サーシャの謝罪
ヴァイスをどうするか? で、二人は話し合う。
「……ハイセ、任せていいか?」
「理由は?」
「……これからクランの全員に頭を下げてくる。たぶん、みんな怒っているだろうし、ヴァイスを連れて行けば混乱するに決まっているからな」
「……まぁ、そうだろうな。俺のところは何とでもなるか。よし、行くぞヴァイス」
『はい、ムッシュ』
と、歩き出したところでサーシャが言う。
「ハイセ」
「ん?」
「今回は本当に世話になった。勝手に付いて行き、迷惑をかけ……それでもお前は、私を邪険にするどころか、その……守ってくれた」
「……お互い様だろ。まぁ確かに、最初は邪魔だと思った。でも……その、助かった」
「……ハイセ」
「…………」
ハイセはそっぽ向き、サーシャが嬉しそうに隣に並ぶ。
ヴァイスは、そんな二人の背中を見ながらゆっくり歩き出す。
しばらく歩くと、分かれ道があった。
以前はなかった立派な看板があり、そこには『クラン・セイクリッド本部』と書かれていた。
街道がしっかり整備され、石畳の道になっている。
「この先に、クラン『セイクリッド』の本部があるのか」
「ああ。だが、以前はこんな道はなかった……私がいなくても、クラン運営に問題はなさそうだ。思えば、上空に行ってから二週間くらいだろうか」
「じゃあ、ここで」
「ああ。あ、ハイセ」
「ん?」
「その……礼はちゃんとする。その、今度……食事でも」
「…………まぁ、考えとく」
そう言い、ハイセは手を軽く上げて言った。
「またな、サーシャ」
「───……っ、ああ、またな!!」
『ではマダム。また』
「ああ!!」
そう言い、サーシャは闘気を纏って走り出した。
その背中を見送り、ハイセがつぶやく。
「元気な奴だ」
『活発なマダムですね』
「だな……ああ、今のうちにいろいろ説明しておく」
ハイセは歩きながら、ヴァイスにこれから向かう『宿』の説明をした。
◇◇◇◇◇
「本当に、申し訳なかった!!!!!!」
土下座。
これまでにないくらい、美しい土下座だった。
サーシャはクラン本部に入るなりたいそう驚かれた。守衛が慌て、様子を見に来た冒険者たちも大慌て。本部にいたメンバーが駆けつけ、タイクーンが唖然とし、タイクーンを突き飛ばしロビンがサーシャに抱き着き、ロビンに覆いかぶさるようにピアソラも抱きつき……そして、ただ一人だけ厳しい表情をしていたレイノルドが「とりあえず、チーム『セイクリッド』は全員集合。あとは持ち場に」と言うと、全員その言葉に従った。
現在、クラン『セイクリッド』本部、大会議室に五人は集まっていた。
そして土下座に至る。
「さささ、サーシャ!! そんな土下座なんてしちゃダメ!! ああ、そんなサーシャみたく無いぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
ピアソラが今にも泣きだしそうだが、レイノルドもタイクーンもロビンも止めなかった。
今、サーシャが自分にできる最大の謝罪をしているのだ。それを止めることはしない。それくらい三人は心配したし、怒っているのだ。
「サーシャ、立つんだ」
「……タイクーン」
「その状態では話ができない。いろいろ言いたいことはあるが、禁忌六迷宮の一つ『ドレナ・デ・スタールの空中城』は踏破したんだな?」
「ああ。ハイセと協力してな」
「それはよかった。まったく、いきなり飛び出してハイセと一緒に行くとは考えもしなかったよ。いつものサーシャらしくないというか、短慮というか、浅はかというか……もしこのまま君に何かがあったら全てが水の泡だ。一応、レイノルドをクランマスターとした新しいクラン設立の案もボク独自で進めていたよ。その可能性は低いと思ったが、一つの答えに対し千の対応策を出すのがボクの仕事だからね。まったく、本当にキミというやつは……」
「すまない、タイクーン……ああこれ、ハイセがタイクーンにと。ドレナ・デ・スタールの空中城で見つけた書物だ」
「全てを許そう」
タイクーンは急に笑顔になり、サーシャの手から本をひったくった。
そのままページをめくり、ブツブツと何かを喋っては笑顔になっている。
レイノルドは呆れつつもタイクーンを押しのけた。
「まぁ、無事でよかったぜ」
「レイノルド……本当に、すまない」
「もういい。全部終わっちまったことだしな。それに、よーやくオレも臨時マスターの座から降りられるぜ」
「……本当に、すまない」
「だから、もう謝んなって。こうして無事に戻ってきたんだ」
「ああ……あ、そうだ」
と、サーシャはアイテムボックスから、盾を意匠にしたチェーンを出した。
「これ……ドレナ・デ・スタールで見つけたんだ。レイノルドに似合うかと思って」
「……オレに?」
「ああ。その、レイノルドはオシャレだし、気に入らないかもしれないけど……」
レイノルドは受け取り、チェーンを首に下げた。
胸元で、シルバーの盾が小さく揺れている。
「うん、似合ってる」
「…………っっ、っはぁ~~~……ったく、そういうところだよなぁ」
「え?」
「ありがとな。はぁぁ~……オレも単純だぜ。ちくしょう」
そして、ロビンとピアソラ。
「二人にも、迷惑をかけた……申し訳ない」
「あたしは怒ってるからね。そりゃ心配したけど、ハイセが一緒だし大丈夫かな~とも思ってたけどぉ……」
「ロビン……」
「今度、あたしが満足するまでスイーツ食べ歩きに付き合ったら許してあげる!!」
「え……」
ロビンは笑っていた。
サーシャは、そのやさしさに感謝しつつ、しっかり頷いた。
そして……問題のピアソラ。
「ふっふっふっふっふっふ……」
「キモっ……おいピアソラ、キモいぞ」
「確かにな。ロビン、クラン内にいる回復系能力者を。どうやら頭をやられたようだ」
「おっけ~」
「違いますわ!! ってかテメェらはすっこんでろ!! サーシャ……私、怒っています」
「あ、ああ……許してもらえるなら、なんでもしよう」
「お、おいサーシャ、それはやめとけ」
「あたしもまずいと思うけど~……」
レイノルドとロビンを殺意満点の目で睨むピアソラ。二人は恐怖で数歩下がっていた。
「では、これから一緒にお風呂に行きます。その後は一緒にベッドへ!! もちろん生まれたままの姿で、朝までたっぷり抱きしめてもらいますわ!! それを……十日間!! 十日間で許しましょう!! 十日間、私とお風呂、裸で添い寝をしてもらいます!!」
「それでお前が許してくれるなら……」
「ッッッッッシャァァァァァァァ!!」
人生最高とばかりにピアソラは喜んでいた。
そして、サーシャを連れて浴場へ。ロビンも「心配だからついてく」と行ってしまった。
タイクーンは本に夢中だし、残されたレイノルドは首に下がるチェーンを見てため息を吐いた。
「ま、本当に……無事でよかったぜ」
こうして、クラン『セイクリッド』に、サーシャが戻ってきた。
 





