65 SS/お餅は美味しく頂きました
王城の中庭。
この庭は王妃である私の叔母様が手がけている場所。
今は陛下やアシェリーの瞳の色と同じ、紫の薔薇が咲き誇り、良い香りを風が運んでいます。
今日は定例になった二人でのお茶会の日。
少し前、陛下の策略も相まって、私とアシェリーは無事?婚約致しました。
現王家にはアシェリー以外の王子はいない為、何かない限りは彼が王になるのは定められた事。
ですので、現在私は王太子妃教育と少しの王妃教育をしに定期的に王城に来ていますの。
とは言え、侯爵家で完璧に教育されていた私です。マナーや語学などは完璧すぎてほとんど教える事がないと先生方からお褒め頂き、今は王族として覚えなくてはならない事を習っています。
………因みに、もう深くまで「習わされた」せいで、仮に婚約破棄しようものなら毒杯確定ですわ。
「今日はいい天気ですわね…暑くもなく、ポカポカで気持ちいいですわ」
執務が終わらないアシェリーを待ちながら、ガーデンテーブルでのんびり中の私。
隣には専属侍女のカトレアが一緒です。
そして、今日はお膝に光の精霊である「リンネ」もおりますの。
久しぶりに「子犬」と話したかったみたい。
「リンネの毛はツヤツヤもふもふで最高ですわね」
『あら、当たり前ですわ。私の毛は至高ですのよ?』
丸まって気持ちよさげにする彼女の背を、心ゆくまで堪能中ですわ。
本当に………最高!
(それにしても………こうしていると、本当に普通の猫ですわね……あら?)
「ごめん、待たせたね」
丁度アシェリーがいらっしゃいました。
執務が終わり、急いで来られたみたいですわね。
嬉しい…ですけど、無理はしてほしくないのですが。
『子犬にしては、殊勝な心掛けですわね。まぁ、フィオラちゃんを待たせているのですから当たり前ですわね』
辛口姫は相変わらずですわね。
そうそう、リンネからのアシェの呼び名が「子犬」で定着してしまいましたわ。
「今日はリンネが一緒だったんだね」
『あら、私がいたらダメだと?別に貴方達の邪魔をしに来た訳ではありませんわ』
「分かってるよ。リンファに会いにきたんだろ?」
『べっ、別に、態々あの愚猫に会いに来た訳ではありませんわ!たまたまフィオラちゃんが登城するのに付いて行きたかっただけですわ!』
相変わらず…可愛い!
なんてツンデレ!
叔母様の契約精霊であるリンファとは陰陽の関係で、仲がいいのは知ってますのに…ふふっ。
『ま、まぁ…そこまで言うなら会いに行ってきますわ!よろしくて?たまたまですからね!』
ふわりと羽を出し、城内に飛んで行くリンネ。
そして、去って行ったリンネを見ながらアシェが溜息を一つ。
「可愛いですわね」
「あれが?」
「え?可愛いですわよ?」
「…………そうか」
それから、いつも通りお茶を飲みながら、たわいも無い会話をし時間が流れて行くかと思いきや。
途中、アシェの表情がどこかオカシイ事に気付きました。
学園でもほぼ毎日会っていますし、会話のネタがないのを気にしてる…とかかしら?
その時。
小首を傾げてしまった私に、アシェリーから爆弾が飛んで来ました。
「フィオ……以前リンネから聞いた話で、気になっていた事があるんだが……悩んだんだが、どうしてもフィオに確かめたくて」
リンネから?何を聞いたのかしら。
別にやましい事はありませんから、ある程度は何を聞かれても大丈夫ですが。
「何でしょうか?」
言いにくそうに下を向くアシェが、テーブルに乗せた両手をギュっと握りましたわ。
「フィオは、ワタリビトだ」
「はい、そうですわね。それが…何か?」
「その、だから…フィオには過去の「生前」の「記憶」があるだろ?だから……その」
子犬発動ですわ。
こんな時、リンネがいたら叱り飛ばしてますわね。
「つまり、その、リンネから…フィオラには生前懇意にしていた「男性」がいた…と聞いた」
あぁ、そう言う事ですか。
つまり、前世の私に「彼氏」がいた事をリンネに聞いたんですのね?
彼女とは、契約した関係で記憶の共有がされましたから、私の前世を知っていて不思議はありませんわ。
因みに、前世では年齢的な事もあり、数人とお付き合いしましたけど…リンネったら、アシェリーにどんな内容で話したのかしら。
(はぁ、リンネ………アシェの事試しましたわね)
何を知っても私を大切にするか、きっとワザと試すために「懇意にしていた男性がいた」とでも言ったに違いありませんわ。
「確かに……懇意にしていた殿方はいましたが、前世…過去のお話ですわよ?」
今の私にはどうする事もできません。
過去は過去ですからって………ん?
「………私の方が……いい男だろうか」
「はい?」
ボソリと口を開くアシェリー。
あら?
これは……。
「ヤキモチ…?」
「は?……ヤキモチ…とは何だ?」
あ、この国には「お餅」が存在しませんでしたわ。
語源のない言葉は通じませんわね。
「あ、えっと……焼いたお餅と言う……じゃなくて、つまり……嫉妬?」
その瞬間、「ぼふん」と効果音が出そうな勢いで、アシェリーのお顔が真っ赤になりました。
「アシェは、私に嫉妬してくださったの?」
「し、仕方ないだろ!リンネから君の生前の世界はこの世界と倫理観が少し違うと教えられたんだ」
まぁ、確かに…婚前にカレカノ履歴が何人もいる方は、この世界では珍しいですわ…いても二人位まででしょうか?
それ以上だと…少しはしたない方になってしまいますわ。
(そう考えると、あの小娘は…)
これ、私の生前の履歴はアシェに言わない方がいいですわね…と言っても、学生時代合わせ計三人ですけど。
「アシェ?……気にしすぎですわ」
「分かってるんだけど」
「気にするだけ無駄ですわ。私は「今」を生きていますのよ?過去はどうあれ、フィオラとして初めて好いた方はアシェリー・アリストラただ一人ですわ?」
そう、この世界で初めて愛した方はただ一人。
これからもそれは変わりませんわ。
「でも……ふふっ」
「なに?」
「アシェは、それだけ私を好いていてくださるって事ですわよね?」
「うっ……あ、当たり前だろ!」
真っ赤になったまま俯くアシェリー。
本当………可愛いですわね。
このままお持ち帰りしたいくらいですわ。
(あ、カトレアの視線が痛いですわ…しませんわよ?お持ち帰りなんて)
「アシェリー?その焼いたお餅は美味しく頂きますわね」
「は?」
満面の笑みの私に不思議そうな表情をするアシェリー。
「だから……モチとはなんだ」




