作戦
サタヒコに案内され、ハイセたちは『セイファート騎士団』の空き家へ。
そこに、長い黒髪をポニーテールにした二十代半ばの女性がいた。
サタヒコは女性の隣に立ち、にこやかに紹介する。
「こちら、五番隊隊長のアヤメ。ウチの戦術家でもあります」
「アヤメや。よろしゅう」
「わぁ~、綺麗な服ですねっ」
と、ロビンがハイセの腕に抱きつきながら言う。
白を基調にした、不思議な花柄の模様の服だ。先ほどハイセとタイクーンが言った『和装』であり、『和服』という伝統衣装だ。
ヒジリは「歩き辛そう、アタシは嫌」と言い、ピアソラは爪を噛みながら「くっ……さ、サーシャの方が美人ですもの」となぜか悔しがっていた。
アヤメはクスっと微笑み、全員を家の中へ……だが、ヒジリは言う。
「ね、サーシャ。これからするの難しい話でしょ?」
「……まぁ、そうだな」
「なら、アタシはいなくていいでしょ。アタシが興味あるのは───アンタよ」
「おや」
ヒジリは、サタヒコにビシッと指を突きつける。
サタヒコは困ったように言う。
「うーん……若い子に好かれるのは悪い気しませんがねぇ。こう見えて妻がいますんで」
「そういうんじゃないし!! ってか、わかって言ってんでしょ!? ってかアンタ結婚してんの!?」
これにはハイセたちも少し驚いた。というか、アヤメがペコリと頭を下げる。
「初めまして。サタヒコの妻、アヤメです」
「はぁぁ!? ああもう、そんな茶番いいし!! ちょっとアンタ、アタシと戦いなさい!!」
「うーん……」
「あんた。訓練ってことならいいんちゃう? キキョウには連絡しておくさかい」
「まぁ、そういうことなら。ではヒジリさん。少し相手してあげましょう」
「フン、後悔するんじゃないわよ」
と、レイノルドが挙手。
「面白そうだ。見学させてくれ」
「あたしも、難しい話はちょっとなー」
「ははは。ではでは、こちらへどうぞ」
サタヒコは、ヒジリ、レイノルド、ロビンを連れて行ってしまった。
残ったのはハイセ、サーシャ、ピアソラ、タイクーン、プレセア。
アヤメはハイセたちを奥へ案内する。奥の部屋は資料室になっており、大量の蔵書が本棚に納められ、部屋の中央には大きなテーブルがあった。
「さ、『破滅のグレイブヤード』について、あたしが知っていることは何でも話します」
「……よし。じゃあ、ここからはボクが進行役になろう」
こうして、『破滅のグレイブヤード』攻略に向けての作戦会議が始まった。
◇◇◇◇◇
「まず、おさらいだ。破滅のグレイブヤードとは、聖十字アドラメルク神国が管理する『墓地』であり、人間界屈指であるSSS級ダンジョンのことだ」
タイクーンの説明が始まり、全員が聞く態勢に。
アヤメは何も言わない。聞かれたら答えるスタイルのようだ。
「SSS級……人間界では四つ認定されている。禁忌六迷宮と違うのは、場所がはっきりしていること、そして許可さえあれば誰でも入れることだ。踏破こそされていないが、最奥部まで進んだというチームも存在する。と……この辺りは関係ないな」
「いや、勉強になる。改めて聞くと面白い」
ハイセがそう言うと、タイクーンは答えず眼鏡をクイッと上げる。
「破滅のグレイブヤードは、王城の真裏にある『聖大十字』から先にある。ここは手前が国民の墓地で、奥は王族の墓地になっている……だが、王族の墓地一帯はダンジョン化しており、討伐アベレージSSの魔獣が闊歩している。ダンジョンの形態は『荒野型』で、最奥に王家の墓と、ダンジョンボスがいる。ボクらの目的は、王家の墓だ」
「ここに、禁忌六迷宮の一つ、『ドレナ・デ・スタールの空中城』の飛行ルートに関する地図があるんだな」
サーシャが言うと、タイクーンは「ああ」と答えた。
「ここの魔獣の特徴は、まず大きさだ。一番小さい魔獣でも、平民が住む二階建ての家に相当する……その魔獣が群れで襲って来る。大抵はここで諦めるか、逃亡する」
「……上空からもか?」
「同じだ。家が浮かんでいると思えばいい」
ハイセはため息を吐き、「ま、上空から行く手段もないが」と言う。
そして、プレセアが首を傾げた。
「でも、そんな大きい魔獣なら、お城から見えるんじゃない?」
「いや、あの『聖大十字』の結界が国全体を囲っている。あの十字架には様々な『能力』を組み合わせて作られた物で、最大の特徴は『認識変化』の能力が付与されていることだ。これにより、魔獣は聖十字アドラメルク神国が『壁』としか認識できないことだ。まぁ、巨大な壁に向かって進む魔獣はいないから、この国は安全なんだ」
「……いやはや、あたしは必要ありませんなぁ」
アヤメは驚いていた。
ハイセ、プレセアもタイクーンの知識がここまでとは思っておらず驚く。サーシャとピアソラは特に驚いていない。
「聖大十字を超えたら、魔獣に認識される。破滅のグレイブヤードは独自の生態系が築かれ、ボクたち人間は単なる餌だ……ここまで話しておいて悪いが、どう作戦を立てていいか悩む」
「……お前の透明化は?」
「無理。姿を消すだけで匂いは誤魔化せないわ。嗅覚のいい魔獣には簡単に見つかる。しかも、一度に透明化できる人数は三人までね」
プレセアでも無理なようだ。
ハイセはサーシャに言う。
「戦いながら進むか?」
「……なるべくはやりたくないが、策の一つとして考えておくべきだな」
「フン、あなたが突っ込んで魔獣を皆殺しにしたら? それか、あなたが大暴れしている間に、私たちが先に進むとか」
「やってもいいけど、その時はどんな手段を使ってもお前も道連れにしてやるよ」
「あァ?」
「死ぬ覚悟もなく、他人の命を軽々しく賭けるんじゃねぇよ。そういうの卑怯者って言うんだぜ」
「……その喧嘩、買ってやろうか」
ピアソラの額に青筋が浮かぶが、サーシャが止めた。
「今のはピアソラ、お前が悪い……ハイセに謝れ」
「…………フン」
「いいよ、言葉だけの謝罪なんて胸糞悪いだけだ」
サーシャは、頭を抱えたくなった。
多少なり、ハイセとの仲は戻ったような気がしていた。
レイノルド、ロビンとは普通に喋るようにはなった。タイクーンもそうだ。
だが……ピアソラ。彼女だけは変わらない。ハイセとピアソラの仲は、ハイセが『セイクリッド』に所属していた時よりも最悪だった。
恐らく……あまり考えたくないが……もしハイセが怪我をしても、ピアソラは治さない。そんな気がした。
「……策はいくつか考えた。まず、一塊ではなく、少人数で異なる場所からアプローチする。アヤメさん、グレイブヤードの地図はありますか?」
「あるよ。まぁ、完全な地図じゃあないけどねぇ」
テーブルに地図が広げられた。
地図は、あまりにも大雑把だった。
まず、ブルーベリーほどの大きさの円に『聖十字アドラメルク神国』と描かれ、その後ろに小さな十字架。そして、地図の半分以上を覆う巨大な円、そして地図の端に『王家の墓』と描かれた小さな円があった。
「こ、こんなに広いのか……?」
サーシャが驚いていた。
タイクーンも「む……」と眼鏡を上げる。
アヤメが、いつの間にか手にしていた煙管で地図を差す。
「人数をバラけさせて入るのは賛成やね。というか、ここに挑む冒険者はみんなそうしてる。グレイブヤードの魔獣は『鼻』が利く……大人数で固まってると、あっという間に匂いで餌と勘づかれる」
「そうだな……二人か、三人か」
「そうやね。あと、大事なのは消臭剤や。ヒトの匂いを消す匂い袋を持って入ることを勧めるで。そして、隠れながら進む……四日も歩けば、王家の墓が見えるはずや」
「よ、四日……」
サーシャが「そんなに……」と呟いた。
タイクーンは続ける。
「とりあえず、その匂い袋について聞かせてくれませんか? それと、チーム分けをするならメンバーを決めないとな」
こうして、話し合いは数時間に及んだ。
全てが決まり、話し合いを終えてハイセたちは家を出る。
そのまま、ヒジリたちを迎えに、アヤメの案内で訓練場へ向かった。
「おお、お疲れ様ですー」
サタヒコがいた。
そして、その足元には……血濡れのヒジリが、息も絶え絶えに跪いていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……この、クソ、バケモノ……ッ!! 『金剛拳』!!」
ヒジリの右腕に、ダイヤモンドが纏わりついて《拳》となる。
だが、サタヒコが木刀を軽く振ると、ダイヤモンドの拳が砕け、ヒジリの腕も刻まれ血が噴き出した。
「っぐ、あぁぁぁっ!!」
「はい、おしまい」
「───っあ」
木刀で首筋を叩くと、ヒジリの意識が刈り取られた。
サタヒコはニコニコしたまま、アヤメに言う。
「アヤメ。この子、キキョウのところへ」
「ええ」
「あ───……ちょっと滾ってきたなぁ。思った以上に、この子が面白くて。あと二年もすればいい勝負できるようになるかもねぇ」
サタヒコは、木刀をサーシャへ向けた。
「サーシャさん、どうです? 少しボクと遊びませんか?」
「…………フッ、願ってもない。長々とした話で、少し運動したいと思っていた」
いつの間にか、サーシャもやる気になっていた。





