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S級冒険者が歩む道~パーティーを追放された少年は真の能力『武器マスター』に覚醒し、やがて世界最強へ至る~  作者: さとう
第十章 ドレナ・デ・スタールの空中城

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ドレナ・デ・スタール・ラブソング/終わらないレクイエム

『ご清聴、ありがとうございました』


 歌と踊りが終わり、ヴァイスは丁寧で完璧な一礼をする。

 ハイセとサーシャは拍手……ヴァイスは、ここで初めて『笑った』。

 二人はヴァイスの元へ。

 ハイセは、ヴァイスの顔を見ながら言う。


「お前、笑えるんだな」

『はい。お客様を不快にさせない機能の一つです。ですが、その……思考回路に軽微のバグでも発生しているのでしょうか。私の『意思』に関係なく発動しました』

「ふふ、それはきっと、お前が嬉しいと『心』で感じているからだろうな」

『こころ』


 サーシャに言われ、ヴァイスは自分の頭を押さえた。


『こころ、が……』

「違う。心はそこじゃない……自分の胸にある想いのことだ」


 そう言い、サーシャはヴァイスの手を取り、そっとヴァイスの胸に手を置く。

 ヴァイスの胸からは、動力機関である時計のような羅針盤、『時の心臓』がある。カチ、カチ、カチと静かに時間を奏でるような音がサーシャにも聞こえていた。


「お前はもう、人間と変わらないと私は思う。これだけ人を感動させることができるんだ……ふふ、柄にもなく泣いてしまったよ」


 涙をぬぐい、サーシャは笑った。

 ヴァイスはサーシャを、そしてハイセを見る。


『ああ───………私は、造られてよかったと、『心』で感じています。ムッシュ、マダム……私が存在する理由が心で理解できました。本当に、ありがとうございました』

「…………」

『では、そろそろ参りましょう……この劇場都市を、終わらせに』


 ヴァイスは歩き出した。

 サーシャも後に続くが、ハイセは動かなかった。


「ん? どうした、ハイセ」

「……先に行っててくれ」


 そう言い、ハイセは一人だけ別の方向へ歩き出した。


 ◇◇◇◇◇


 ホテルに戻ると、ヴァイスは気づく。


『マダム。ムッシュは何処へ?』

「ああ、少し用があると……あー、そのマダムというのはなんだ? ムッシュはハイセのことか?」

『はい。全ての男性、女性へ対する敬称のことです。名前で呼ぶという大それたこと、私にはできませんので』

「そういうものか……? ところでヴァイス」

『はい』

「……お前は、本当にこのホテルと運命を共にするつもりか?」

『はい。私の存在意義はもうなくなりました。最後、ムッシュとマダムに私の歌と踊りを堪能していただけただけで、もう満足です』

「…………」

『マダム。確認しますが……地上へ戻る手段はあるのですね?』

「あ、ああ。ハイセのヘリとかいう乗り物で降りれるだろう」

『わかりました。では』


 ヴァイスは、ハイセとサーシャが見つけた事務所へ。

 壁にあった小さな扉を開けるとレバーがあり、それをひねると事務所奥へ通じる通路が開く。


「こ、こんな仕掛けが……」

『これを知るのは、ホテルの従業員だけです』

「悪い、遅くなった」


 と、ここでハイセが合流。

 サーシャが「どこへ行ってた?」と聞くと、「お宝見つけたから回収した」とだけハイセは言う。

 ヴァイスに続き、地下の階段へ降りていくと……そこは、機械で埋め尽くされた『鉄の部屋』だった。


「す、すごい……!!」


 サーシャが驚く。

 部屋はとんでもない広さだった。中央に巨大なクリスタルが半透明のドームに覆われて浮かんでおり、その傍には端末が設置されている。

 クリスタルにはいくつものコードでつながれており、周囲には半透明の板が浮かんでは消え、浮かんでは消えていた。


『これが反重力装置です。太陽光により常にフル充電状態。仮に充電が不可になっても理論上では蓄えたエネルギーで745年の飛行が可能』


 そう言いながら、ヴァイスは端末を操作する。

 そして、キーボードに何かを打ち込み、最後に端末にあった一番大きな赤いボタンを押した。

 端末画面には『最大上昇』と表示されていることに、ハイセが気づく。


『ムッシュ、マダム。最後に私を取り戻してくれて、そして……私の歌を聞いてくれて、ありがとうございました』

「……ヴァイス」

『速やかに脱出を。当ホテルは間もなく閉館となります。長らく、ご利用いただきありがとうございました』

「…………そうだな、じゃあ行くか」


 と───……ハイセは、ヴァイスの腕を掴んだ。


『……え?』

「役目はある」

『む、ムッシュ?』

「……ああ、そういうことか、ハイセ」


 サーシャは微笑み、ヴァイスの反対側の腕を掴んだ。


『ま、マダム? あの』

「お前は、ここ(・・)での役目が終わったんだろ。だったら……新しい職場は、俺が用意してやる。お前の歌と踊り、ここで無くすには惜しい」

「同感だ。ヴァイス、お前はこれより、私とハイセの物だ。お前はもっともっと……お前が喰らった仲間の分まで、人々を幸せにできる権利がある」

『……え』


 困惑。

 メモリに深刻なエラーが発生したヴァイス。だが……不思議と、修正システムを起動する気にはならなかった。なぜなら、修正してくれるのは目の前にいる二人だから。


「サーシャ、お前新聞読むか?」

「当たり前だ」

「少し前の記事で読んだ。古い劇場が売りに出されるとか……そこ、俺が買い取る。改修もする。ヴァイスのステージとして使えるだろ」

「いい案だ。ヴァイスは人間と変わらないが、人間ではない『動く人形』だ。物珍しく、狙われることもあるだろうな……まぁ、劇場のオーナーはお前、運営は私のクランでやろう」

「採用だ。へ……禁忌六迷宮で一番の財宝を手に入れたぜ」

「ああ。ヴァイス、文句は言わせんぞ」

『…………』


 ヴァイスは、ハイセとサーシャの手を掴んだ。


『私は、まだ……存在してもいいのですか?』

「ああ。まぁ、あれだけの踊りを一回しか堪能できないのはもったいない。お前、あれ以外にもまだまだ歌えるし踊れるんだろ?」

『はい。777体全てのデータがあります』

「ふふ、それは楽しみだ。全てを堪能するまで、お前には働いてもらうぞ? 私にもようやく、女らしい趣味が見つかりそうだ」

『マダム……』

「さて、そろそろ脱出するか。行くぞ、サーシャ……ヴァイス」

「ああ」

『───……はい』


 三人は外へ。

 外に出ると、気温が一気に下がっていた。


『現在、高度6000メートルです。成層圏を超え中間圏……早期脱出を提案します』

「さ、寒い……は、ハイセ」

「わかってるよ」


 ハイセが生み出したのはヘリコプター。

 だが、最初のと形状が違う。


「……なんだか骨組みみたいだが、大丈夫なのか?」

「今の高度じゃ普通のヘリは厳しいからな。それよりさっさと乗れ」


 ハイセ、サーシャ、ヴァイスが乗り込むと、ハイセはエンジンをかけて離陸。

 一気にホテルから脱出し、距離を取った。

 サーシャは、窓から遠く離れていくドレナ・デ・スタールを見る。


「……空へ向かっていく」

『熱圏、外気圏を抜けて宇宙空間へ。そのまま太陽へ向かい、最終的には跡形もなく消滅するでしょう』


 ハイセたちが脱出すると同時に、ドレナ・デ・スタールは速度を上げた。

 それから数分もせず、ドレナ・デ・スタールは宇宙空間へ。もうサーシャとハイセの肉眼でもとらえることができず、ただの空が広がるだけだった。

 ゆっくりと地上へ降り、雲を抜ける。

 すると、サーシャは気づいた。


「お、見ろ。あっちの雪原……極寒の国フリズドが見えるぞ」

「あれがフリズドか。なかなかデカイな」

「ハイベルグ王国ほどではないがな。砂漠の国ディザーラ、森国ユグドラと並ぶ大国家だ」

『ヒトの、国……』

「ああ、忘れてた……おい、ヴァイス」

『はい、ムッシュ』


 ハイセは操縦桿から手を放し、ヴァイスに一着のドレスを渡した。

 アイテムボックスから出したのだ。


『これは……』

「よくわからんから、衣装室にあった衣装とか小道具、全部アイテムボックスに入れてきた」

「お前、これを回収していたのか」


 ハイセは指でアイテムボックスのリングを弾きサーシャへ。大容量の収納がある、ハイセがいくつか所持しているアイテムボックスの一つだ。


「そこに全部入ってる。汚れたり、破けてるのもあったけど直せるだろ」

『ムッシュ……ありがとうございます!!』

「ふ、やるではないか、ハイセ」

「そりゃどーも」


 ハイセはそのままヘリを操縦、ハイベルグ王国から少し離れた場所に着陸し、ヘリを消した。


「ここからは歩いていくか……と、ヴァイス」

『はい』

「目立つから、ローブ着てけ。あと帽子も」


 ヴァイスに厚めのローブを着せ、帽子を深くかぶらせた。

 サーシャは、久しぶりの地上が嬉しいのか、大きく伸びをする。


「はぁ~……久しぶりの地上だ」

「のんきな奴だな。お前、レイノルドたち振り切って勝手に俺に付いてきたこと、忘れるなよ。お前がちゃんと説明しないと、俺がお前のクランに何言われるか……」

「わ、わかっている!! くっ……ちゃんと謝罪せねばな」

「ホテルで土産いっぱい拾ったろ。それちゃんと渡せよ。ああ、これタイクーンに。俺からってことで」


 ハイセはサーシャに数冊の本を渡した。

 サーシャは無言で受け取り、「どう謝ろうか、謝罪文……」と、ぶつぶつ言っている。

 ヴァイスは空を見上げていた。


「まだ、見えるか?」

『いえ。反重力装置の出力は最大にしましたが、太陽までは遠く6ヶ月はかかります。今はきっと……」

「……そっか」


 ハイセは空を見上げる。

 そして、隣にサーシャも並び、空を見上げた。


「禁忌六迷宮の一つ、『ドレナ・デ・スタールの空中城』……踏破だな、ハイセ」

「ああ。俺とお前でな」

「ふふ、そうだな……それに、今回は素晴らしい『財宝』を手に入れた」

「……そーだな」


 三人はしばらく空を見上げていた。

 天空を彷徨い続けた古の城、その正体は観光地であるホテル・ドレナ・デ・スタール。

 そのホテルはようやく役目を終え、太陽へと還っていった。

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〇S級冒険者が歩む道 追放された少年は真の能力『武器マスター』で世界最強に至る 2巻
レーベル:GAコミック
著者:カネツキマサト
原著:さとう
その他:ひたきゆう
発売日:2025年 10月 11日
定価 748円(税込み)

【↓情報はこちらのリンクから↓】
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お読みいただき有難うございます!
月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
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― 新着の感想 ―
[気になる点] お前が喰らった仲間の分まで、人々を幸せにする権利がある となっていますが、権利だと〜してもよいと言う意味になるので、 この場合義務か責任の方が適切な様に思えます。 [一言] ハイセは『…
[一言] 1万m超えの記録を持つSA315Bなら飛行高度は大丈夫だろうけど、低酸素症の方がやばいな 6000mだと気圧も地表の半分以下だし
[一言] ヴァイス実質世界最強かつ発展途上なのでどんな輩に狙われても一蹴しそう、、 ちょいちょいシナリオの中でホロ切ないストーリーを挟んでくるのがとてもいいですね 単純なざまぁものにおさまらない、ず…
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