ハイベルグ王国へ帰還、からの厄介事
破滅のグレイブヤードから戻り、クロスファルドや、サタヒコやアヤメに挨拶し、ハイセたちはハイベルグ王国に戻って来た。
戻るなり、ハイセは小箱をサーシャへ。
「複製、終わったら連絡くれ」
「わかった。数日かかると思うが……」
「構わない。結構な長旅だったしな……じゃ」
そう言い、ハイセはあっさりと王国正門で別れた。
プレセアも「じゃ、またね」と別れ、ヒジリも「よし肉!!」とわけのわからないことを言い走って行ってしまった。残ったのはチーム『セイクリッド』だけ。
タイクーンは言う。
「さ、本部に戻ろう。仕事が山積みだぞ」
「はぁぁ~……なぁ、今日くらい休もうぜ」
「賛成~……あたし、疲れたぁ」
「全く情けない。なぁサーシャ」
「……ふむ。まぁ、今日くらい構わないだろう。クランホームで連絡事項だけ聞いたら解散。仕事は明日から始めようか。しばらくは忙しくなりそうだし、な」
「む……」
「さっすがサーシャですわね!! ささ、行きましょ!!」
ピアソラがサーシャの腕に抱きつき、タイクーンに向けて舌を出した。
レイノルドは
タイクーンの肩を叩く。
「リーダー命令だ。さ、行こうぜ」
「……やれやれ」
「あはは、タイクーンも疲れてるじゃん。ピアソラに言い返さないしー」
「む……そんなことはない」
チーム『セイクリッド』は、クランホームに向けて歩き出した。
◇◇◇◇◇
ハイセは宿に戻る前、冒険者ギルドへ。
ギルドに入ると、ミイナが嬉しそうに大声で叫んだ。
「ハイセさーんっ!! おかえりなさーいっ!!」
「…………」
注目を浴びるハイセ。こんな日に限って、依頼を終えた冒険者が多い。
ハイセはため息を吐き、受付カウンターへ。
「お前、うるさい。声小さくしろよ」
「あはは、ごめんなさい。で、で、どうでした?」
「何が」
「探し物ですよー」
「お前に関係ない。というか……お前、戻って来たんだな」
「そりゃまあ。お仕事終えたら帰るだけですよー」
ガイストとミイナは、聖十字アドラメルク神国で別れた。
その後、ハイセたちは破滅のグレイブヤードに向かったが、ガイストたちはハイベルグ王国に戻ってきたようだ。
ハイセは、ミイナの先輩であるベテラン受付嬢に「こいつ静かにさせて」と言い、ギルマス部屋へ。
ドアをノックして中へ入ると、ガイストが書類仕事をしていた。
「ああ、ハイセか……戻ったんだな」
「はい。って……どうしたんです? なんか疲れてますね」
ハイセはソファに座ると、若いギルド職員の女性がお茶を運んできた。
紅茶を飲み、なんとなく懐かしさを感じて紅茶の味を楽しんでいると。
「……先日、依頼が入ってな。表には貼り出せん依頼だ」
「……それ、厄介事ですか?」
「うむ。ワシが直接行こうと考えていた。やれやれ……」
「……どんな依頼ですか?」
「…………」
ガイストはハイセをジッと見た。
長い付き合いだからわかる。『聞いたら後には引けないぞ』という意志の籠った眼だ。
ハイセは頷く。今度は視線ではなく、声に出した。
「お前、たった今帰って来たばかりだろう。手を貸してくれるのはありがたいが、疲れているだろう?」
「まぁ確かに。でも、ガイストさんには借りあるし、その依頼終わったら奢ってくれれっばいいっすよ」
「……お前ってやつは」
ガイストは苦笑し、依頼書のファイルをハイセに向かって放る。
ハイセは受取り、ファイルを開けて読む。
そこに書かれていたのは───……なかなか、胸糞悪い内容だった。
「『奴隷オークション開催』ですか……」
「ああ。奴隷に関しての知識はあるか?」
「まぁ、少しは」
奴隷。
ハイベルグ王国で奴隷は合法化されている。
合法奴隷、犯罪奴隷、戦闘奴隷の三種類があり、奴隷の多くは合法奴隷だ。
合法奴隷とは、やむを得ずに期間限定で自分を売り出す奴隷のことだ。借金などをしてその金が返せなくなると自分を自分で奴隷商人に『身売り』する。その奴隷は、借金返済が完了するまでは奴隷のまま。
奴隷とはいえ、待遇が酷かったりするわけではない。
食事は出るし、ちゃんとした部屋で寝泊まりできる。
犯罪奴隷はその名の通り、犯罪を犯した奴隷だ。
犯罪奴隷は、条件など関係なしに数年~数十年単位で奴隷のまま。多くは鉱山などの肉体労働を必要とする先に派遣される。女の場合は『別な意味での奉仕』作業が多くを占める。
戦闘奴隷は、フリーの冒険者が金に困り、自分を売り出した時の奴隷だ。
ソロの冒険者が臨時でチームを組む場合などに利用される。
「まぁ、こんな感じですよね」
「ああ。どの奴隷にも言えることだが……奴隷は十六歳以上でないと、奴隷にできない」
ガイストがそう言い、ハイセは依頼書をめくる。
「この『奴隷オークション』……年齢制限がないですね」
「そもそも、奴隷は国が認めた奴隷商人のみ、店舗を構え、衣食住を提供できる認可を受けた者だけが得られる資格だ。売買の場合も、正式な手順を踏んで行われる……オークションなど、もってのほかだ」
「でも……開催される」
「ああ。どうやら、他国から『人狩り』をしてきたようだ。ハイセ、お前は討伐依頼ばかり受けるから知らんと思うが……こういう闇オークションの場合、大抵後ろにはデカい組織がある。それこそ、大手クランに匹敵するような」
「…………」
「オークションが開催されるということは、目玉商品……自分で言って気分が悪い……がある。人狩りを行う組織には、S級冒険者レベルの強さを持つ者がいるはずだ」
「依頼は、オークションの中止と、組織を潰すことですか」
「オークションを潰す。組織はデカく難しいな……オークションを開催するのも、末端の下部組織だ」
「……わかりました。じゃ、俺とガイストさんで行きますか」
「規模を考えると、あと一人は欲しい……潜入任務となると、武器はもちろん、アイテムボックスも持ち込めん」
「じゃ、ヒジリ?」
「……ダメだ。あの猪突猛進な性格ではな」
「じゃあ……サーシャ、は無理か。剣も持ち込めないし……素手で強いヤツ……」
と、ハイセは一人だけ思いつく人物がいた。
「あの、ガイストさん。素手で強いヤツ、一人だけ心当たりいます」
「……いるのか? 誰だ?」
「えーと……来てくれるか不明ですけど」
ハイセは、『その人物』の名前を言った。





