天空の舞踏城ドレナ・デ・スタール⑩/リング中部~驚愕のシンフォニー~
ハイセとサーシャは、夜通しオートマタたちを躱しながら、安全な場所を探していた。
特殊個体であるタイタンを倒したはいいが、ポーンタイプの『スラッシュ』が何体も現れ、ハイセたちの行く先々で襲い掛かってくる。
だが、どの個体も腐食しており、ハイセとサーシャの敵ではない……が、さすがに数が多く、疲れというよりもうんざりしてきた時だった。
夜が明け始め視界が広がる中、サーシャが指を差しつつ叫ぶ。
「ハイセ!! あの建物、この辺りの物とは毛色が違う。もしかしたら」
「ああ、行く価値はあるな」
サーシャが指差した建物は、金属製のドームのような建物だ。
二人は進路を変え、ドームを目指す。
ドームに到達。金属製の重いドアを開けて中へ滑り込み、ドアを閉めた。
閂があったので閉めると、ようやく落ち着いた。
「ふぅ……思った以上に敵が多い」
「ボロボロの連中だけどな。おそらく、オートマタだけで『敵』の存在がいなかったんだろう。だから、異物である俺らを敵と認識したのかもな」
「……ずっと、彷徨っているのか。あの敵は、動かなくなるまで……」
少し黙り込む。そして、ハイセはドーム内を見た。
窓が小さく、外の明かりが少ないせいで薄暗い。
ドーム内は、一階と二階に分けられているようだ。一階部分には毛布や机、空きビンや寝袋のようなものが散乱していた。
「ここは、避難所みたいなところだったのかもな」
「二階もある。行ってみよう」
二人は階段を使い二階へ。
二階は個室が並んでいた。中には骸骨があるわけでもなく、ベッドと机しかない。
部屋を調べつつ進むと、一つだけ大きな部屋があった。
「ここは……少し違う部屋だ。本や、羊皮紙がある」
「……何か、書かれている。これは……」
それは、英語だった。
不思議と、ハイセには読めた。
「報告書。『七大厄災』の眷属『ハヌマン』の大量発生により、護衛オートマタの七割が損壊。しかしハヌマンの九割が全滅。残るは最大の厄災である『マスラオ・ショウジョウ』のみ。厄災殲滅型全七機投入。『アンフィスバエナ』、『ラタトクス』、『キマイラ』、『コカトリス』、『ポスポロス』完全破壊、修復不可能。『タイタン』、『バハムート』損壊。自動修復機能発動により動けず。『マスラオ・ショウジョウ』生存、傷の治療のため休眠。残存戦力はほぼ皆無……最終手段、『オペレーション・ドレナ・デ・スタール』発動。この国は永遠なり……」
「……なんだ、それは?」
最後まで読み終えたハイセは、少し考えこんだ。
◇◇◇◇◇
他にも、この部屋にはいくつかの資料があった。
それらを集め、ハイセは読み始める。
「……なるほどな」
「ハイセ?」
「ここがどういう施設で、何があったのか……仮説ができた」
「……わかったのか?」
「ああ。どうする、聞くか?」
「ぜひ頼む」
「その前に、せっかく個室があるんだ、野営の支度するか。ここはオートマタの侵入もできないシェルターだからな」
ハイセとサーシャは、個室を軽く掃除した。テントは出さず、ベッドに寝袋を置いたり、ランプを吊るし、温かい紅茶のポットを置いてカップへ。
食事にはまだ早いので、ハイセはチョコやキャンディを出してサーシャへ。
「甘いの食べておけ。疲れ、取れるぞ」
「ああ、ありがとう」
甘いものを頬張るサーシャは、年相応の少女にしか見えなかった。
ニコニコしながらチョコを食べ、紅茶を飲む姿に、ハイセは少しだけ微笑む。
「な、なんだ」
「いや……相変わらず、肉と甘いのは好きだよな」
「べ、別にいいだろう」
「ああ。ところで、女の子らしい趣味は見つかったか?」
「っ!?」
「プレセアがよく言ってるぞ。サーシャは花を育てたり、アクセサリーを買ったりして悩んでるって」
「ぷ、プレセアめ……そ、そういうお前はどうなんだ」
「俺は変わらないさ。読書が趣味だね」
「むぅ……」
ハイセはチョコをつまんで口の中へ。
甘すぎるチョコだが、疲れた今の身体に糖分はありがたい。
「あの、ハイセ……」
「ん?」
「その、地上に戻ったら、これまで迷惑をかけた詫びがしたい。その……食事でもどうだ?」
「…………は?」
「た、他意はない。その、お詫びだ。迷惑、かけてるし……」
髪を指でくるくる巻きながら、顔を赤く染めて言う。
「別に気にしなくていい。それに……お前がいて、俺も助かってるしな」
「……え」
「前衛。お前のおかげで楽できてる。ま、一人でも行けるけどな」
「ハイセ……」
「ここを踏破したら、俺一人の手柄とかにしなくていい。俺とお前、二人で踏破したってことにしろ。もう、嘘は付きたくない」
「……え? 嘘?」
ハイセは、デルマドロームの大迷宮を一人で踏破したことになっているが、実際にはチョコラテもいた。チョコラテは魔獣だ。その経緯を話すと面倒なことになる。
だが、ここではサーシャと二人。嘘を話す理由はない。
「とにかくそういうことだ」
「あ、ああ」
「じゃ……この『ドレナ・デ・スタールの空中城』のこと、説明するぞ」
そう言い、ハイセは紅茶を飲み干し、カップを置いた。
◇◇◇◇◇
「いくつか資料を見てわかったけど、この空中城はもともと、地上にあったんだ」
「そうなのか?」
「ああ。この空中城、恐らくだがオートマタの技術が発達した古代の国だ。そして、この国が『七大厄災』に狙われた。狙ったのは『マスラオ・ショウジョウ』っていう猿の魔獣。一国に匹敵する群れで、このドレナ・デ・スタールを乗っ取るために襲い掛かってきたらしい」
「魔獣が、国を……? そんな知恵が?」
「あったらしいな。で、この国の最高戦力である七体のオートマタが投入されて、魔獣はほとんど殲滅できた。俺とお前が戦ったタイタンは、最高戦力の一体だ」
「なるほど……」
「マスラオ・ショウジョウは瀕死のダメージを受けた。それでも倒せず、この国は最後の手段である『オペレーション・ドレナ・デ・スタール』を発動させて、国を空へ浮かべた。マスラオ・ショウジョウが外に出ないように、国民と技術、全てを犠牲にした最後の方法で、マスラオ・ショウジョウを倒したんだ。空に浮かべて、国民はシェルターに引きこもって、マスラオ・ショウジョウは食べる物もなく餓死……」
「待った。国民を犠牲に、って……」
「国民は国から出ることなく、この俺たちがいるシェルターに避難してたんだ。ま、わかったのはここまで……空飛んだだけで、国民が全滅した理由がわからん。空を飛ぶことができたなら、降りる手段もあったはずだ。それをしないで、国民が白骨化した……何かあったんだ。報告書を書く時間もないほどの、何かが」
「…………」
「先に進めば、それもわかるかもしれない」
ハイセは、おかわりの紅茶を注ぐ。
サーシャもおかわりをもらい、二人は揃って紅茶を楽しんだ。