ドレナ村のオークション④
間違いなく、チョコラテだった。
今現在、ハイセは仮面を被っているのでバレる心配はない。だが、バレたらバレたで面倒なことになるだろう。
すると、チョコラテとその仲間たちはあっという間に兵士たちに囲まれた。
『皆さん、落ち着いてください。彼らは狼藉者を排除するオークションの護衛たちです。いやぁ、いるんですよ……正義感を振りかざし、我々の娯楽を潰そうとする輩が。ではではオークションの続きといきましょうか!!』
『フハハハハハっ!! 悪党め、なかなかに強いようだが、このチョコラテを相手にするにはまだ早い!!』
「ちょっと、いちいち騒がないでよ。うるっさいわ」
「あはは~……リーダーは頼もしいねぇ」
『グルルルル』
どういう組み合わせなのだろうか。
活発そうな少女は長い杖を持っている。耳が長く、露出の多い踊り子のような服装をしており、プレセアと同じエメラルドグリーンの長髪をポニーテールにした、十六歳ほどの少女だ。
もう一人、どこか間延びしたような声を出すのは、小柄でほっそりした茶髪の少女だ。が……手に持つのは巨大な戦槌で、ランニングシャツに作業ズボン、ヘルメットをかぶっている。
もう一匹は、二つ首の狼だ。毛並みは青く、二つある首の一つは唸り、もう一つはスンスンと周囲の匂いを嗅いでいる。
そして、全身漆黒の鎧を着たチョコラテだ。
『あ、侵入者さん。そこにいる六人の護衛ですが、全員がS級冒険者に匹敵する強さを持っていますんで頑張ってくださいね。ふっふっふ、皆さん、安心して競りを再開しましょう!!』
「あー待った待った!! あたしら、冒険者ギルドから正式に依頼受けて、このオークションを調べに来たのよ。もうすぐここに大勢の冒険者が殺到する……あんたら全員、逃げた方がいいんじゃない?」
『ほーう、そりゃ面白いですねぇ』
司会者はニコニコしながら手をパンパン叩く。
すると、ステージ奥の壁が開き、通路が現れた。
『えー、会場に起こしの皆さま。本日はそこの冒険者のせいで、楽しいオークションが台無しになってしまいました。護衛が守りますので、この奥へお進みください。冒険者たちが到着しだい、この会場を爆破します。ご安心ください、皆様の乗って来た馬車や荷物など、全て通路先にご用意してあります。皆様、本日のオークションはこれまでとさせて頂きます。皆様、誠に申し訳ございませんでした』
切り替えの早い司会者だった。
こういうことが以前もあったのか、観客たちは落ち着いている。
舌打ちしてチョコラテたちを睨んだり、大きなため息を吐いて席を立つ者が多い。
「どうする」
「もういいか?」
「だな。ガイストさんには悪いけど、こりゃ想定外ってやつだ。ハイセ、やろうぜ」
「ああ」
ハイセは立ち上がり、入口付近で護衛六人に囲まれているチョコラテたちを見た。
護衛は全員、後ろを向いている。
ハイセは回転式拳銃のファニングショットで、六人の心臓をほぼ同時に撃ちぬいた。
『え……』
驚く司会者。
ハイセは自動拳銃で司会者の足を撃ちぬく。
『うっぎゃぁぁぁぁっぁ!?』
「全員、動くな!! 動けば撃つ!!」
そう叫ぶが───『撃つ』の意味を理解できないオークション客は、一斉に逃げ出した。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「な、なんだァァァァッ!?」「に、逃げ、逃げろ!!」
「いやぁぁぁっ!!」「こ、こんなの聞いていないぞ!!」
「あ、おい!! あー……」
オークション客は一斉に逃げ出す。
すると、チョコラテが叫んだ。
『まさか……わ、我が友? 我が友ハイセ!? おおぉぉぉぉぉぉ!! こ、こんなところで、こんなところで会うとは奇跡!! ハハハハハハハッ!! ……って、何をしている?』
「後にしろ、敵だ!!」
『ぬっ!!』
すると、会場の護衛が大漁に流れ込んできた。
ハイセは両手に自動拳銃を持ち、レイノルドは拳をパキパキ鳴らす。
『フハハハハハ!! 我が仲間たち、暴れるぞ!!』
「は、ハイセって……最強の冒険者? アンタ、どういう知り合い……?」
「まぁまぁ。話はあとだねぇ」
『『ワォォォォン!!』』
チョコラテたちは、流れ込んできた冒険者と戦闘を始めた。
レイノルドも飛び出し、向かってきた護衛の顎にショートアッパーを叩きこみ、ハイキックで側頭部を蹴り飛ばす。やはり、かなりの強さだ。
ハイセも銃を連射───……そして、見た。
「…………」
「…………」
全てを諦めたような、双子の魔族。
二人の眼が、ハイセを見た。
「…………ああもう、その眼」
ハイセはステージへ。
そして、魔族の檻をステージ裏へ押そうとする司会者を蹴り飛ばし、檻のカギに向かって発砲。
檻を開き、双子に言う。
「生きる気があるなら来い!! どうする!!」
「……い、いく」
「し、しにたく……ない」
「よし!! 行くぞ!!」
ハイセは、大型拳銃で手枷の鎖を壊す。
すると、少女がハイセの袖を引っ張った。
「あ……」
「ん? なんだ、早く言え」
「あ、あの……い、いぬ」
「いぬ? 犬……ああ」
ハイセはステージ裏に行くと、開けっ放しになった大量の檻があった。どうやら、騒ぎが始まると同時に、隙を伺っていた奴隷が檻を脱出。残った檻を解放し逃げ出したようだ。
すると、一つだけ開いていない檻があった。
そこにいたのは、白い狼……フェンリル。
「……どうする。お前、ここで死ぬか? それとも、俺と来るか?」
『…………』
「あの双子が、お前を助けろとよ」
そう言い、ハイセは檻の鍵を大型拳銃で撃ちぬく。
檻を開け、近くに落ちていた鍵でフェンリルの口枷を外す。
「あとは好きにしろ。じゃあな」
ハイセはステージに戻ると、護衛が双子に剣を向けていた。
ハイセは自動拳銃を発砲。護衛は脳天を撃ちぬかれ即死。
すると、別の護衛がステージに飛びあがり、双子を狙って剣を振るう。
ハイセは舌打ちをして引金を引いた瞬間。
「ッ!?」
薬莢が詰まった。
引金が引けず、弾丸が出ない。
ハイセは自動拳銃を消し、再び手元に召喚するが───……間に合わない。
双子が目を閉じ、剣が振り下ろされた。
「墳ッ!!」
ズドン!! と、ガイストの飛び蹴りが護衛の腹に直撃。
護衛はとんでもない速度で飛び、天井に突き刺さり破壊した。
「遅くなった」
「ガイストさん!!」
「状況を簡潔に」
「別なところから派遣された冒険者チームが会場内に突入、外には大勢の冒険者チームがいるらしい!!」
「チッ……こちらと同じ情報を掴んで突入してきたか。こちらは潜入しての情報収集、別口は会場への突撃と一網打尽というところだな。ハイセ、今は引く……ついてこい!!」
「はい!! レイノルド!!」
「ん、おう!! だらぁ!!」
レイノルドの拳が、護衛の顔面に直撃。
ハイセは叫んだ。
「また後でな!!」
『ッ!! 我が友……ああ、わかった!!』
ハイセはチョコラテに向かって頷く。
そして、双子を見た。
「走れるか?」
二人は頷いた。すると、ハイセの足元にフェンリルもいる。
レイノルドは双子を見て「マジか……」と呟いたが、ガイストが走り出したのでそれ以上何も言わず走り出す。
ハイセは両手に自動拳銃を持ち、双子を先に行かせ殿を務めた。
ガイストが向かったのは、司会者が開けた脱出用出口。
そこに、乗って来た馬車が止まっていた。
どうやら、オークションが始まってすぐに移動されたようで、非常時に備えていたようだ。
「表には大勢の冒険者チームがいる。ここで『冒険者です、潜入していました』と正直に出て行くと時間が取られそうだ。利用できるなら、この脱出口を利用しよう」
脱出通路は、村の外に通じていた。
馬車が何台も通った跡があり、参加者の大勢が逃げたようだ。中には奴隷もいただろう。
馬車が村を出て、ハイベルグ王国に向かう街道を走り始めると……ようやく、速度が落ちた。
馬車内も、ようやく安堵に包まれる。
「ガイストさん、ブツは見つけたんですかい?」
「ああ、なんとかな。それよりハイセ……説明してくれるんだろうな」
「う……」
レイノルドは「うーん」と唸り、ガイストはどこか苦笑している。
現在、ハイセの両隣には、双子の姉弟が座っており、足元には白い小さなオオカミも身体を丸めて休んでいた。
「とりあえず……いろいろ『やっちゃった』感はあるんで、今は何も言わないでくれるとありがたいです……はい」
「……やれやれ」
双子は心配そうにハイセを見つめており、ハイセはその視線を見ないよう小さくため息を吐いた。
 





