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S級冒険者が歩む道~パーティーを追放された少年は真の能力『武器マスター』に覚醒し、やがて世界最強へ至る~  作者: さとう
第十章 ドレナ・デ・スタールの空中城

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白銀の踊り子ヴァイス・エトワール③/麗しのバラード

 ハイセ&サーシャVS踊り子型オートマタ・ヴァイス。

 戦闘開始からすでに十五分。二人は、ヴァイスの動きにかろうじて食らいついている状況だった。

 ハイセはサーシャが前衛として剣を振るっているので強力な火器を使えず、サーシャは迫るヴァイスをハイセに近づかせないよう必死だった。

 今は、この形がベスト。

 サーシャの前衛、ハイセの援護。

 二人は気づいていない……この形が、S級冒険者『銀の戦乙女(ブリュンヒルデ)』と『闇の化身(ダークストーカー)』が手を組んだ最強のスタイル。ガイストですら打ち破ることができない陣形だと。

 だが、ヴァイスはその上を容易く超える。

 ハイセはマガジンを交換しつつ叫んだ。


「間違いなくガイストさんより強ぇな!!」

「同感、っだ……ッ!!」


 ヴァイスの鉄扇を受け、弾いたサーシャ。

 するとヴァイスは優雅にステップを踏みつつ、くるくる高速回転。摩擦で床から黒い煙が上がる。


『マダム、踊りましょう』

「くっ……!?」


 回転からの、鉄扇による連続攻撃。

 そしてついに、サーシャが鉄扇の一撃をモロに受け、着ていた鎧が砕け散った。


「ぐ、ぁっがっは……ッッ」


 地面を転がり、壁に激突する。

 すると、陶器のような顔を歪ませもせず、無表情のヴァイスがサーシャに迫った。

 サーシャは剣を構えようとするが───……剣がない。


「しまっ……」


 剣は、すぐ近くに転がっていた。

 手を伸ばすが届かない。ヴァイスが迫っている。

 鎧が砕け、鎧下が見えた状態だ。今のサーシャでは、ヴァイスの鉄扇を躱せない、受けれない。

 間違いなく、喰らえば骨が砕ける。腹に食らえば内臓が飛び出すほど肉が裂けるだろう。

 サーシャはまっすぐヴァイスを見た。表情の変わらない人形は、鉄扇を振りかぶって目の前に。

 そして、その一撃が───……。


「この時を待っていたぜ!!」


 すると、真横から飛び出してきたハイセが、ヴァイスに飛び掛かった。

 完全な不意打ちだった。

 ハイセは、ヴァイスにしがみつく。


「狩りと同じだ!! 最も無防備になる瞬間が、獲物を狩る瞬間!! サーシャにとどめを刺す瞬間が、最大にして最後の好機だってなぁ!!」

『ムッシュ、踊り子にはお手を触れず、フレズ、触れズ、お願いしまママママ……』

「さぁ、ここからがハイライトだ!!」


 ガイスト仕込の体術を駆使して引き倒し、床を転がるハイセとヴァイス。

 ハイセが右の五指をバッと開くと、ガシャッと小さな拳銃……レミントン・デリンジャーが袖から飛び出してきた。


「人の形してんなら、弱点は頭かぁ!? 食らいやがれッッッ!!」


 ヴァイスの頭部に銃弾が放たれる。

 弾丸は頭部に食い込んだ。が、頑丈な頭部を貫通することはなかった。

 だが───……効果があったのか、ヴァイスの身体がビクンと跳ねた。


「ぐぁっ!?」

「ハイセ!!」


 恐るべき力でハイセは跳ね飛ばされ、地面を転がりサーシャのそばへ。

 サーシャは剣を拾い、ハイセを助け起こした。


「だ、大丈夫か!?」

「くっ……悪い、仕留めきれなかった」

「気にするな。ハイセ、どうする……無理にこいつと戦う必要はないかもしれん。このまま撤退というのも……え?」


 サーシャがヴァイスを見て、動きを止めた。

 ハイセもヴァイスを見る。

 ヴァイスは、頭を押さえガクガクと震えていた。


『ワワワ、ワタシ、ワタシは、オドル、踊る、ヒトのために、戦う。戦いたくない。チガウ……シシシ、しめい、使命、魔獣、マスラオ・ショウジョウ、タオス、倒す……あ、ガガガガガガガガガ』


 ハイセの銃弾は頭部にダメージを与えた。

 だが、わずかな亀裂を作っただけで、深刻なダメージではない。

 でも……銃弾の『衝撃』が、ヴァイスの人工知能とメモリに、ダメージを与えていた。

 拡張された人工知能。取り込んだ大量の知識がバグとなり、深刻なエラーが発生した状態だった。が……頭部に衝撃を受けたことで安全機能が作動し、人工知能保護のために一時的な活動停止状態となったのだ。

 二人の前で、ヴァイスは完全に動きを停止する。


「な、なんだ……?」

「止まった、のか? ハイセの攻撃が……効いていた、のか?」


 すると、ヴァイスが静かに顔を上げる。

 二人は剣と銃を構えた。

 ヴァイスの深紅の眼がチカチカと点滅。エメラルドグリーン、ブルー、深紅と何度も点滅を繰り返していた。

 再起動した人工知能が、ヴァイスのメモリを整理……『踊り子』として必要なことだけを保護し、必要のない知識を強制削除していたのだ。

 そして───……ヴァイスの目が、綺麗なエメラルドグリーンに輝いた。

 美しく優雅に、ハイセとサーシャに一礼する。


『ムッシュ、マダム……お怪我は、ありませんか?』

「「……は?」」


 まるで、人間のように、ヴァイスは二人を心配した。

 鉄扇を背中の空洞に収納し、落ちた帽子を拾って被る。


『私はヴァイス。歌と踊りを愛するオートマタ。ムッシュ、マダム……あなたたちにはご迷惑をおかけしました。私は、本来の形に再起動することができたようです』

「「…………」」


 ハイセとサーシャは互いに顔を見合わせた。

 立ち上がり、警戒しつつもハイセは聞く。


「お前、人間じゃないよな……なんなんだ?」

『私は踊り子型オートマタ。この劇場で、人々のために踊り、歌う存在です』

「オートマタ……外にいた連中と同じか」

『基本的には。私は戦闘型ではなく、娯楽を提供するための存在です。どうやら……長い年月が経過しているようです』

「……オートマタってのは、その……お前みたいに、感情を持つのか?」

『いえ。私は特殊です。同型機と、戦闘用オートマタの人工知能を取り込んでメモリを拡張し、自己の意志と感情のようなものを手に入れました。オートマタには基本、一つの存在意義だけが存在します』

「……あー」


 何を聞けばいいのか。

 ハイセはポカンとしているサーシャを見たが、言葉が出ないようだ。

 すると、ヴァイスは言う。


『ムッシュ、マダム……お願いがございます』

「……なんだ?」

『このホテル・ドレナ・デ・スタールを、破壊して欲しいのです』

「……は?」


 ヴァイスは、くるりと回転し、静かに踊りだす。

 今までの踊りと違い、どこか悲しい……寂しい踊りだった。


『私の役目は、遥か昔に終わったようです。役目の終わったオートマタたちに、安息を』

「破壊って……どうやってだ? こんな巨大な建物……」


 そこまで言い、ハイセは自分の『兵器』なら可能性があることを思いつく。

 だが、ヴァイスは言う。


『このホテル・ドレナ・デ・スタールの地下に、反重力システムを統括するマザーコンピューターがあります。そこに『浮上』の命令を与えれば、このホテル・ドレナ・デ・スタールは大気圏を飛び出し、宇宙まで飛ぶでしょう。いつかは太陽に到達し、跡形もなく消えるはずです』

「うちゅう? たいき、剣?」


 サーシャは首を傾げたが、ハイセには理解できた。空の彼方、星の世界に送るのだ。

 これだけの物、地上に落ちれば甚大な被害が出るだろう。

 

「…………わかった」

「は、ハイセ? まさか……この城を、破壊するのか?」

「ああ。こいつの言う通り、ここはもう役目を終えたんだろうさ。それに、真実がわかったとはいえ、ここが禁忌六迷宮の一つには違いない……ダンジョンを終わらせるのは、冒険者である俺たちの仕事だ」

「……確かに、そうかもしれない」


 ハイセは、ヴァイスに聞いた。


「お前はどうするんだ?」

『私も同じです。もう、存在意義はありません。最後を共に迎えようと思います』

「「…………」」

『ああ、ムッシュ、マダム……最後に、もう一つだけお願いしても、よろしいでしょうか』

「……なんだ?」


 ヴァイスはステップを踏み、二人に向かって一礼した。


『最後に、私の歌と踊りをご覧になって頂けないでしょうか。私の存在意義を、私が存在した証を残したいのです』

「……サーシャ、来い」

「え、あ」


 ハイセは、サーシャの手を引いて観客席へ。

 そのまま、最前列の椅子に並んで座った。

 ヴァイスは一礼し、舞台袖へ。

 数分しないうちに、衣装を変えたヴァイスが現れ……静かに、歌いだした。


 ◇◇◇◇◇



『月は高く、空に深く、その光は遠くまで、輝き広い世界をめぐり、人々の家を見つめる』



 ◇◇◇◇◇


 美しい歌声だった。

 二人はヴァイスの歌を静かに聞く。


 ◇◇◇◇◇




『月よ、しばらくそこにいて。教えて、私の愛しい人はどこ? 彼に伝えて、銀の月よ。私の思いは彼を抱きしめている。ほんの束の間でも、彼が私の夢を見てくれたら』




 ◇◇◇◇◇


「…………」

「…………っ」


 サーシャは、いつの間にか涙を流していた。

 ヴァイスの歌が悲しく、愛を叫び、心を揺さぶる。

 ハイセはアイテムボックスからハンカチを出し、サーシャに差し出した。

 悲しくも愛しい歌。ハイセはボソッとつぶやいた。


「……終わりにする、か。もったいないな」

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〇S級冒険者が歩む道 追放された少年は真の能力『武器マスター』で世界最強に至る 2巻
レーベル:GAコミック
著者:カネツキマサト
原著:さとう
その他:ひたきゆう
発売日:2025年 10月 11日
定価 748円(税込み)

【↓情報はこちらのリンクから↓】
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お読みいただき有難うございます!
月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
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― 新着の感想 ―
[一言] この戦いでサーシャにとっての最高のパーティーに必要なのはハイセだという事が解っただろう。セイクリッドメンバーではヴァイスの攻撃に対処は難しかっただろう。でも追放した手前戻って来てとは言えんだ…
[気になる点] >サーシャの前衛、ハイセの援護。 いつかハイセにとっての『最強』とサーシャにとっての『最高』が何なのか…まで理解することになるのかな [一言] >レミントン・デリンジャー オリジナルは…
[一言] そう言えば某所に閉鎖予定の劇場があったよな。 バッテリーはここのを持っていくか、ヘリのを 使えば良いし、修復に必要な金属は知り合いの メタルマスターに肉と交換して貰えそうだし以外と 何とかな…
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