破滅のグレイブヤード⑤
「あれー? アタシら最後じゃん」
「や、やっと到着……」
ハイセたちが遺跡内で野営の支度をしていると、ヒジリとロビンが到着した。
ロビンは到着するなり、サーシャの胸に飛び込む。
「やっと着いたよぉ~……っ!! うう、ヒジリってばいろんな魔獣に喧嘩売ってさ、あたしもう生きた心地しなかったぁ……」
「そうか。お疲れ様、ロビン……今日はもう何もしなくていいから、甘いモノでも食べて、ゆっくり休んでくれ」
「うぅぅ、サーシャぁ」
タイクーンは、読んでいた本を閉じて言う。
「やはり、ロビンが一番大変だったようだな」
「あー疲れた。アタシ、喉乾いた。そこの眼鏡、なんかちょーだい」
「め、眼鏡とはボクのことか? というか、アイテムボックスがあるだろうが」
「食料全部尽きちゃったのよ。はやくはやく」
「……はぁ」
タイクーンは、渋々と食料を出す。すると、ヒジリだけでなくロビンも喰らい付く。
焚火にあたっていたプレセア、ハイセは言う。
「大変だったみたいね」
「あいつのお守りは、ロビンじゃキツかっただろうな」
「あなたは?」
「俺は俺で面倒くさかった」
適当に言い、焚火に薪を投げ入れる。
椅子でのんびりくつろぎながら爆睡していたレイノルドも起きた。
「くぁ~あ……んん? おお、ロビンたちも来たか」
テント内では、ピアソラが寝ている。
これでようやく、全員がそろった。
◇◇◇◇◇
夜。
仮眠から起きたピアソラ、ロビン、ヒジリを交えて焚火を囲むハイセたち。
テーブルの上には、タイクーンが広げた地図があり、タイクーンがアイテムボックスから取り出した伸縮式の教鞭でピシッと差す。
「ここが現在位置。この遺跡の先が、破滅のグレイブヤード最奥……『王家の墓地』だ。話によると、墓地の中に、『ドレナ・デ・スタールの空中城』の空路が示してある地図があるらしい」
「……何故、王家の墓地なんだ? その地図の持ち主は、王族なのか?」
ハイセの疑問に、タイクーンは首を振る。
「不明だ。地図の持ち主の子孫は王族でも、貴族でもない平民だ。地図を残した冒険者の素性も不明だ……最悪、空振りの可能性もあるな」
「……マジか」
「だが、ここまで来て確認しないわけにはいかないだろう?」
「まぁな。禁忌六迷宮の情報は欲しい」
「ああ。なら、行こう。と言いたいが……問題はここから先だ。王家の墓地は地図にも載っていない、遺跡のようなモノがあるということだけわかっている」
「……過去、ここに挑んだ冒険者チームは?」
「道中、死んだ者が多い。恐らく、この今ボクたちがいる遺跡までは来れたんだろう。この遺跡、野営の跡が残っていたからな。この先に、破滅のグレイブヤードのヌシがいる可能性が高いな」
「ふむ……」
ハイセは地図を見ながら訝しむ。
ここから先の情報はない。つまり、タイクーンの言うことが正しい。
ハイセはタイクーンに言う。
「作戦は……とりあえず、三つか」
「一つは?」
「全員で進む。タイクーンの言うヌシがいるなら、全員で戦って倒して進む」
「二つ目」
「二手に分かれる」
ハイセは、小石を二つ拾って遺跡に置く。一つの石をまっすぐ進め、もう一つを迂回するように動かしながら言う。
「一つはまっすぐ進んで、魔獣と戦いながら、目立つように進む。もう一つはプレセアの透明化で、魔獣を避けながら進む。墓地で合流して、透明化したチームが墓地を探索、地図を探す」
「最後の一つは?」
「全員で慎重に進む。戦闘を避け、周囲を警戒しつつ進めば、時間はかかるけど墓地まで行けるだろうな……時間さえ気にしなければ、だけど」
「……さすがだな」
タイクーンは眼鏡をクイッと上げ、ニヤリと笑う。
「ボクも、ハイセと同じ作戦を考えていた。現実的なのは二手に分かれる方だろう」
「俺も同意見だ。確か、プレセアの透明化は三人までだったな? 三人は魔獣を避けつつ迂回、戦闘メンバーで正面から進み、魔獣を刺激しつつ進む。陽動、とは少し意味が違うが陽動チームとしておくか……この場合、俺とサーシャとヒジリか」
「待て。一人は迂回チームに入れた方がいい。迂回チームが墓地を探索するとなると、S級のうち誰か一人はいるべきだ」
「だな。じゃあ……って、お前ら何黙り込んでるんだよ」
ようやく、ハイセとタイクーンは、自分たちしか喋っていないことに気付く。
レイノルドは言う。
「いや、タイクーンは知ってるけど、ハイセもすげぇな……タイクーンとずっと話せるヤツ、うちのチームじゃサーシャくらいだぜ」
「私でも置いてきぼりになる。ハイセはすごいな」
ハイセは、かつてチームのために戦術書などを読み漁ったことがある。今も、暇さえあれば読書をしたり、昔の戦術本などを古本屋で探して読んでいる。かつてはタイクーンと本の貸し借りをしたり、戦術について語り合ったこともある。
何となく、タイクーンと顔を見合わせるハイセ。
「別に普通だろ」
「その通り。むしろ、この程度のレベル、着いて来れないのは困る。レイノルドたちはともかく、サーシャ……キミには率先して意見を出して欲しいね」
「す、すまん」
「というわけで、ハイセ。二手に分かれる策がいいと思うが、キミはどうだい?」
「俺は賛成。別れるなら……俺は陽動チームに入る。俺の火器なら適任だ」
「はいはーい!! よくわかんないけど、暴れるならアタシもっ!!」
「となると、私は迂回チームだな」
「よし。では、残りの人選だが……」
ハイセとタイクーンが(ほぼ二人で)話合いをして決めた結果。
陽動チームはハイセ、ヒジリ、レイノルド、ロビン、タイクーン。
迂回チームはサーシャ、ピアソラ、プレセアとなった。
特に異議はないので、明日から墓地へアタックする。今日は交代で休むことになった。
最初の火の番はハイセとサーシャになった。
少しピアソラが嫌そうにしていたが、順番如きでハイセと揉めるのは子供っぽいとレイノルドに諭されたのか、ハイセを睨むだけでテントの中へ。
他のメンバーも、それぞれ仮眠を取るべくテントの中へ。
ハイセとサーシャは、焚火を囲む。
ハイセはアイテムボックスから、沸かしたばかりのポットを取り出した。
「紅茶、飲むか?」
「ああ、もらおう」
サーシャも、アイテムボックスからカップを取り出す。
ふと、ハイセは気付いた。
「……そのアイテムボックス」
「ああ、お前と一緒に買った物だ」
「まだ持ってんのかよ、そんな安物」
「……思い出の品、だからな」
駆け出しだった頃。
先輩冒険者に付いて依頼を受けつつ勉強したり、ガイストとの訓練で時間がなかったが、ハイセとサーシャは二人だけで薬草採取を受けたりして、小銭を稼いだ。
その時買った、一番安いアイテムボックスだ。
「今更だが、半々で出し合って買った物だお前の物でもある。譲ってほしい、言い値を払おう」
「……無駄遣いするなよ。お前、そういうの嫌いだったろうが」
「無駄じゃない」
サーシャは、アイテムボックスをそっと撫で、真面目な顔でハイセを見た。
ハイセは顔を反らし、紅茶を飲む。
おかわりを注ぎ、アイテムボックスからミルクを出して少し入れた。
「……ミルクか」
「いるか?」
「ああ、っと……その、おかわりもいいか?」
「いいぞ」
紅茶を注ぎ、ミルクを入れてミルクティーにした。
サーシャはニコニコしながらゆっくりカップに口を付けて飲んでいる。
「サーシャ、今のうちに聞いていいか?」
「?」
「禁忌六迷宮の一つ、『ドレナ・デ・スタールの空中城』……地図を見つけたらどうする? 所有権を主張するか?」
「……これは王家からの依頼だ。所有権は、王家に……」
と、言って気付いた。
そういえばバルバロス陛下は、『ハイセと一緒に地図を見つけろ』としか言っていない。王家に持ち帰れとも、地図を解読するために研究機関へ預けろとも言っていない。
見つけた時点で、依頼は終わる。
その地図は、どうなる?
「…………」
「なるほどな。見つけた後は好きにしろ、ってことか」
「……うちのクランに『模写』を持つ事務員がいる。その事務員に地図を書き写してもらおう」
「わかった。じゃあ、その間、地図は俺に預からせてくれ」
「…………」
「信用できないか?」
「いや、そうじゃない。お前のことは信用できる。だが……その、なんというか、冒険者としての私が、お前に見せて先を越されるのが嫌、というか」
「は、だよな。俺もだ……じゃあこうしよう。地図は俺が持つ。ただし、模写するまで絶対に中を確認しない。ただ持つだけだ。ハイベルグ王国に戻って、模写が終わったら初めて見ることにする」
「いいだろう。では、公平になるよう、墓地で地図を発見したら、プレセアに確認させる」
「……よし、決まりだな」
「ああ」
ハイセはカップを軽く上げ、サーシャも上げる。
そして、カップの縁を軽く当て、カチンと音を鳴らした。
「明日、いよいよ墓地に行くことになる……ハイセ、気を付けろ。破滅のグレイブヤードを攻略するためにここまで来た冒険者たちの帰還率が低い理由が、きっとこの先にある」
「わかってる。まぁ、なんとかなるさ」
そう言い、ハイセは残ったミルクティーを一気に飲み干した。





