破滅のグレイブヤード①
翌日。
チーム『セイクリッド』、ハイセ、ヒジリ、プレセアの八人は、王城の裏にある北門……『破滅のグレイブヤード』入口へ向かった。
道中、グレイブヤードへ行く人は意外にも多かった。
「墓地だからな。それに、この国は『月命日』と言うのがある」
「確か……毎月訪れる、命日と同じ日のことだな」
タイクーンの言葉にハイセが返す。他の誰も知らないが、ハイセは知っていた。
この世界は三百六十日周期だ。一月が三十日で、合計十二月。これが一年だ。
月命日とは、一年で十二回ある命日と同じ日に花を添える日。
毎日誰かの墓に、花が添えられる日でもある。
「墓場の数は、確か……二万だったかな」
「よく知っているな、ハイセ」
「宿にあった本で見たんだ」
「何? 宿屋に本が?」
「ああ。一階のカフェスペースに、小さいけど本棚があった。飲み物を注文すると、自由に見ていいらしい」
「それは盲点だった。よし、後で行くか」
「……仲良しね」
ハイセとタイクーンが盛り上がっていると、プレセアが言う。
互いに本の話は嫌いじゃなかった。
そして、一般墓地を通り過ぎ、巨大十字架の前へ。
タイクーンが全員に言う。
「では、ペアに分かれてアプローチを開始してくれ。地図を見ながら進み、予定の距離を進むこと。順当に進めば四日後には最奥で合流できるはずだ」
全員が頷いた。
そして、行動開始。
「よし、頼んだぜプレセア」
「ええ。今更だけど、透明化は本来ならお金取るの。今回はサービスね」
「え、マジ?」
レイノルドとプレセアの姿が消えた。
そして、ヒジリが指をパキパキ鳴らしながら言う。
「燃えてきたわ。ロビン、援護頼むわよ」
「いいけど……戦いながら進む気満々っぽいよね」
「っしゃ!! 行くわよ!!」
ヒジリが十字架の横を通り、『破滅のグレイブヤード』へ飛び込んで行く。
その様子を見て、サーシャはため息を吐いた。
「やれやれ……タイクーン、こちらも行くか」
「ああ。ハイセ、ピアソラ、くれぐれも喧嘩するなよ」
そう言い、サーシャたちも別方向へ。
残されたハイセとピアソラは、互いに睨みあう。
「足引っ張ったら置いて行く。どうせお前、俺が怪我しても治すつもりなさそうだしな」
「あら、よくご存じで」
「ああ、でも俺は優しいからな。お前が魔獣に食われて死にかけたら、トドメは刺してやるよ」
そう言い、ハイセは『自動拳銃92』を手にしてピアソラへ向けた。
ピアソラは舌打ち。だが、依頼は依頼と割り切ったのか、地図を広げる。
「さっさと行きますわよ。少しでもあなたと一緒の時間を減らしたいので」
そう言い、ピアソラは歩きだす。
ハイセは無言で、その数歩後ろに従って歩きだした。
◇◇◇◇◇
「ふぅ……」
破滅のグレイブヤード。
サーシャとタイクーンが侵入したポイントは雑木林。
現在、サーシャは周囲を警戒しながら進んでいる。タイクーンのサポートで『感覚強化』を併用しているので、虫の羽音すら聞こえていた。
タイクーンが言う。
「気になるか? ハイセとピアソラが」
「……なぜ、そう思う?」
「七度目だ」
「え?」
「雑木林に入って四十分……七度目のため息だ」
「そ、そうなのか?」
サーシャは驚いた。
タイクーンは、眼鏡をクイッと上げながら言う。
「正直、不安もあるのは確かだ。ハイセがピアソラを見捨てる可能性は決して低くないし、ハイセが怪我をしてもピアソラが治療しない可能性も低くない」
「だが、お前はあの二人を組ませた」
「……今後のことも踏まえて、今のうちの多少なり関係改善は必要と判断した」
「今後、か」
「ああ。過去の事件を置いても、我々とハイセは和解の道を歩んでいるとみていい……だが、決定的に最悪なのは、ピアソラだ」
「…………」
「サーシャ、気付いているだろう?」
「……ああ」
ピアソラは、サーシャを本気で愛している。
同性だが、関係ない。
だから……サーシャに最も近い、ハイセのことが本気で嫌いだった。
かつて、チーム『セイクリッド』にいた頃のハイセ。
役立たずのくせに、サーシャに想いを寄せられている男。
レイノルドとは違い、戦いもできないお荷物のくせに。
「私は、ピアソラの想いに応えられない。そもそも……その、私がハイセのことを好きとか、その、幼馴染というだけで」
サーシャは、口をモニョモニョさせ、髪を人差し指に巻いていじっている。
耳や頬が少し赤く、どうもはっきりしない。
だが、タイクーンは言う。
「今回、二人が一緒になることで、多少なり仲間意識が芽生えたらとは思う。ああ、安心してくれ。あの二人が恋愛関係に発展する可能性は限りなくゼロだ」
「べ、別に気にしていない!!」
「サーシャ、前から聞きたかったが……きみは恋愛に興味があるのか?」
「はい!?」
タイクーンは、本気で聞いている。
首を傾げ、大真面目に。
「最初はハイセのことが好きなのかと思ったが、チームに在籍していた時は厳しい言葉ばかりぶつけていたな。最終的には追放し、罪悪感に苦しめられていたことは知っている。だが……ハイセが頭角を現しS級に昇格した頃から態度が変わったな? 特に最近は、顔を赤らめたり、露骨に意識したり……ああ、プレセアやヒジリが現れ始めてからか? 最初はハイセをチームに戻すために色仕掛けでもするのかと思ったが、きみはそんな器用なことはできないしな「ま、待て!! 待った!!」
大真面目な顔で、何を言っているんだ。
サーシャはタイクーンの口を両手で押さえた。そして、タイクーンは「やめろ。この森で剣士が両手を塞ぐというのは自殺行為だぞ」と、照れの一つもなく冷静に言う。
冷静でクソ真面目な分析に、サーシャは真面目に言う。
「いいか、タイクーン。私はハイセを異性として見て……い、いない、と思う」
「ふむ」
「気になるのは確かだ」
「なるほどな。では、他の男は? レイノルド、クレス王子殿下などもいるだろう」
「……嫌いではない」
「サーシャ、きみは間違いなく美人だ。たまにクランの事務員がサーシャ宛ての見合い写真を持って来るからな。いずれは相手を見つける、そういうことでいいか聞きたい」
「な、なに?」
「見合い相手は貴族が多い。きちんと返事は返しておきたいからな。きみの意志を確認させてくれ」
「…………」
結婚。
結婚したら、冒険者は引退だろう。
クランマスターの地位はそのままだろうが、前線には立てない。
いずれ、子を作ることも考えなくてはならない。
生涯独身……それもいい、とは思った。
だが、それを望まない自分もいる。
「…………わからない」
「わからない、か」
「ああ。今は……」
「わかった」
「……ところでタイクーン。私のことばかりだが、お前はそういうのに興味はないのか?」
「ボクは歴史文学に恋しているから問題ない」
やりかえしたつもりだったが、タイクーンの大真面目な答えにサーシャは呆れるのだった。
 





