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S級冒険者が歩む道~パーティーを追放された少年は真の能力『武器マスター』に覚醒し、やがて世界最強へ至る~  作者: さとう
第九章 双子の魔族

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再び冒険へ

 チョコラテたちと別れ、ハイセは宿へ。

 宿に戻ると、甘い香りが一階に漂っていた。すると、シムーンが嬉しそうにハイセの元へ。


「お帰りなさいっ」

「あ、ああ……お前、まだ起きてたのか?」


 時間はもう、深夜を過ぎている。

 いつもなら主人もカウンターにいないはずだが、今日はいた。

 すると、シムーンはもじもじしながら言う。


「あの……お夜食、つくりました。あんまり美味しくはないかもですけど……」

「夜食……ああ」


 シムーンに頼んでおいた夜食だ。

 匂いの元は、一階の食堂スペースだ。そこには不格好な形のクッキーが、皿の上に山盛りになっている。形こそ悪いが焼き色はよく、酒がメインで食事の量が少なかったハイセの腹が鳴った。

 ハイセは、シムーンの頭をポンと撫でて席へ座り、クッキーを一つ食べる。


「ん、うまい」

「───っ」


 シムーンは嬉しそうに微笑み、新聞を読む主人の元へ行き「やりました!」と報告。驚いたことに、主人はにっこり笑いシムーンの頭を撫でていた。

 その様子をばっちり見たハイセ。主人と目が合いニヤリと笑うと、主人は「ムっ……ごほん」と咳払いして新聞で顔を隠してしまう。

 シムーンは、熱いお茶をハイセに注ぐ。


「そういや、イーサンは?」

「寝ちゃいました。クッキーの試食してもらったら「お腹いっぱい」って」

「はは、そうか。シムーン、お前も食うか?」

「え……でも」

「いいから。ほら」

「じゃあ……あむっ」


 シムーンはクッキーを美味しそうにコリコリ食べている。

 なんとなくシムーンの側頭部を見て、ハイセは聞いた。


「な、お前とイーサンのツノ……どうした?」

「ツノですか? いちおう、部屋に置いてあります。折れちゃったし、もういらないですけど」

「そ、そうか」


 仮にも、自身の一部だったのにあまり興味なさそうだ。

 シムーンは、髪に埋もれている側頭部に触れ、髪をずらす。すると、皮膚の上に黒い断面があった。シムーンが折ったツノである。


「魔族は、ツノが頭の両側に一本ずつ、二本生えるのが普通らしいです。でも、わたしとイーサンは一本ずつ……それぞれ分け合って生まれたんです。肌も白かったし、呪われてるとか言われてました」

「……ひどい話だ」

「もう気にしてません。えへへ……それに、肌が白くてよかったです。こうしてハイセさんに救われて、このお宿で働けるようになって……わたし、今がすごく幸せです」

「……そっか」

「イーサンも、おなじ気持ちです。ハイセさんにあげるクッキーだって言ったら、何度も味見して味を確認してくれました」


 ハイセはクッキーを食べつつ、お茶をすする。


「お前もイーサンも、やりたいことを何でもやればいい。応援するぞ」

「はい。ありがとうございます、ハイセさん」

「ああ───……ごちそうさん」


 クッキー完食。残ったお茶も全部飲み干し、ハイセは立ち上がる。


「さ、お前も早く寝ろよ。明日の朝食も期待してる」

「はい!! おやすみなさい、ハイセさん」


 ハイセは頷き、店主をチラッと見て二階の客室へ戻った。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 翌日。

 朝食は、これまでシムーンが作った中で、一番の出来だった。

 焦げてもいないし、塩辛くも甘すぎない、いい塩梅の味加減。

 ハイセは朝食を食べ終え、新聞を読みながら紅茶を啜る。


「おかわり、どうですか?」

「ああ、もらうよ」


 シムーンが紅茶のおかわりを注ぐ。

 

「イーサンは?」

「えっと、朝の水くみをして、フェンリルちゃんにご飯あげてます。この後は一緒に、宿と母屋のお掃除をします」

「そうか。仕事には慣れてきたか?」

「はい。毎日忙しいですけど、楽しいです!!」


 シムーンはにっこり笑う。

 助けることができてよかったと、ハイセは本当に感じていた。

 

「さて、そろそろ行くか」

「はい!! いってらっしゃいませ!!」

「……ああ」


 ハイセは、主人のいる受付カウンターに向かい、金貨を置く。


「延長一か月、朝食と新聞付きで」

「はいよ」

「……あの二人、役に立ってるか?」

「見てわからんか?」

「……だな」


 ハイセは苦笑し、朝食の片づけをするシムーンを見て宿を出た。

 行く前に宿の裏に回ると、フェンリルに餌をあげているイーサンがいた。

 ハイセを見て、フェンリルが尻尾を振りながら飛びついてくる。


「あ、ハイセさん」

『きゃん!!』

「おっ……はは、よしよし。じゃあイーサン、行ってくる」

「はい!! ほら、ハイセさんが行くってさ」

『きゅーん』


 さみしそうなフェンリルを撫で、イーサンへ渡す。

 きっと、この笑顔が答えなのだ。

 シムーン、イーサン、そしてフェンリル。

 二人と一匹の宿生活は、とても充実しているようだった。


 ◇◇◇◇◇

 

「おっはよーハイセ!!」

「……朝からうるさい」

「なによー」


 冒険者ギルドに入るなり、ヒジリが上機嫌でハイセの元へ。

 いつも通り、依頼掲示板が混みあうのを避け、少し遅い時間に来たのだが……なぜかヒジリがいた。

 周りを見るが、ほかに知り合いはいないようだ。


「ね、今日ひま? アタシさ、昨日デカイ獲物仕留めて大金がっぽり入ったのよ。今日はハイベルグ王国の焼き肉屋制覇するから付き合いなさいよ!!」

「…………」


 朝から幸せな奴……と、ハイセは思った。

 ハイセは無視しようと脇を通り抜けようとしたが、ヒジリが腕に抱き着く。


「お、おい。何すんだ」

「無視すんなっ、ねぇねぇいいでしょ、付き合ってよ」

「嫌だ。俺は依頼を受けるんだ」

「討伐依頼、今日はもうないわよ。さっきミイナに聞いたんだけどさ、いつもはある高レートの討伐依頼、今日はもうないって」

「何ぃ?」

「たまーにあるんだって。討伐依頼がない日」

「……マジか」


 ヒジリを疑うわけではないが、自分で確認しようと依頼掲示板へ行こうとすると。


『おお、ハイセではないか!!』

「ん……ああ、お前か」


 チョコラテ一行がギルドへ。

 鎧をガシャガシャ鳴らしてハイセに近づいてくる。


『ハイセ、我らは今日ハイベルグ王国を発つ。また会おうぞ』

「ああ、がんばれよ。お前ならS級冒険者になれるさ」

『うむ』


 そして、ミュルルとエドナ、オルとロスもハイセの元へきて挨拶をする。


「じゃ、またね」

「またね~ん」

『ワン』『クゥン』

「ああ、こいつのこと、よろしくな」

『ハッハッハ!! では我が友よ、さらばである!!』


 チョコラテたちは、ギルドを出て行った。

 ガイストから預かった資料を届けに、砂漠の国ディザーラまで向かうのだろう。

 もう、立派な冒険者だ。かつてデルマドロームの大迷宮で会ったカオスゴブリンとは思えないくらい、人の生活に慣れている。

 

「イーサンとシムーン、チョコラテ……変わろうと思えば、いくらでも変われるんだな」

「ねーねー、さっきの連中なんなの? ね、ハイセ」

「あいつらは知り合い。砂漠の国から来たんだとさ」

「へー、で、焼き肉屋は?」

「プレセア誘えよ。サーシャとか」

「プレセアは依頼。サーシャは王家からの依頼とかで行っちゃったのよ。ねーねー、奢るからさぁ、今日はアタシに付き合ってよー」

「……あぁもう、わかった。わかった。ただし、一軒だけな」

「やたっ、じゃあ行くわよ。焼肉っ!!」

「……てか、朝っぱらから焼肉? あ~……やめとけばよかった」


 結局、ハイセは夕方までヒジリに付き合わされることになるのだった。

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〇S級冒険者が歩む道 追放された少年は真の能力『武器マスター』で世界最強に至る 2巻
レーベル:GAコミック
著者:カネツキマサト
原著:さとう
その他:ひたきゆう
発売日:2025年 10月 11日
定価 748円(税込み)

【↓情報はこちらのリンクから↓】
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お読みいただき有難うございます!
月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
連載中です!
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― 新着の感想 ―
ずいぶんと丸くなっちまったな、ハイセさんよぉ
[良い点] ハイセにとって帰る場所・待っててくれる人が出来た事。 [気になる点] チョコラテやシムーン達の正体がバレた時の事が気になりますね。レイノルドもその場に居たんだから責任はあると思いますがあっ…
[良い点] チームじゃない居場所はできたね [一言] ハイセは、何を変えようとするのか楽しみです
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