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S級冒険者が歩む道~パーティーを追放された少年は真の能力『武器マスター』に覚醒し、やがて世界最強へ至る~  作者: さとう
第十一章 三人目のソードマスター

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はじめてのゴブリンたいじ

 歩き続けること数時間、東に向かい、依頼の場所である小さな森の入り口に到着した。

 ハイセは、ずっと緊張していたクレアに言う。


「ここから先はお前が先頭だ。俺とこいつは後ろを歩く」

「えっ……」

「相手はゴブリン。待ち伏せしているかもしれないし、堂々と前から来るかもしれない。いいか……ここからが、最初の試練だ」

「…………」

「前と違うのは、俺がいることだ。だが……死にかけでもしないかぎり、助けない」

「……は、はい」

「緊張しろ。気を抜くな……ゴブリンだと舐めるなよ。行け」

「っ、はい!!」


 クレアは先頭で歩き出す。

 十メートルほど距離を取り、ハイセとラプラスが続く。

 ハイセは、黙ったままのラプラスに言う。


「怪我をしたら治療は頼むぞ」

「わかりました。お任せを」


 ラプラスは手を合わせ、祈りながら一礼した。


 ◇◇◇◇◇◇


 クレアは、ハイセに言われた通り、一人で歩き出す。

 十メートル後ろにはハイセ、ラプラスがいる。

 少なくとも、怪我をしたら治してもらえるし、凶悪な魔獣が出てもハイセがいる。

 だが……クレアは、そんなこと微塵も考えていない。

 腰にある剣。『冰剣リュングベル』の柄に手を乗せ、いつでも抜けるようにする。

 

「…………っ」


 以前、ハイセと一緒にS+レートの魔獣と対峙した時とは違う緊張感。

 『見学希望』ではない、『冒険者』として立つ戦場。

 命を懸けた場にいるという自覚が、クレアの精神を削っていく。

 森を歩きつつ、クレアは周囲を警戒する。

 きょろきょろと落ち着きなく周囲を観察する───……すると。


「っ!!」


 ガサガサと、藪が動いた。

 剣を抜き、藪に向けて構える。

 クレアは気づいていない。いつも訓練でしている構えではなく、ただ剣を向けただけ。

 緊張のあまり、訓練の動きがまるで出来ていない。

 そして、ガサガサと藪が動き───出てきたのは。


『……キュ』

「…………っ」


 白い、ふわふわしたウサギだった。

 クレアがじっと見つめても逃げない……いや、逃げられないのだ。

 蛇に睨まれたカエルのように、ウサギは動けない。

 が……クレアが少しだけ気を抜くと、ウサギは逃げ出した。


「……ふぅ」


 クレアは首を振る。

 少々、気を張りすぎていた。

 気が付くと、体力も精神力も削られていた。

 剣の柄を強く握りすぎたせいで、手が赤くなっていた。


「……喉、乾いた」


 クレアはアイテムボックスから水筒を取り出す。

 蓋を開け、水を飲もうとして……震えから蓋を落としてしまった。


「あ、っと」


 そして、蓋を拾おうとしゃがんだ時だった。

 しゃがんだ瞬間、クレアが立っていた位置、すぐそばの木に矢が刺さった。


「えっ……?」


 矢。

 敵。クレアは水筒を投げ捨て、矢が飛んできた方向を見た。

 そこにいたのは、一匹のゴブリン。

 ボロボロの弓を手に、クレアの隙を伺い矢を放ったゴブリンだ。そして、自分たちの存在がバレたと察したのか、弓を投げ捨てボロボロの剣を手に藪から飛び出してきた。

 数は三体。全員、身長が一メートルほどで、剣を持っている。


「ぁ……」


 ゾワリとした。

 もし、蓋を拾わなかったら……矢は位置的に、クレアの腕に刺さっていた。

 クレアは剣を構え、カチカチ震える歯の音がやけにうるさいと感じていた。

 初の実戦。頼れる仲間もいない、一人での戦いだ。

 すると───背後から。


「恐れたままでいい!! 何をしてもいい!! 生きろ!!」

「っ───……はいっ!!」


 必要なのは、鍛えた身体もでない、磨いた剣技でもない。

 恐怖を飼いならし、前に進む勇気。

 クレアは思い切り息を吐き、ようやく本来の構えを取る。


「命は平等だ。奪い、奪われる覚悟。相手がゴブリンだろうと、Sレートの化け物だろうと同じだ!! クレア、戦え!!」

「行きます!!」


 クレアが闘気を発動───その色は、鉛色から青銅色に変わった。

 ハイセも知らない色だった。


『クキキキキッ!!』『ギャァァッゥ!!』

「闘気を剣に───……!!」


 身体を覆う闘気が剣まで多い、刀身が伸びる。

 『ソードマスター』の基本的な戦闘スタイルだ。クレアは態勢を低くして一気に駆け抜け一閃。ゴブリンの身体が両断された。

 そして、そのまま近くのゴブリンに向かって跳躍。

 剣を一気に振り下ろした。


「『流れ星一閃(メテオストライク)』!!」


 青い流星が、ゴブリンを一刀両断した。

 こうして、ゴブリンが討伐された。


 ◇◇◇◇◇◇


 三体のゴブリンが討伐され、クレアはハイセたちのもとへ。


「し、師匠……お、終わり、ですか……?」

「ああ。ゴブリンってのは群れで行動する。ほかにはもういないだろう」

「……わ、私」

「よくやった。あの一瞬だけで、お前は恐怖を飼いならし、成長した……その闘気が証だ」

「……あ」


 ぼんやりと、青銅色の闘気がクレアを包んでいた。

 忘れていたのか、クレアはようやく闘気を解除。するとラプラスが言う。


「私の出番は必要なかったようで……残念無念」

「出番ないのはいいことだろうが」

「まぁそうですね」


 つかみどころのない『聖女』だった。

 クレアは、震える手を見つめる。


「お前は命を奪った」

「っ……」

「お前が生きるために。あのゴブリンたちも生きるために戦って死んだ。クレア、お前はようやく冒険者としての一歩を踏み出したんだ」

「……私が、冒険者」

「まだまだだけどな……さて」


 ハイセが自動拳銃を抜き、クレアの背後へ向けた。

 

「し、師匠……?」

「あとは俺に任せておけ」


 クレアが振り返ると、そこにいたのは……巨大な二足歩行の豚。

 正確には、討伐レートD級、『ゴブリンオーク』である。

 簡単に言えば『オークのように太ったゴブリン』だ。どうやら群れのボスらしい。

 

『ぶもっ、ぶもっ……ぶもも』

「キモイですね。私の中の神も言っています……『キモイ』と」

「どんな神様だっつーの。クレア、下がってろ」

「……師匠」


 と、クレアは前を向いた。

 剣を構え、闘気を発動させ、ハイセを遮るように前へ。


「おい、調子に乗るなよ。ゴブリン三体倒してハイになってるのかもしれないが」

「大丈夫です!! 私……戦います!!」

「…………」

「信じてください。私……慢心してもないし、無茶してもいません!! やれる気がするんです!!」

「…………」


 ハイセは自動拳銃をホルスターに収め、アイテムボックスから一本の剣を出す。


「もう少し後にしようと思ったが……まぁ、いいか」

「……師匠?」

「使え」


 ハイセが差し出したのは、美しい空色の鞘に収まった片手剣。

 クレアは自分の剣を鞘に納め、ハイセから剣を受け取り抜く。

 

「……わぁ」


 美しい、氷のような青白い刀身の片手剣だった。

 クレアの持つ『冰剣リュングベル』と形状も長さも似ている。刀身の色と装飾だけが違っている。

 

「『虹色奇跡石(セブンスターライト)』で打った剣、名前は『凍剣グラキエス』だ。俺も知らなかったが……その鉱石、火入れの温度やタイミングで刀身の色が変化するらしい」

「こ、これを私に……よーし!!」


 クレアは剣を構えるが、ハイセは言う。


違う(・・)

「……え?」

「わかんねーのか?」


 ハイセは、クレアの腰にある『冰剣リュングベル』を指さす。

 そして、ニヤリと笑って言った。


もう一本(・・・・)使えるだろ(・・・・・)? ───クレア、お前は『二刀流(・・・)』の素質がある」


 そう、これがハイセが見出したクレアの才能。

 クレアはうなずき、右に『冰剣リュングベル』を、左に『凍剣グラキエス』を持つ。

 クレアは、とんでもなく両手に馴染むのを感じた。戦ってもいないのに、これこそが自分の真の戦闘形態だと確信する。

 ラプラスがハイセに言う。


「二刀流、ですか?」

「ああ。クレアは両手の扱いが上手い。左右の手で繰り出される斬撃の鋭さがほぼ同じだったからな……一度、試したんだ」

「試す?」

「ああ。両手にペンを持たせて、同時に別な文字を書かせた……完璧だった。あいつ、全く別な単語を同時に、両手で書いたんだ」

「……」

「その時、なんて言ったと思う? 『右手と左手に別々な動きをさせればいいだけですよね?』だとさ……」


 そして、ようやく『ゴブリンオーク』が、両手に棍棒を持ってクレアに襲い掛かってきた。

 クレアは闘気をまとい、一瞬でゴブリンオークの間合いに入る。

 振り下ろされる棍棒を難なく躱し、両手の剣でゴブリンオークを切り刻む。


「『彗星の漣刃デュアルブレードラッシュ』!!」


 青銅の闘気をまとったクレアの連切りが、ゴブリンオークを細切れにした。

 二刀流にしただけで、クレアの技量が跳ね上がったように見えた。


「おお、すごいですね」

「…………ああ」


 ゴブリンオークを倒したクレアが、嬉しそうにハイセの元へ駆け寄ってくるのだった。

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〇S級冒険者が歩む道 追放された少年は真の能力『武器マスター』で世界最強に至る 2巻
レーベル:GAコミック
著者:カネツキマサト
原著:さとう
その他:ひたきゆう
発売日:2025年 10月 11日
定価 748円(税込み)

【↓情報はこちらのリンクから↓】
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お読みいただき有難うございます!
月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
連載中です!
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― 新着の感想 ―
[良い点] クレアに二刀流の素質があると見抜いたハイセ。新たなる剣を授けて実戦させ、二刀流に開花させた。キリトや伊之助、ベル・クラネルといった二刀流の人物がいるが、クレアがどこまで極めることができるか…
[一言] 闘気の色で成長具合が解るんですね。しかし二刀流だとは思いませんでした。しかしクレアの成長は速いですね、このままいけばサーシャに勝つとまではいかなくてもいい勝負できるまでには直ぐになりそうです…
[一言] 青銅色…流れ星…なんか第七感に目覚めそうですねw そういえばサーシャは銀から金でしたっけ? 一般的な二刀流は大太刀と小太刀、打刀と脇差しの大小二本、または刀と手裏剣、刀と鎌など異なる武器で…
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