天空の舞踏城ドレナ・デ・スタール⑦/リング下部~中部へのラプソディ~
謎の鉄人間? を倒したハイセとサーシャは、三つあるリングの真ん中へ行く方法を探していた。
鉄人間。妙な熱を放つ腕、肉がない完全な鉄。初めて遭遇する魔獣であり、魔獣と呼んでいいのかもわからない。
ハイセは、鉄人間の頭をお手玉しながら言う。
「こんな魔獣、見たことがないな。もしかしたら……古代には、こういう魔獣が普通にいたのかもな」
「だとしたら厄介だな……」
「サーシャ、これ斬れるか?」
ハイセは、鉄人間の頭をサーシャに放り投げる。
サーシャは一瞬で抜刀、闘気を剣に纏わせ、連続で七回、ほぼ一瞬で斬り刻む。
頭部がバラバラになり地面に落ち、サーシャは納刀する。
「容易い。スライムを斬るのと変わらない」
「頼りになる。俺の銃弾が通りにくいから、次に出てきたらお前に任せる。俺は援護するからよ」
「ああ、任せておけ」
そう言い、二人は歩き出す。
少し歩き、サーシャは言った。
「どこへ向かっている?」
「あそこだ」
ハイセが指差したのは、現在いるリング下部で一番高い建物……いや、塔だ。
「ここらで一番高い場所だ。あそこから街を見下ろせば、上に行く手段があるかもな。もしかしたら、あの建物が上に行く手段かもしれない」
「なるほどな……ふぅ」
「……どうした?」
サーシャがため息を吐いた。
少し気になり、ハイセは聞く。
サーシャは、苦笑しつつ言う。
「いや……禁忌六迷宮だというのに、私は何の役にも立っていない。考えるのも、道具も、食事も、全部ハイセ頼り……私は、仲間がいなければ何もできないんだなと、実感している」
「…………仕方ないだろ」
「え?」
「お前は、仲間がいてこそのS級冒険者なんだ。なんでも一人でやる俺とは違う」
「…………」
「言っておくけど、俺はお前の仲間じゃないぞ。そもそもお前、勝手に付いてきただけだしな」
「……う、む」
それだけ言い、ハイセは前を向いた。
◇◇◇◇◇
塔に到着した。
塔の周辺は柵で覆われ、厳重な門で閉ざされている。
ハイセが門を開けようと触れると、鍵もなく普通に開いた。
「開いているのか?」
「ああ。見ろ、鍵穴はない。でも、何か操作して開けるような仕掛けがある。禁忌六迷宮の最奥にも、こんな感じのドアがあった」
二人は、電子ロックや生体認証という言葉を知らない。電気エネルギーが通電していないので、今は全てのロックが解除され、ただの重い扉と化しているだけとも知らない。
門を開け、電子ロックのドアをこじ開けて塔の中へ。
塔の中は、何もない。
ドアが一つ、大きなドアが一つ、ハイセたちが来た入口が一つだけの部屋だ。
「……何もないな」
「ドアだけ……ハイセ、どうする?」
「当然、ドアを調べる」
最初に、小さなドアを調べる。
ドアが開き、中に入ると……そこは、やや見覚えがある部屋。
ハイセもサーシャも、見たことがある部屋だ。
「禁忌六迷宮の最奥にあった部屋に似ているな」
「俺もそう思った」
押しボタンがいくつもある板、ガラスの画面、金属の箱。
部屋は狭く、それくらいしか物がない。金属の箱にはいくつもボタンがあり、よくわからないレバーや、透明なガラス板がいくつもあった。
「狭いな……ここは何の部屋だ?」
「禁忌六迷宮では、何かの操作室だった。この板のボタンを押したら、禁忌六迷宮が崩壊した……」
「お、おい……まさか、ここが崩壊するのか? ハイセ、ど、どうしよう」
「落ち着け。そうと決まったわけじゃないだろ。それに、崩壊してもすぐじゃない。攻撃ヘリを出して脱出する時間は十分にある。さて……少しいじってみるか」
「い、いじる? 大丈夫なのか?」
「そうしなきゃ始まらないだろ」
そう言い、ハイセは板のボタンをカチカチ押す。
だが、何も反応がない。
「サーシャ、お前も調べろよ」
「う、うむ……じゃあ」
サーシャは、壁に設置されているレバーを倒してみた。
すると、室内の電気が灯り、ブゥーンと鉄の箱が動き出し、箱の画面に光が灯った。
「おお、そのレバーのおかげか」
「だ、大丈夫なのか? いきなり動き出したぞ? ど、どうする?」
「落ち着け。室内が明るくなったぞ。ほら、その大きなドアも光ってる。たぶん、何か変化があったんだ……よし、行ってみるか」
「あ、ああ……ハイセ、怖いもの知らずだな」
二人は小部屋を出て、大きなドアの前に立つ。
ドアは横開きの金属製。ドアというより門に近い。そばには黒い板があり、ハイセがその板に触れる。
『codeリセット。緊急開放します』
「ん? なんだ?」
「喋ったぞ?」
古代語を理解できない二人は首を傾げるが、同時にドアが開いた。
ドアの先は何もない。ただ広い空間があるだけ。
中に入り、上を見ると……吹き抜けだ。青い空が見えた。
「塔、というか……まるで煙突だな」
「意味が分からん。なんだ、この場所は? 大きな門が開いたと思ったら、何もない……?」
二人が訝しんで空を見上げていたせいで、気付かなかった。
床が、淡く発光していた。
「「───ッ!?」」
気づいた瞬間、二人の身体が光に包まれ───……。
『転送します』
そして、消えた。
◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇
一方その頃、地上では。
サーシャがハイセにくっついて禁忌六迷宮へ向かってしまったので、レイノルドたちはクランに戻り、今後の対応をしなくてはならなくなった。
レイノルドたちがいるのは、ハイベルグ王国郊外に完成した、新しいクラン『セイクリッド』のクランホーム。
王都から徒歩十分ほどの距離にあり、道中の街道もしっかり整備されている。
ホームとなる建物は王都にある支部の数倍以上。訓練場、各種商店、宿屋や食事処なども商業ギルドと契約して入れた、小さな町のようなクランだ。
実はレイノルドたちは、ハイセを見送りに来たわけではない。この新クランホームへ向かう途中で、サーシャが『ハイセの見送りに行く』と言い出したのだ。
まさかサーシャが、ハイセと共に行くとは思わなかった。
レイノルドは大きなため息を吐く。
「あ~~~……頭、痛いぜ。なぁおい、どうなってんだ」
サーシャが、ハイセと禁忌六迷宮へ。
本来なら、ハイセを見送った後にこの新クランホームで完成式を行い、本格的にクラン運営を開始するはずだった。
だが、その予定は白紙となる……なぜなら、サーシャがいないから。
タイクーンは言う。
「仕方ない。サーシャが戻るまで、ボクらでクラン『セイクリッド』を運営する。レイノルド、臨時のクランマスターとして頼むぞ」
「へいへい……はぁぁ」
「サーシャなら心配ない。ハイセが一緒だ。というか、あの二人がいればSSS級だろうが敵ではないだろうさ」
「…………」
そうじゃない。
レイノルドの心配は『サーシャがハイセと二人』ということだ。
想いを伝えたばかりなのに、答えを聞く前に『こんなこと』になってしまった。もう、答えが出たような物だと、レイノルドはため息が止まらない。
すると、ロビンが言う。
「サーシャ、禁忌六迷宮に挑みたかったんだね」
そして、爪を噛んでいたピアソラ。
「キィィィィッ!! ハイセ、ハイセェェェェ……サーシャと、サーシャと二人きり……ッ!! クゥゥゥゥゥゥッ!!」
ガジガジガジと、爪を噛む。
今さら何を言っても仕方がない。サーシャがいなくても、明日はやってくるのだ。
「……仕方ねぇ。サーシャ不在だが、オレらでクラン『セイクリッド』をやっていく。タイクーン、ピアソラ、ロビン、サーシャが戻るまで頼むぜ」
複雑な気持ちのまま、レイノルドを臨時マスターとしたクラン『セイクリッド』が動き出した。





