禁忌六迷宮、三度目の踏破
ハイセとサーシャは、ハイベルグ王城に呼ばれていた。
現在、謁見の間にて。国王バルバロスと向かい合い、二人は膝をついている。
バルバロスは、困ったように笑っていた。
「ははは、困ったなぁ……三度目の禁忌六迷宮踏破。もう、お前たちに何を与えればいいのかわからん!!」
そして、バルバロスは豪快に笑った。
宰相であるボネットも「全くですな」と笑い、第一王子クレス、第一王女ミュアネも顔を合わせて苦笑していた……さすがに、この短期間で難攻不落の禁忌六迷宮が、三つも踏破されるとはバルバロスどころか、誰も思っていなかった。
バルバロスは言う。
「よし、こうしよう。ハイセにサーシャよ、お前たちが望むのは何だ? 私に叶えられることなら、何でも叶えよう」
「「…………」」
ハイセとサーシャは顔を見合わせる。
少し考え、ハイセが言った。
「では、自分は褒賞金を希望します」
「ほう、褒賞金か……いいだろう。では、S級冒険者ハイセに、白金貨一万枚を与える」
「ありがたき幸せ」
「……っ」
い、一万枚……と、サーシャがゴクリと唾をのんだ。
「ではサーシャ、お前は何を望む?」
「え、ええと……で、では」
仲間たちを思う。
レイノルドは「酒が欲しいぜ」と言っていた。ピアソラは「美容品!!」と、タイクーンは「ボクが見たことのない蔵書一万冊」と、ロビンは「お菓子一杯食べたいなー」と、サーシャの脳内で仲間たちが言う。
そして、サーシャは言った。
「で、では……高級酒と、美容品と、蔵書と、お菓子と……に、肉を」
「「「「「…………」」」」」
謁見の間を静寂が包み込んだ。
◇◇◇◇◇
「……………………忘れてくれ」
「ぷっ……」
真っ赤な顔をしたサーシャと二人で城を出た。
サーシャのアイテムボックスには、大量の高級酒、王族御用達の化粧品、未解読の古文書、大量のお菓子、そして大量の肉が入っていた。
サーシャは、クスクス笑うハイセをじろっと見る。
「笑うな…そういうお前はなんで金を要求した?……」
「そうだな、まぁ欲しい物はたいてい金で買えるだろ…。ただ、正直俺は金に困ってないし欲しい物も特にない……。そういう時に『欲しい物』なんて言われても答えようがないからな。だから、とりあえず『金』って答えたんだよ。」
「むぅ……」
「ま、そういうことだ。じゃあな」
ハイセはそう言い、別れて歩き出す。
サーシャは笑われたことでムスッとしつつ、郊外にあるクラン本部ではなく、城下町にあるハイベルグ支部へ。
支部に行くと、新しく支部長となったA級冒険者、チーム『スカーレット』のリーダーである女性、ヒノワが出迎えた。
「お疲れ様です、サーシャさん」
「ああ。レイノルドたちは来ているか?」
「はい!! 会議室にてお待ちです」
「わかった」
「あ、あの、サーシャさん……時間があればでいいんですけど、また稽古をつけてもらえれば」
「わかった。じゃあ、会議が終わったら相手をしよう。支部の刀剣系能力者たちを集めておいてくれ。ふふ……久しぶりに、みっちり稽古をつけてやるからな」
「は、はい!!」
サーシャは会議室へ。
すると、『スカーレット』のメンバーである少女、アカネがこそっと現れた。
「よかったねぇヒノワ。憧れのサーシャさんに稽古つけてもらえて」
「う、うるさい。というか、お前だってそうだろう」
「ま、そうだけどね」
「やっほ~、なにしてるん?」
「セキ。ちょうどよかった。サーシャさんが稽古をつけてくれるってさ」
「え、まじ? やった!!」
チーム『スカーレット』
同郷であり、幼馴染同士の少女三人で結成したチーム。三人が刀剣系の能力者だ。
冒険者チームは五人編成が普通だ、三人は刀剣系で、しかも年が近い少女しか入れないと決めていた。現在加入候補は何人かいるようで、スカウトもしている。
ヒノワは、十九歳にしてハイベルグ支部を任せられた、優秀な冒険者だ。サーシャにあこがれており、目標としている。
「よし、アカネ、セキ……サーシャさんとの模擬戦だ。支部内の刀剣系能力者全員に声をかけるぞ。あと、準備運動だ!! 声をかけたら訓練場に集合!!」
「「りょうかいっ!!」」
三人はダッシュで、支部内の仲間たちに声をかけに言った。
◇◇◇◇◇
会議室内に入ったサーシャは、国王への報告が終わったことと、望む物をもらったので全員に配っていた。
「ま、マジか!? こいつは超希少な『ダイヤモンド・ルビー』じゃねぇか!! 666本しか存在しない、樹齢六千年といわれる伝説の、たった一本しか存在しないブドウの木から収穫された伝説のワイン!! 買うとしたら白金貨数百枚。しかも市場に出回ることはまずない、裏の裏の裏のルートで見つかるか見つからないかの、伝説中の伝説!! い、生きてお目にかかれるとは……!!」
「まぁまぁ!! こんな立派な化粧品……お、王族御用達の化粧品商会『ラヴァーズ・エレイン』の最高級品!! 王家にしか卸さないという、伝説中の伝説……そ、それが、私の手にぃぃぃぃ!!」
「…………古文書。しかも、ボクですら見たことがない文字だ。ハイセの読む書物との文字とも違う……ハイベルグ王国言語に近い。だがこれは……そうか、暗号文字か!! クククッ、これは研究意欲がそそられるな!!」
「わぁ、おかしいっぱい!! うれしい~♪」
と……仲間たちはとにかく喜んでいた。
そういうサーシャも、高級肉詰め合わせセットをもらいウハウハしている。「ふふ、今日は一人焼肉……悪いが、これは一人で食べるからな」とニヤニヤしていた。
レイノルドは言う。
「いや~、ありがとなサーシャ」
「気にするな。というか……礼を言われることじゃない。むしろ、散々迷惑をかけたんだ、その詫びと思ってくれ」
「あぁん。お詫びなら私、いっぱいもらったわ。んっふっふ~……お風呂に、添い寝♪」
「地獄だった。気味の悪い喘ぎ声が部屋から聞こえてきたが……やれやれ」
「アァァン!? テメェ、私とサーシャの絡み合いを気味が悪いだとォォォォォ!?」
「や、やましいことはしていない!!」
「うんうん。あたしも確認したけど、サーシャは爆睡してたから、ピアソラ一人で悶えてただけだったよ~」
「んなことより、へへ……今日はもう解散しようぜ。こいつを開けたいぜ」
レイノルドはワインボトルに頬ずりしていた。
ロビンはすでにお菓子をモグモグ食べているし、ピアソラも化粧品を試してみたいようだ。
タイクーンは、古文書をチラッと見て咳払い。
「まぁ、会議は明日からでいいか……では、解散でいいか? サーシャ」
「ああ。では、私は支部の仲間たちに稽古をつける。皆、今日はゆっくり休んでくれ」
「はーい!! さーて、お菓子食べよっと」
「オレもワインを開ける。おっと、チーズ買いに行かなくちゃな」
「私もここで!! ふふん、お化粧~♪」
「さて、古文書の解読をするか……」
チーム『セイクリッド』は、今日も通常運転だった。
だが……通常通りじゃない、今まさに危険な目に合っている少年も、いる。
◇◇◇◇◇
ハイセは、宿へ向かう裏通りとは違う通りを歩いていた。
人の気配が消え、広い通路の真ん中で立ち止まる。
「……誰だ」
自動拳銃を抜き、振り返り構えを取る。
すると───……全身をローブで包んだ何者かが現れた。
そして、その人物は……腰にある剣を抜き、ハイセに突き付けた。
「襲撃ね。金目当てか?俺を狙うとか……田舎モンらしいな」
ハイセは銃を構え、ニヤリと笑い引き金に指をかけた。
 





