天空の舞踏城ドレナ・デ・スタール⑫/リング上部~空魚のソナチネ~
バハムート。
一言で表現するなら『空飛ぶ魚』だ。間抜けな表現だがそういうしかない。
幸いなことに、上空十メートルほどをふよふよ浮かんでいる。ここからなら銃による攻撃も届く。
ハイセはバハムートの側面に回り込み、自動拳銃を連射する。
「サーシャ、正面は任せた!!」
「ああ、任せろ!!」
サーシャは剣を構え、近くの瓦礫に飛び移り跳躍。
バハムートの真正面から切りかかる。
『───ATTACK』
バハムートから機械音声が聞こえた。
すると、バハムートの側面にある鱗のような突起が全て起き上がり、高熱を帯びる。
口にある牙も熱を帯び、背びれ部分が展開し噴射口となる。
バハムートの攻撃は、高熱を帯びた全身のブレードによる体当たり。サーシャは素早く看破するが、すでに跳躍したので真正面から受けるしかなかった。
サーシャは、黄金の闘気を纏い、バハムートの口にある牙とぶつかった。
「ぬ、ぐぐッ……ッ!?」
あっさりと押し負け、近くの民家に激突する。
「サーシャ!! この野郎……!!」
ハイセは自動拳銃をホルスターへしまい、両手を前に突き出す。
現れたのは、ガトリングガン。ハイセは建物に突っ込んだバハムートの噴射口めがけてトリガーを引く。
圧倒的な数の弾丸がバラ撒かれ、バハムートの背びれと尾びれに食い込んでいく。貫通することはないが、連続で弾丸を浴びた衝撃で背びれと尾びれが破損、噴射口に弾丸が侵入し、ブースター部分が爆発した。
「サーシャ、生きてるか!!」
ハイセが叫ぶ。すると、バハムートが吹き飛ばされた。
サーシャが、全身に闘気を纏った状態で、バハムートを蹴り飛ばしたのだ。
「私は無事だ。が……かなり痛かった、こいつめ」
ぱんぱんと肩や腕を払い、剣を握る。
吹き飛ばされたバハムートは、すぐに空中で態勢を立て直す。ブースターが破損したようだが、行動に支障がないようだ。
すると、バハムートは。
『自動修理起動』
なんと、辺りに転がっているオートマタに食らいつく。
すると、破損した背びれと尾びれ、噴射口が直っていく。
「と、共食い……」
「なるほどな。タイタンがほかのオートマタと違って綺麗だったのは、この共食いの力のおかげか。同種であるこいつにも同じ力が……」
ハイセは、グレネードランチャーを手に榴弾を装填する。
「サーシャ、共食いの力がある限り、こいつは倒せない。見ての通り、こいつのエサはそこら中に転がってるからな……どうする?」
「決まっている」
サーシャは剣に闘気を込める。
「共食いができないくらい、粉々にすればいい」
「怖いな……できるのか?」
「ああ。お前もできるだろう? 互いに、時間さえあればな」
「まぁな。じゃ、今回はお前に譲る。俺が時間を稼ぐから、好きにやってみろ」
そう言い、ハイセはグレネードランチャーを発射、突進してきたバハムートの頭部正面に激突し、大爆発を引き起こした。
再び、バハムートは共食いを始め、破損部分を修復する。
ハイセは両手に自動拳銃持ち、修復が始まると同時に破損個所に銃弾を叩きこんだ。
「直した瞬間からブチ壊してやる」
マガジンを交換。
バハムートは、再び共食いを始めるが、ハイセは接近して頭部に銃弾を叩きこむ。
再び共食いを始める───弾丸を叩きこむ。
「結論。こいつは頭が悪い。壊れると修復を優先するように行動してるから、修復が始まると同時に修復個所に銃弾を叩き込めば……永遠に共食いをするだけの馬鹿になる」
ハイセはマガジンを交換し、サーシャに言った。
「準備は?」
「できている」
そこには、闘気を剣に込めたサーシャがいた。
いつもと違うのは、ただ闘気を込めるのではなく、剣に込める闘気の形状を極細に、研ぎ澄ませた刃のように、細く長くしていることだ。
サーシャは剣を構え、ハイセはその場から飛びのく。
「『黄金神話絶刀』!!」
極細の闘気刀による、超高速の百連斬り。
共食い中だったバハムートは、細切れとなり───爆散した。
「ふ───脆いな」
「…………」
ハイセは、素直に「強い」と感じていた。
闘気の扱いが、ヒジリと戦った時よりも桁違いに上手い。ヒジリも強くなっているだろうが、今のサーシャなら、当時のヒジリは敵ではないだろう。
自分が戦うとしたら、銃だけでは倒せない。レベルの高い『兵器』を使用しなくてはならないだろう。
「……どうやら、復活はしないようだな」
「ああ。お疲れ」
「お前もな」
サーシャは拳を突き出してきたので、ハイセは自分の拳を軽く合わせた。
今は、考える必要はない……サーシャと戦うことなんて。
◇◇◇◇◇
バハムートを倒した二人は、休めそうな家を探す……が、上部は中部よりもひどく、ほぼすべての建物が倒壊寸前だった。
だが、バハムート以外のオートマタはいない。それだけはありがたい。
歩くこと数時間、二人は中部にあったシェルターと同じものを見つけた……が、シェルターはかなり破損しており、壁が崩壊し中が丸見えだ。
だが、その辺の廃墟よりはましだった。個室はあり、ドアがちゃんと閉まるだけでもありがたい。
二人は、広い個室を軽く掃除し、アイテムボックスから野営道具を出した。
「とりあえず、今日はここで休むか」
「ああ。明日はこの辺の調査か?」
「そうだな。これだけボロボロの廃墟ばかりだし、期待はできないけどな……調査して、何もなさそうだったら、次は城へ行こう」
「わかった……思ったより、早く地上に帰れそうだな」
出発してから一週間ほど経過していた。
城の調査次第では、一月かからず戻れるだろう。
「早く帰れそうでも、城は隅々まで調査するからな。ヘリから見てわかったけど、城は損壊もなさそうだし、綺麗な状態だった。図書室とか、歴史的なものが多くあるかも……ワクワクするな」
「お前もタイクーンと同じだな……この場にいたら、一月どころか数年は帰れそうにないな」
「ま、俺もタイクーンの知識に貪欲なところは嫌いじゃない。あとでここの本をいくつか渡すから、あいつに渡してくれ」
「……優しいのだな」
「普通だろ。お前も、ロビンとかに土産持ってけよ」
二人はまるで、《もう調査が最後まで見えている》ような感じで話していた。
二人は完全に失念していた。
かつて、この城が一度だけ地上に降りたことがあり、多くの冒険者たちが乗り込んだこと。その冒険者たちが誰一人として戻って来なかったことを。
その理由は決して、『上空から戻ることができなかった』からでは、ない。





