天空の舞踏城ドレナ・デ・スタール⑨/リング中部~嘆きのエレジー~
階段を飛び降り、両手に銃を構えハイセは一階へ飛び込んだ。
地雷は家の入口に設置した。玄関へ近づくとセンサーが反応し、小型ベアリング弾が秒速1200メートルの勢いで発射……いや、破裂する。
人体ならバラバラにはじけ飛び、原形も残らない。
現に、玄関ドアが粉々に砕け、室内に散乱していた。
そして───……センサーに反応した物の『正体』が判明する。
『ギギギギ、ぎg、ギギギギg……』
「こいつ……なんなんだ?」
小型ベアリング弾の直撃を受け、半身が吹き飛んだ『鉄の何か』だった。
言うなれば、金属製のデッサン人形。
リング下部で戦った鉄人間とは種類が違う。こちらは胴体が細く、手が剣のようになっており、頭部はつるっとして顔がない。
半身が吹き飛び、右腕と右足が消失している。全身に亀裂が入りつつも、残った手足をバタバタさせていた。
ハイセは、頭部に向けて自動拳銃を連射。弾丸が食い込み、数発目で頭部を貫通。よく見ると身体が腐食しており、長い年月が経過しているのがわかった。
頭部に弾丸を喰らった鉄人間は、爆発することなく動きを停止させる。
「ハイセ!!」
と、ここでサーシャが来た。
ハイセはマガジンを交換しつつ、動かなくなった鉄人間を蹴る。
「確定だな。この鉄人間……生き残りが潜んでいる。サーシャ、ここは危険だ」
「て、敵……なのか?」
「見ろよ。こんな物騒な両手持つ奴が、友好的に見えるか?」
デッサン人形のような鉄人間の両手は、剣になっている。
ハイセの言う通り、味方とは思えない。サーシャは気を引き締める。
「よし、移動しよう。ハイセ、荷物を頼む。私は周囲を警戒する」
「ああ、任せる」
ハイセは二階へ戻り、テントなど全てアイテムボックスへ。
二人が家を出ると、なんとデッサン人形型の鉄人間が何体も徘徊していた。
時間は夜。月明かりしかない中で、ハイセとサーシャを見つけた鉄人間が襲い掛かってきた。
「サーシャ!!」
「任せろ───……黄金剣、『闘気刃』!!」
向かってくる鉄人間。
両手が剣になっており、よく見ると刀身が真っ赤になっている。
リング下部にいた鉄人間は熱線を放ったが、こちらは接近戦タイプのようだ。
だが、サーシャにとってありがたかった。
「接近戦で、私に勝てると思うなよ!!」
闘気を帯びた刃は、鉄人間を容易く両断した。
装甲が腐食している個体が多く、動きもぎこちない。
ハイセは、サーシャの死角から襲い掛かる鉄人間を、自動拳銃の連射で止める。
「その武器、以前のとは違うな」
「大型拳銃は威力あるけど重いし反動がキツイんだよ。こっちは軽いし、両手に持って連射しやすい。人間相手には十分だ」
ドンドンドン!! と連射。マガジンを排出しリロード。消して再び手元に出せば弾丸が装填された状態で出せるが、ハイセは銃の構造やリロードに慣れるために、あえてマガジンを手動で交換する。
十体以上倒したが、鉄人間の数が減ることはない。
「チッ……サーシャ、キリがない」
「ああ。どこか安全な場所はあればいいんだが───……ハイセ!!」
「ッ!!」
街道を何かが転がってきた。
巨大な鉄球。だが、ハイセとサーシャの前で止まると、球体が割れて収納されていた手足が現れる。
デッサン人形型とは違う、明らかに特殊な個体だった。
ボディに、薄汚れた字が書かれている。
「自動人形……厄災殲滅型・コードネーム『タイタン』……こいつの名前か?」
「オートマタ? カタストロフィ……というのは、禁忌六迷宮に封じられている魔獣のことか?」
「恐らく。なるほどな、この鉄の生物を総称して『自動人形』、種類をタイプ、個別の名前が付けられているのか。こいつはタイタン、そして両手が剣になっているのは……」
ハイセは、倒したオートマタを蹴ると、背中に刻まれていた。
「こいつは『歩兵型』で、名前は『スラッシュ』だ。わかってきたぞ……こいつらは、人間代わりの兵士ってわけか。作られた理由は……やっぱり、『七大厄災』関係か?」
「ハイセ、おしゃべりはそこまでのようだ」
と、タイタンの両手にある『鎖付き鉄球』が発射された。
ハイセとサーシャが跳躍して躱すと、タイタンは鎖付き鉄球を頭上で回転させる。
「こいつは倒すしかなさそうだ。サーシャ、やるぞ!!」
「ああ、フフ……ようやく、私の出番が来たな!!」
ハイセは自動拳銃をホルスターに収め、グレネードランチャーを手に持つ。
サーシャは黄金の闘気を纏い、剣を構えた。
◇◇◇◇◇
タイタンの武器は巨大な鉄球。本来、手がある部分が鉄球になっており、右の鉄球を頭上で回転させ、左の鉄球は振り回して無差別攻撃を繰り返している。
現に、左の鉄球攻撃に、デッサン人形型のオートマタ『スラッシュ』が巻き込まれている。建物なども破壊され、周囲が更地になりそうな勢いだ。
ハイセはグレネードランチャーを発射するが、榴弾が鉄球に跳ね返されてしまう。
舌打ちし、鉄球の射程から離れつつ言う。
「サーシャ、俺は遠距離から狙撃する。任せたぞ!!」
「ああ!!」
サーシャは鉄球を躱し、懐に潜り込もうとするが、右の鉄球が振り下ろされ地面に大穴が開く。
「なかなか素早い。それに……硬いッ!!」
左の鉄球が、拳のように突き出される。
剣で受けるわけにもいかず、サーシャはバックステップ。
「ヒジリがいれば、大喜びしただろうな……っ!!」
左の鉄球が発射された瞬間、鎖の部分が千切れ飛んだ。
ハイセの狙撃だ。鎖部分を狙ったアンチマテリアルライフルによる攻撃。
サーシャは、闘気で全身を覆い身体強化。転がった鉄球を全力で蹴り飛ばした。
「だぁぁぁっ!!」
鉄球がタイタンに直撃。そして、サーシャは追撃をする。
闘気を剣に纏わせ、闘気の形状を細く、突きに特化した形態へ。
「『黄金神話突撃槍』!!」
サーシャは剣を投擲。黄金の闘気を纏った剣は、タイタンの身体に突き刺さる。
そのままバチバチと放電し、大爆発。
バラバラに弾け飛び、タイタンが完全に破壊された。
「ふぅ……」
「おつかれさん、サーシャ」
「ああ、援護感謝する」
近くの家の屋根から狙撃したハイセがサーシャのそばへ。
周囲を見渡しつつ言う。
「とりあえず、ここを離れるか。おそらく、こいつみたいな特殊個体はまだいるぞ」
「ああ、安全な場所を探そう」
そう言い、二人はその場を離れることにするのだった。