めんどくさい
翌日。
ハイセは一人で朝食を食べていた……が、当たり前のようにクレアが対面に座ってパンを食べている。
無視してもよかったが、ハイセは言った。
「なんで俺の席で食ってんだよ」
「ダメですか?」
「ああ。別な席にいけ」
「でもでも、もう食べ終わりますから!! あ、シムーンちゃん、私にも紅茶をお願いします」
「はーい」
シムーンが紅茶を淹れてクレアの元へ。
ついでに、ハイセのカップにもおかわりを注いでくれた。
クレアは言う。
「師匠。今日の予定は?」
「冒険者の仕事は一つだろうが」
「あ、そっか……あぁ!? 私、冒険者登録しないと!?」
「…………」
どこまでもヌケている。ハイセはクレアをチラッと見て思った。
白み掛かった空色のロングへアを揺らし、白と青を基調としたシャツとスカート、席の近くには剣が立てかけられている。
鞘にも立派な装飾が施された剣だ。価値のある、先祖代々の品だろうか。
そんな風に見ていると、クレアが立ち上がった。
「師匠、冒険者ギルドに行きましょう!! 私、冒険者登録します!!」
「勝手に行け」
「嫌です!!」
「…………」
清々しい拒否に、ハイセは頭が痛くなりそうだった。
◇◇◇◇◇
ハイセは、クレアを無視して歩き出した。
だが、クレアはハイセの隣をぴったり歩いては話しかけてくる。
「あの、師匠。ハイベルグ王国の冒険者ギルドって、世界で最も依頼が多く集まる場所って聞きましたけど……そうなんですか」
「受付で聞け」
「わかりました。それと、登録したらF級からのスタートですよね。聞いた話によると、まずは下積みからのスタートで、冒険者チームに所属するのが普通なんですよね」
「ああ。わかったな、俺はソロだし、お前の指導は無理だ」
「嫌です。私は師匠から教わるって決めたので!! で……師匠にくっついて勉強します」
「…………」
何を言っても無駄。
ハイセは、この言葉の意味を真に理解できた……こんな女がいるとは。ある意味、ヒジリやプレセアよりもタチが悪い…、頭がズキズキした。
そして、冒険者ギルドに到着。
ハイセがギルドに入ると、視線が集まってきた。
S級冒険者『闇の化身』ハイセ。知らぬ者はいない有名人。
だが……今日は、その様子がおかしい。
「師匠、視線を感じます!! みんな師匠を見ていますね!!」
「お前、マジで黙れ」
「はーい。あの、冒険者登録ですけど……」
ハイセは無言でミイナのいるカウンターを指差す……が、こちらを見て興味津々のミイナと目が合い、初老のベテランシニア受付がいるカウンターを指差した。
「あの爺さん受付に行け」
「わかりました!!」
クレアが行くと、「ちょ、ハイセさ~ん!!」とミイナが抗議。それを無視して依頼掲示板に行くと、ヒジリとプレセアが近づいてきた。
「あなた、また女の子を連れてるのね」
「ねーねー、あの子が言ってた師匠って何? まさかアンタ……アタシがイーサンの師匠だから、対抗してんの? ふふふ、面白いっ!!」
「…………」
クソめんどくせぇ。
ハイセは嫌そうな顔を隠さず、二人に向き直る。
すると、冒険者登録を終えたクレアが戻ってきた……失策だった。ベテランシニア受付は優秀で、登録から説明まで完璧な速さで終わらせた。おかげで、さっさと依頼を受けてギルドを出ようと思っていたのに、できなくなった。
しかも……プレセア、ヒジリがいる前で、クレアは言った。
「師匠、登録終わりました!!」
「……師匠、ね」
「ほほう、面白そうじゃん!! ね、アンタさ、ハイセとどういう関係?」
「あ、えっと」
「私はプレセア。こっちのうるさいのがヒジリよ」
「うるさくないし!! で、アンタは?」
「はじめまして。私、クレアって言います。師匠の強さに惚れて、弟子になりました!! これからよろしくお願いします!!」
「ふーん……あなた、いくつ?」
「十六です!!」
「年下、ね……シムーンもだけど、あなた年下には優しいのね」
「ハイセが師匠ねぇ。ねーねー、こいつ無愛想だし堅苦しいけど、だいじょぶなの?」
ハイセは本気で頭痛がしてきた。
三人寄れば姦しいと言うが、ハイセにとっては悪夢でしかない。
「…………」
「あ、師匠ー!!」
ハイセは三人を無視し、依頼掲示板へ。
当然、クレアはついてきた。ヒジリも、プレセアも。
「お、討伐依頼!! アタシこれにするっ!!」
「私は……採取依頼ね」
「薬草採取とかつまんなくない?」
「私が受けるのは、高難易度採取依頼よ。魔獣との戦闘もあるんだから」
「ふーん……クレアは?」
「私、たった今登録したばかりで、E級までしか受けられません……」
「あら。S級のハイセがいれば、どの依頼でも受けられるわ。ハイセから学びたいなら、討伐依頼を重点的に受けることになるわね」
「え!!」
余計な事言いやがって……と、ハイセはプレセアをじろっと見た。
そして、討伐レートS+級の討伐依頼を受けるため、依頼書を引っぺがす。
そして、ミイナではない、別の受付で受理。
「あの……ハイセさん、ソロですか?」
「あ「いえ!! 私も一緒です!!」……おい」
「わかりました。では、S級冒険者ハイセさんに同行するという形ですね。その場合、等級の評価にはつながりませんが、よろしいですか?」
「はい!!」
「…………はぁぁ」
こうして、ハイセはクレアと一緒に、討伐依頼を受けることになった。
◇◇◇◇◇
ハイベルグ王国を出た二人。
ハイセは、最初に言った。
「付いてくるのはまぁ許す。だけど……討伐依頼を受けた以上、自分の身は自分で守れ。俺に何か期待しても無駄だからな」
「は、はい!!」
「それと……俺が受ける依頼は、全て討伐系。さらに討伐レートもS以上がほとんどだ。お前、知らないと思うから教えてやる……Sレート以上の魔獣は化け物だぞ」
「だ、だいじょぶです!!」
「…………行くぞ」
ハイセは歩き出す。
クレアもその背を見て、腰にある剣に触れた。
「……私だって、できる。そうだよね、ダフネ」
その名は誰の名なのか……ハイセは聞こえていたが、深く聞こうとは思わなかった。
 





