に捕まったのだった。
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
「ハイセ、いいのか?」
「ああ。このまま様子を見る」
「……ああ、神よ」
ハイセ、サーシャ、ラプラスの三人は、連れて行かれるクレアたちの様子を見ていた。
まだ動く時ではない。どうなるかを、見守っていた。
そして、クレアがキレて、闘気の色が変わり───ついに、人間を手にかけた。
クレアだけではない。セキもアカネも、人間相手に戦っている。
盗賊が集結し、ボスが現れ……戦いが始まった。
「……ハイセ」
「見守ろう、もう少し」
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
「あぁぁぁぁ!!」
クレアはがむしゃらに剣を振るう。闘気により強化された身体、そして剣は、盗賊の持つ武器ごと腕や身体を両断した。
紺碧の闘気。『ソードマスター』の闘気は、精神の成長で色を変える。
クレアの精神が成長したことで色を変え、持続時間も強化力も大幅に上がっていた。
「セキ!!」
「うん!! いくよアカネ!!」
アカネとセキ。彼女たちは連携で盗賊を相手にしている。
胸元を露出したまま、向かってくる盗賊相手に一歩も引いていない。羞恥心より、戦うこと、命を奪うことを優先していた。現に、二人の気迫に圧倒され、盗賊たちは何人か絶命して転がっている。
そして、オーエンが舌打ちした。
「チッ……おい!! そんなガキに押されてんじゃねぇ!!」
「で、でもよ、こいつら強ぇぇぞ!!」
「くそが!! おい、囲め!!」
盗賊たちがクレアを囲むが、クレアは闘気を全開にして双剣に纏わせる。
それだけじゃない。その場で回転して剣を振るうと、斬撃が飛び盗賊たちが何人も両断された。
オーエンがさらに舌打ちする。
「あのガキ、ハイになってやがる。ボス、どうします?」
「決まってんだろ……出せ」
「……へへ、了解」
クレアが荒い息を吐き、盗賊を斬らんとブンブン首を振って敵を探す。
すると、オーエンが叫んだ。
「おいガキ!! こっちを見ろ!!」
「!!」
「た、たすけ……」
オーエンは、殴られボロボロの子供の首根っこを掴み、剣を突き付けていた。
それを見たクレア、アカネ、セキの三人の動きが止まる。
「このガキ、いや……村の連中がどうなってもいいのか?」
「くっ……」
「武器を捨てな」
「「「…………」」」
三人がオーエンを睨む。すると、ゲルニカが斧で子供の腕を切断した。
「う、ァァァァァッ!! ァァァァァッ、ァァァァァッ!!」
「次は首だ。どうする?」
「くっ、うぅぅ……!!」
クレアは双剣を捨て、アカネとセキも武器を捨てた。
すると、盗賊たちがクレアたちの腕を掴み拘束。
ゲルニカはクレアに近づき、胸倉を手で摑んで服を破り、露わになった胸を鷲掴みにした。
クレアは痛みに顔をしかめるが、ゲルニカがその顔を掴んで自分に向ける。
「グチャグチャになるまで遊んでやる。そっちのメス二匹もな」
「……してやる」
「あ?」
ギロリと、クレアはゲルニカを睨みつけた。
「殺して、やる……!! 私は死なない。お前を殺して、生きる……!!」
「ほ、そりゃ無理なこった。おい、そっちの二匹はくれてやる。このメスはオレが食う」
「へいへい。おいお前ら、こいつら連れて撤収するぞ。村人は全員殺して、村に火を放つ。アジトに帰還する」
オーエンが部下に命令し、腕を失った子供を乱雑に投げ捨てた。
クレアは、涙を流し呻く子供を見て、自分も涙を流した。
「おーおー? 悲しいのか? 怖いのか? まぁ安心しろ、そんなのわからなくなるくらい遊んでやるからよぉ」
「う、ぅ……!!」
許せなかった。
自分の弱さ。そして、考えなしに突っ込んだ浅はかさ。それら全てが原因となり、自分だけでなくセキ、アカネ、そして住人たちが危険に冒されている。
クレアは、知った。
弱さは罪である。自分が強ければ、盗賊を素早く全滅させることができれば、こうはならなかった。
そのままクレアは、ゲルニカに頭を鷲掴みにされ、近くの民家に連れて行かれた。
そして、民家のドアが蹴破られる。
クレアは、自分の弱さに打ちのめされ、俯いてた。
「あぁ? なんだ、お前」
「…………」
「…………え?」
ゲルニカの怪訝な声に顔を上げると、民家の椅子に誰かが座っていた。
黒い眼帯、黒いコート、黒い髪に赤い瞳。
つまらなそうに座り、クレアを見た。
「わかっただろ?」
「…………ぁ」
「お前は、理解したんだ。そして、打ちのめされた」
「…………」
「おいガキ、なんだテメェは!!」
「命を奪い、奪われる覚悟。人間を殺した感触。そして、自分の力だけじゃ何もできない絶望……どれも、冒険者に必要な『経験』だ。お前は、それを理解した」
「…………しょ」
クレアは、ボロボロと涙を流し───優しく微笑むハイセを見た。
「成長したな、クレア」
「う、ぁ、ぁぁ……ぅあぁぁぁぁぁん!!」
そして、ハイセは立ち上がった。
ゲルニカはクレアを投げ捨て、ハイセに向かって斧を振り上げる。
「死ね、クソガ───……」
次の瞬間、ゲルニカの斧が止まった。
背筋が凍りつき、斧を振り下ろそうとした瞬間、腕が反射的に止まったのである。
そして、寒気の正体───……ハイセが言った。
「もう一つ理解しただろ? この世には……生きる価値のないクズが存在するってな」
ハイセは自動拳銃を抜いてゲルニカに突き付けていた。
◇◇◇◇◇◇
気付いたら、盗賊たちの両腕が綺麗に切断され足元に首が転がっていた。
その盗賊たちは、セキとアカネを拘束していた盗賊だった。
「セキ、アカネ……大丈夫か?」
「さ、サーシャ、さん……」
「あ……」
サーシャは、へたり込んだ二人の身体に、アイテムボックスから出した毛布を被せた。
「強くなった。本当に……」
「「…………」」
サーシャに優しく微笑まれて、二人はボロボロと涙を流した。
そして、サーシャは二人を優しく抱きしめて言う。
「住人はラプラスが治している。不思議なことに、あの子も成長したのか力が増したそうだ、住人たちは全員助かるだろう」
サーシャは立ち上がり、盗賊たちを指揮するオーエンを見た。
「後は、私に任せろ。全員───……斬る」
「…………マジかよ」
すでに諦めきった顔のオーエンは、頬をひくひくさせながら笑ったように見えた。





