お疲れ様
討伐を終え、ハイセとクレア、そしてラプラスの三人は森を出た。
ちょうどいい感じにお昼なので、森を出た街道沿いの木陰で休憩。
ハイセはアイテムボックスからサンドイッチの包みを出し、ラプラスへ渡した。
「ほら」
「おお、ありがたいです……神に感謝」
「俺に感謝しろっての」
ちらっとクレアを見ると、青い顔をしてた。
どうやら、装備関係ばかりに気を取られていたせいで、アイテムボックスに食料を入れてなかったらしい。ハイセは無言でサンドイッチの包みをクレアへ渡した。
「し、ししょぉ~……!!」
「ったく……今回だけだからな」
「はい!! ありがとうございます!! いただきます!!」
「天の恵みに感謝いたします……」
二人はサンドイッチを食べ始めた。
クレアは、サンドイッチを食べながらハイセがくれた剣を見る。
「あの、師匠……この剣、すごく高価な鉱石で作られているんじゃ」
「気にすんな。お前に二刀流をさせるってのは俺の指導方針だし、もう一本の剣を用意するのは俺の仕事だ。で……どうだ、二刀流は」
「すっごくしっくりして、その……たぶん、これが私の戦闘スタイルだと」
「だな。よし、これからは基礎訓練をしつつ二刀流の訓練、そして討伐依頼を受けて経験を積んでいくぞ」
「はい!! えへへ……」
クレアは、にこにこしながら剣を見ている。
ラプラスは、そんなクレアを見ながら言った。
「楽しそうですね、クレアさま」
「そりゃもう!! えへへ、ラプラスさんも楽しいでしょ?」
「いえ全然。まったく出番なかったので」
「そ、そうですか……」
「でもまぁ、ゴブリンオークがキモというのはわかったので、いい経験にはなりました」
クレアは苦笑し、ハイセは黙々とサンドイッチを食べる。
そして、アイテムボックスからアツアツの紅茶を出し、二人に注いだ。
「わ、ありがとうございます。師匠」
「神の紅茶に感謝を……」
「とりあえず、これ飲んだら帰るぞ。夕方までにはハイベルグ王国に帰れるだろう」
こうして、クレア初めての討伐依頼は大成功で終わるのだった。
◇◇◇◇◇◇
ハイベルグ王国に戻り、冒険者ギルドで依頼完了の報告をし、報酬をもらった。
討伐した魔獣はすべて森の中。ゴブリンは動物やほかの魔獣が食べてしまうので問題はない。
ギルドを出ると、ラプラスが頭を下げた。
「では私はこれで。何もしていないのに報酬もらえてラッキーでした……神よ、感謝します」
「そういうのは思っても言うな。ったく」
「あの、ラプラスさん!! ありがとうございました!!」
「ですから何もしていません。まぁ、見てるだけでしたが面白かったです。暇なとき、また付き合ってあげてもいいと神も言ってます」
「どんな神だよ……」
ラプラスは「ではこれで」と言って帰った。
その背を見送ることなくハイセは言う。
「さて、帰るか」
「はい!!」
宿に戻ると、シムーンが出迎えてくれる。
「お帰りなさい!! ハイセさん、クレアさん」
「おう」
「ただいまです!! えへへ……なんか、シムーンちゃんを見たら安心しちゃいました」
ぎゅるるる……と、クレアのおなかが鳴る。
クレアはお腹を押さえ、シムーンがくすっと笑う。
「夕飯、準備できてます。さっそく食べますか?」
「ああ」
「いただきます。あの師匠……一緒に食べていいですか?」
「……まぁ、いいぞ」
「やった!!」
テーブルには豪勢な食事が並び、冷えた麦酒も出てきた……シムーンが魔法で冷やしたそうだ。
そのまま飲もうとしたが、クレアがソワソワしながらジョッキを出す。
「あの、師匠……かんぱいしません?」
「…………ほれ」
「やったぁ、乾杯っ!!」
ジョッキを合わせ、乾杯した。
ハイセは、肉と野菜の煮込みを食べる。
「ん、うまいな……この煮込み」
「えへへ。簡単な作り方を、ガポおじいさんから聞きました」
「ガポじいさんから?」
「はい。お昼におじいちゃんとお買い物行ったら、仕込みをしているガポおじいさんに会って、簡単な煮込みの作り方を聞いて試してみたんです。おじいちゃんもおいしいって」
ハイセは主人を見ると、咳ばらいをしてそっぽむく……いつの間にか、孫にあまあまなおじいちゃんになっているようだ。
すると、クレアがジョッキを一気に飲み干していう。
「師匠!! 剣、ありがとうございました!! 私……これから二刀流の剣士として強くなりますから!!」
「言っておくが、調子に乗るなよ。ゴブリンを討伐してハイになってるだろうけどな……お前はまだ、冒険者のことを何も知らない。試練はいくつもあるんだからな」
「はい!! これからもご指導、お願いします!! シムーンちゃんおかわり!!」
「はーい」
新しい麦酒をジョッキでもらい、クレアは一気に飲み干した。
気分がハイになっている。ハイセも初めて魔獣討伐をしたときは、興奮するサーシャと一緒に遅くまで語り合ったものだ。
まぁ、今日くらいは……と、クレアが倒れるまで付き合うハイセだった。
◇◇◇◇◇◇
サーシャは、プレセアとヒジリの三人で、バー『ブラッドスターク』で飲んでいた。
不思議なことに、この三人はよく集まって飲む。話題も決まっていた。
「ハイセのやつ、弟子のこと真面目に育ててるみたいねー……あむ」
ヒジリは、ステーキ(七皿目)をもぐもぐ食べていた。
プレセアはフルーツ盛り合わせ。チェリーを指でつまんで口の中へ。
「ハイセ、年下が好きみたいね。シムーンにも優しいし」
サーシャは、ワインを飲みながらやや不機嫌に言う。
「別に、年下好きというわけじゃないだろう。クレアは年下だが、ひとつしか違わないし……むしろ、同い年だ」
「意味不明ね。まぁ……恋愛には発展しないと思うから安心したら?」
「べ、べつに気にしていないし」
「もぐもぐ……ヘルミネ、おかわり」
「はぁい」
マスターのヘルミネが、八枚目のステーキを焼く。
サーシャもワインをおかわり。気になったことを言う。
「それにしても、ソードマスターか……」
「何? 気になることあるの?」
「ああ。確か、三人目が確認されたのは、氷の国フリズドだ……クレアは、そこの出身なのか?」
「そうなの?」
「能力の確認がされた場所が、フリズドの冒険者ギルドというだけで、出身地は不明だがな」
「……氷結国フリズドね」
氷結国フリズド。
森国ユグドラ、砂漠王国ディザーラと並ぶ大国であり、ハイベルグ王国の属国でもある。
一年を通して冬の過酷な国。だが、フリズドの万年氷は有名であり、フリズドの過酷な環境で育てられる野菜、果物は旨味がたっぷりで大人気だ。
過酷な分、街道はしっかり整備されており、観光にも力を入れている国だ。貧しいということはなく、むしろ裕福な国だろう。
プレセアは言う。
「一度、行ったことがあるけど……私には寒すぎるわ」
「私は、ディロロマンズ大塩湖の攻略で行った。正直、禁忌六迷宮のことばかりで観光なんて考えてもいなかったがな」
「アタシはあっついのも寒いのも平気だけどね。おかわり!!」
いつの間にかステーキを完食。おかわりを頼むヒジリだった。
プレセアは言う。
「ね、ヒジリにサーシャ。今度クレアを誘ってお茶でもしない?」
「なに?」
「なんで?」
「いろいろ聞いてみたいこと、あるでしょ? 例えば……ハイセのこととか」
「……」
「ハイセのこと気になるなら、本人に聞けばいいじゃん」
「……お子様にはわからないみたいね」
「あぁ!?」
ヒジリがギャーギャー騒ぎ始め、話は終わった。
サーシャは残ったワインを一気に飲み干す。
「まぁ……話はしてみたい、かな」
ハイセとどんな修行をしているのか。サーシャはやっぱり気になるのだった。





