双子の魔族
ハイセたちは、ハイベルグ王国の冒険者ギルドに帰ってきた。
裏口から入り、ギルマス部屋へ。
ドアに鍵をかけ、全員がソファに座るなりガイストは言う。
「で、その子たちは?」
「えーっと……」
「魔族、か」
双子がビクッと震え、目を伏せてガタガタ震え出した。
双子は、ハイセの両隣にいて、ハイセの袖をギュッと掴んで離さない。
さらに、足元には白いオオカミの子供ことフェンリルも当たり前のように丸くなっている。
ガイストは息を吐いた。
「とりあえず、お目当ての情報は手に入れた。あのオークション会場も他国の冒険者が大掛かりに介入した以上、終わりだろう。客は逃げたようだが……まぁ、よしとしよう」
「…………」
「ハイセお前、客が逃げたの自分のせいって思ってるだろ? まぁそうだけどよ」
「うっぐ……」
いきなり、S級冒険者に匹敵する六人を背後から撃ち殺し、さらにステージにいる司会者の足をブチ抜いた。これにより恐慌状態になった観客は一目散に逃げだした。
撃つならせめて、出口を塞いでから撃つべきだったと反省。
「依頼に関しては完了だ。ハイセ、レイノルド、明日報酬を支払うからギルドへ来い。さて……説明してもらおうか。この二人と、このオオカミの子供は?」
「あー、じゃあオレが説明します」
レイノルドがいきさつを説明。
魔族の双子とフェンリルの子供は『商品』だったこと。チョコラテ一行が飛び込んできた時にハイセが二人と一匹を助けたことなど。
ハイセは言う。
「その……なんでかな。こいつらの眼を見てたら、放っておけませんでした」
「……やれやれ。まぁ、連れてきたのは仕方がない。これからどうする?」
「……孤児院、とか」
「孤児院に入れたら、お前はとんでもない額の寄付しそうだな。それに、その子たちは魔族……肌の色こそ違うが、そのツノは隠せんだろう」
「「…………」」
双子はうつむいたまま、喋ろうとしない。
だが、互いに顔を見て、決意したように頷いた。
「あ、あの」
「ん」
少女の方が、ハイセに言う。
「な、なんでもします。だから……す、すてないで、ください」
「え……」
「お、おれも……姉ちゃんと、一緒にいたい、です」
「……」
少年も、手をギュッと握りしめて言う。
ガイストとレイノルドが顔を合わせ、ハイセを見た。
判断は、ハイセに委ねる。そう言っているようだ。
「とりあえず……名前は?」
「シムーン……」
「イーサン……」
『キャン!!』
「いやお前に聞いてない。ってか起きてたのかよ」
フェンリルの子供も何故か鳴いた。尻尾をブンブン振ってご機嫌そうだ。
姉はシムーン、弟はイーサン。
すると、双子は互いに頷き、手に魔力を漲らせる。
そして、そのまま自分のツノを掴むと、根元からへし折った。
「なっ!?」
「つ、つの……じゃ、邪魔なら、取ります」
「だ、だから、捨てないで……ください」
「な、何してんだお前ら!? ああもう……」
ハイセは少女の頭を確認する。
側頭部に生えていたツノは根元から折れてしまった。血が出ているわけではないし、痛がっているようにも見えない。
「い、痛くないのか?」
「は、はい……」
「……はぁ~、わかった。わかったよ。お前らの面倒、俺が見る」
「「!!」」
「……ハイセ、どうするつもりだ? 面倒を見る。つまり、孤児院には入れないのか?」
「ええ。自分の身体の一部をへし折るくらいだ。放り出すのは忍びないっす。それに、まぁ……アテがないわけでもないし」
「ほう。まぁいいだろう……レイノルド」
「わかってます。他言しませんよ。それに、ツノなくなったらもう人間にしか見えないな。うーん、シムーンちゃんはあと五年ってところか」
「……ひっ」
「おいレイノルド、怖がらせんなよ」
「冗談だって。ま、困ったことあったら言えよ?」
「じゃあ早速。こいつらの服とか買うから付き合え」
「おう。いい服屋ならいくらでもあるぜ。あ、依頼ってことか? へへ、じゃあメシ奢れよ」
「わかったよ。お前らも腹減ってるだろ? 行くぞ」
「「は、はい」」
「じゃ、ガイストさん。俺らはこれで」
そう言い、ハイセとレイノルド、双子のイーサンとシムーン、フェンリルの子供は出て行った。
一気に静かになるギルマス部屋。
「……ハイセが、孤児を引き取るか。そうか……いつまでも子供じゃないとは思っていたが……フフ、ワシもだいぶ年を重ねたものだ」
ガイストはそう呟き、机に隠してあるブランデーの瓶を開け、グラスに注いだ。
◇◇◇◇◇
買い物を終え、レイノルドと別れ、ハイセと双子とフェンリルの子供はボロ宿へ。
ボロ宿の入口で、ハイセは双子に言う。
「いいか、お前たちを引き取るとは言ったけど……ただじゃない」
「「…………」」
「まだ交渉してみないとわからないけど、とりあえず仕事はするって思っておけ」
「「は、はい」」
二人は頷く。
ハイセは少し緊張しながら、宿のドアを開ける。
カウンターに、宿屋の主人はいた。もう夜だが新聞を読んでいる。
「……ゲホッ、ゲホッ」
「戻った」
「……ああ。ん?」
「あの、話がある」
「…………」
主人の目はハイセに、そして双子、フェンリルの子供に向く。
新聞を畳むと、ため息を吐いた。
「出て行くのか……?」
「は?」
「子供、引き取ったのかい。犬も……」
「まぁ、うん」
「で? いつ出て行く?」
「いやいや、出て行くとかじゃない。あんたに頼みがあるんだ」
「……頼み?」
主人は訝しむ。
どうやら、子供と犬を連れたハイセを見て、出て行くと勘違いしている。
ハイセは二人の背を押して前に出た。
「ここで、二人を働かせてほしい」
「「え……」」
「なに?」
「わけあって、この子たちを引き取ることになった。孤児院にも預けられない事情がある。部屋をもう一つ借りて家にするのもいいと思ったけど……この子たちもいろいろあった。家で何もしないよりは、このボロ宿で働いた方がいい。それに、あんたも歳だ。手伝い、いた方がいいだろ? もちろん、宿代は俺が出すし、給料も出す」
「…………」
主人はハイセをジッと見る。
双子は顔を合わせて頷き、主人に頭を下げた。
「おねがいします。ここで働かせてください」
「お、おねがいします!!」
「…………はぁ」
主人は再び新聞を広げ、小さい声で言う。
「名前は」
「し、シムーンです」
「イーサン……です」
「朝。イーサンは水汲み、シムーンは朝食作りだ。やり方はワシが教える」
「「!!」」
「い、いいのか?」
「フン。部屋は客室じゃなくて母屋を使え。母屋も部屋があまっとる……家事手伝いもしてもらうぞ」
「「は、はい!!」」
こうして、双子の魔族シムーンとイーサンが、ボロ宿で働くことになった。





