破滅のグレイブヤード⑦
サーシャたちが『塔』の地下階段を下りると、そこは広い空間だった。
広く、天井も高い。そして、何もない。
「な、何もない……?」
ピアソラが周囲を見渡す。
地面は硬く平らに馴らされており、四方には煌びやかな花の彫刻が施されている。
ただ、何もない。
置物や、飾りの一つもない。不思議と部屋の中は明るく、僅かな光が白い壁に反射し、中を明るく保っているようだった。
プレセアが奥を指さす。
「見て……あそこ」
「む……」
サーシャも気付いた。
最奥に、墓標のような物があった。
墓標だけではない。祭壇もある。近づいてみると、祭壇の上には薄い石の板があり、古代の文字で何かが彫られていた。
「恐らく……名簿、だな」
「この墓標……やっぱり、ここはお墓ですの?」
「恐らく。ここが王族の墓というのも間違いないだろう。だが……」
「お宝、どこ?」
プレセアが言うと、サーシャとピアソラは黙り込む。
部屋には墓標と祭壇しかない。祭壇と墓標を調べても、何もなかった。
三人は無言で顔を見合わせ……プレセアが言った。
「ハズレ、みたいね」
「「…………」」
まさかの空振り。
ピアソラは盛大にため息を吐くと、墓標へ向かう。
「なに? 腹いせに墓荒らしでもするの?」
「おばか。私は聖職者よ? 長らく放置された墓標みたいですし、祈るだけですわ」
「へぇ、てっきり墓標を蹴り飛ばすのかと」
「……あなたとはじっくりお話すべきかしら」
プレセアとピアソラのやり取りに苦笑するサーシャ。だが、首筋がチリチリとするような感覚があり、勢いよく入口の方を向く。
そして、見た。
入口に、漆黒の全身鎧を着た何者かが立っていた。
一瞬で理解できた。アレは人ではない。完全なる『敵』であると。
「敵だ!!」
「「っ!!」」
サーシャが剣を抜き、プレセアは弓を構え、ピアソラは祭壇に避難する。
すると、漆黒の鎧が腰の剣を抜き、サーシャに突きつけた。
「貴様、何者だ」
『…………』
サーシャの問いに応えない鎧。
サーシャは、黄金の闘気を纏い剣を向けた。
「いいだろう……相手をしてやる!!」
サーシャが飛び出すと同時に、鎧も走り出す。
だが、速度は圧倒的にサーシャが上。ほんの数秒で間合いに入る。
そのまま横薙ぎを繰り出すが、鎧は剣で受けた。
だが、対人戦を学んだサーシャは止まらない。そのまま前蹴りで鎧の腹を蹴とばすと、鎧は仰向けに転んで背中を強打。
サーシャは剣に闘気を纏わせ、そのまま鎧に突き刺そうとした───……が、鎧は素早く回避。サーシャと距離を取る。
「なかなか速いわね」
「…………」
「サーシャ、援護は?」
「……今の感触」
「サーシャ?」
「ああ、援護は───……必要ない!!」
プレセアの答えを聞く前にサーシャは飛び出す。
闘気を剣に纏わせ、思い切り振った。
「黄金剣、『飛空刃』!!」
『!!』
飛ぶ斬撃が、鎧を襲う。
鎧は斬撃を剣で受け止めるが、勢いに負け剣が弾き飛ばされた。
そして、サーシャが一瞬で接近……鎧を縦に一刀両断した。
「───やはり、な」
鎧の中は、カラッポだった。
そのまま鎧は、黒い煙となって完全に消滅……残ったのは、小さな木箱。
サーシャはそれを拾い、蓋を開ける。
中に入っていたのは、数枚の羊皮紙の束。
サーシャは蓋を閉じ、プレセアに渡した。
「確認してくれ。これは、目的の地図だろうか」
「……あなたが確認すればいいじゃない」
「ハイセとの約束でな。それはできないんだ」
「律儀な子」
プレセアは、蓋を開け羊皮紙を確認。
間違いなく、『ドレナ・デ・スタールの空中城』に関する報告書と、航路ルートだった。
プレセアは確認を終えると、アイテムボックスに入れる。
「間違いなく目的のお宝ね。さっきの鎧……この地図を守る守護者だったのかしら?」
「かもな。正直、大した強さではなかったが」
「……今のは恐らく、『無念の形』ですわ」
「無念の形?」
「はい。ヒトの想いや無念が留まり、思念となって形となったモノ。レイスという低級の魔獣が思念を写し取り、形となった魔獣と聞きますわ。アンデット系で、私なら浄化できますけど……サーシャが倒しちゃいました」
「そんな魔獣が……初めて聞いたわ」
プレセアは感心したようにピアソラを見た。
サーシャは、何となく思う。
「もしかしたら、さっきの鎧は……その羊皮紙の持ち主だったのかもしれないな」
◇◇◇◇◇
塔の外に出ると、ハイセたちがいた。
「見つかったか?」
ハイセの第一声が、心配でも安堵でもなかったが、サーシャは特に気にしていない。
プレセアがアイテムボックスから小箱を見せると、小さく頷いた。
サーシャは言う。
「お前たち、無事だったか」
ボロボロのレイノルド、疲れ切ったロビン、いつも通りのタイクーン。
そして、血塗れのヒジリが大の字で倒れていた。
「あー……悪いピアソラ、こいつ治してくれ。この馬鹿、ギガレアレックスの突進に真正面から挑んでフッ飛ばされたんだよ」
「……大馬鹿ですの?」
「能力も使わねーで、『ガチ勝負!!』とか叫んでよ……戦力ダウンもいいとこだ、ハイセがいなかったら全滅してたぜ」
「でもでも、レイノルドは突進止めたよね!!」
「オレ、守り特化だしな。まぁ能力なしじゃ無理だけど」
ピアソラは、もの凄く嫌そうにヒジリの治療をする。
全員、疲労が激しい。
タイクーンは提案した。
「今日はここで休み、明日出発しよう。幸いなことに建物があるからな」
「待った待った!! こ、ここ……墓地じゃなかったっけ」
「外にいるよりはマシだ。ハイセ、どう思う?」
「いいぞ。正直、俺も疲れた……」
「うぇぇ~……あたし、ちょっとヤダぁ。ね、サーシャ……今日は一緒に寝ていい?」
「ああ、いい「待った!! サーシャと一緒に寝るのは私ですわ!!」
ピアソラがロビンとギャーギャー騒ぎ出したので、ハイセは先に塔の中へ。
石扉を開けると、上階と地下へ続く螺旋階段がある。
上を見上げると、光が差していた。屋上もあるなとハイセは思う。
すると、プレセアが隣へ。
「地下にいた黒い騎士が、この小箱を守ってたの……守っていたというか、持っていたというか」
「なんだそれ? ま、いい……それ、俺が持つ」
「いいけど……はい」
ハイセは小箱を受取り、アイテムボックスへ。
サーシャたちも塔の中へ。それぞれテントを出したり、野営の支度を始める。
すると、ロビンが言った。
「ねね、ハイセ!!」
「っと……な、なんだよ。くっつくな」
「久しぶりに、ハイセの作ったシチューが食べたいな……」
「えぇ?」
「みんなで野営する時にさ、ハイセがよく作ってくれたよね。『シチューは栄養価も高いし、硬いパンでも浸して食べればおいしい』って」
「…………」
「サーシャは『喰えれば何でもいい』って言ってたけど、あたしやレイノルドは大好きだよ?」
「お、おお……」
腕にしがみつき『大好き』というロビンに、ハイセは少し照れる。
プレセアがジッと見たり、サーシャが「わ、私はその、私も好きだし……シチュー」とモジモジしながらブツブツ言う。
すると、レイノルドがハイセに言う。
「ハイセ、頼んでいいか? 金と食材なら出すからよ」
「…………はぁ、わかったよ」
「うっし。へへ、ナイスだロビン」
「うん!!」
レイノルドとロビンがハイタッチ。
ハイセはため息を吐き、自分のアイテムボックスから調理道具を取り出した。





