6素顔(フレア)
「あー、疲れた」
私は学園から帰るなり、自室のソファーに、だらしなく身を委ねた。
面倒な侍女やメイドは下がらせた。はっきり言って、毎日「ちゃんとなさいませ!」って五月蝿いのよ!
私の勝手でしょ?
家の中くらい自由にさせろってーの!
「帰ったようね」
そこに、私にうりふたつの容姿を持った女性から声がかかる。
違いは、ただ女性の方が年を重ねていると言う事。
軽く叩かれたノックと共に入ってきた彼女は、私の「母親」だ。
「お帰りなさい、フレア」
「ただいまぁ、お母さま」
彼女は、元伯爵令嬢であるララベル・ラファエロ。
今は家名を名乗る事も出来ない。
本来なら「王妃」になっていたはずの悲劇の人。
さて、自己紹介ね。
私の名は、フレア・ラファエロ。
今は伯爵令嬢をしているわ。
生まれも育ちも、このラファエロ邸。
ピンクゴールドの髪に、水色の瞳を持つ美少女よ。
お母さまが、騙されて断罪され、平民になった後、お爺さまが離れに隠してくださり、そこの管理をしていた男との間に生まれたのが私。
お母さまが言うには、男は、勝手になついて、犬になったから可愛いがってあげてたら私が出来ちゃった……って。
まぁ、ヤルことやってたら子供くらいできるわよね。
お母さまいわく、男の容姿がよかったから、この男だったら子供も美人だろうと、自分の美しい容姿に似た子ができるだろうと選んだらしい。
まぁ、確かにおかげで私は超絶美少女なんだけどね。
因みにだけど、男は、お母さまを傷つけた罪で、お爺さまに解雇されたわ。
今は隣の国で奴隷をしてるって聞いたけど…まぁ、元々犬だし、お似合いじゃないかしら?
お母さまは、昔学園で王太子さまだった、今の国王さまと恋仲だったそうよ?
だけど、それに嫉妬した現王妃、当時のマリアナ・ドロッセル侯爵令嬢に嫌がらせや悪口など、かなりのイジメを受けたそう。
そんなお母さまは、王太子さまや彼の友人達に助けられて、マリアナを断罪するところまでいったみたい。
でも、お母さまが逆に断罪された。
王族を誘惑し、侯爵令嬢を弾糾した罪で。
意味が分からないわよね。
ようは、王家が伯爵家より侯爵家をとっただけでしょ?
当時の国王さまが、ただ利益しか見てなかったってだけじゃない。
ドロッセル侯爵家は、確かに王族の血も混ざってるし、お金もある。
まぁ、「他にも」要因はあるけどね。
権力者ってサイテー。
そんな事で愛し合ってた二人を引き離したんだから。
だから、私がお母さまの代わりに王族になるの!
本来、その権利があったんだもの。ただそれを返してもらうだけだわ。
それに、私本気になっちゃったのよねー。
アシェリーさま、超ドストライクだったんだもん。
漆黒の髪に、綺麗な紫の瞳。
美しい声だし、優しいし、何より王族には珍しく、婚約者がいない!
きっとお母さまと陛下の悲恋話をご存知なんだわ!だから無理に婚約者を作らなかったのね。
真実の愛に巡り合うために!
「フレア、アシェリー殿下はどう?素敵な方?」
お母さまは、年を重ねてもまだ美しいそのお顔で、柔らかく微笑んでくれた。
「うん、超素敵な方よ!優しいし、話しかけたらちゃんとお相手してくださるし。………でも、邪魔な人がいるんだよねぇ」
私はある一人の「女」の顔が頭に浮かんだ。
「アシェリーさま、けっこうな確率であの女と一緒にいるの。婚約者でもないのに馴れ馴れしいし、たまにアシェリーさま脅されてるみたいだし」
私の言葉に、お母さまの表情が変わりました。
「あの女…とは、誰かしら?」
「フィオラ・ドロッセル侯爵令嬢よ」
「ドロッセル?」
その瞬間、私の隣に腰掛けていたお母さまが、置かれていたクッションを掴むなり、ぶん投げた。
ちょうど花瓶に当たって、そのままバリンバリンに割れちゃった。
まぁ、勝手に飾られたやつだからいいけど…。
「また!またなの!あの女の仕業ね!あの性悪女、私の可愛いフレアにまで手を出すなんて!」
「お母さま…」
「あのアバズレが、貴女が王太子妃になるのを止めるために違いないわ!あの女はそう言う女ですもの!私の時だって、あの女のせいで…」
もう一つクッションが投げ飛ばされたわ。
次は積んであった読みたくもない本が的ね。要らないから、別にかまわないけど。
「貴女が王太子妃になれば、私達母娘は幸せになれる。私もあんな狭い離れから自由になれる…なのに、あのアバズレは、どこまで私に酷い事をすれば気がすむの!私が幸せになるのがそんなに許せないのね!」
泣きながら、三つ目のクッションを殴るお母さま。
うん、私も許せない。
アシェリーさまは、私の運命の人よ!それを邪魔するなんて、絶対に許さないから。
それに、お母さまの仇も言いつけ通りとってあげなくちゃね。
なぁんちゃって…クスッ。