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59 勘違い野郎に鉄槌を!

「ちょっと…何を言っているのか分からないわ」


 もう一度言いますけど、このクズ男は何を言ってますの?


「分からない訳ないだろうが!お前は僕の婚約者!幼少期から決められた家同士の繋がりだ!だからこそ、お前は僕を守り、僕に従う決まりなんだよ!当たり前の事が何故分からない!」


 ギャンギャンとよく吠えますこと…。


 先程からの発言、私を侮辱するにも程がありますわ。


 誰が誰を守るですって?

 誰が誰に従う決まりですって?


「はぁ、………本当、つくづく救いようがありませんわね」

「何だと!」


 呆れたように溜息をつくと、目を見開きながら詰め寄ってくるユリウス様。


「いいですか?貴方とは家同士が決めただけの…しかも我が家への謝罪の為の婚約ですのよ?こちらは「約束」だから、仕方なく婚約いたしましたのに、何故貴方なんかのために私が労力を使わなくてはならないのです?」


 バサリと扇子を広げ、口元を隠しながらもう一度溜息。


「はぁ、好きで婚約したならまだしも…昔貴方のお家がなさった行為の謝罪での婚約ですのよ?お忘れになられたのかしら?……「ドロッセル家に忠誠を誓う人質として貰ってほしい!」と貴方のお祖父様からお願いされた事」


「ちゅう…せい、ひっ……人質?」


 あら、本当にご存知ない?


「お祖父様から聞いていらっしゃらないと?」


 ……でも、可笑しな話ですわね。

 自分の家の不祥事ですし、婚約の理由くらい話に上がると思うのですけど。

 私だって、お母様から謝罪されながらお話しがありましたもの。


「貴方のお父上がなさった事をご存知ないの?」


 叔母様に対する罪。

 絶対に許されない事をなさったのに。


「う、煩い!僕を騙すつもりだな!僕の命令を聞きたくないから嘘を言ってるんだろ!」


 「罪」と言う言葉に、一瞬お顔の色を変えられましたが、私をキッと睨み腕を掴んできました。

 本当に、お馬鹿につける薬はない…とはこの事ですわ。


「何をなさるつもり?」


 冷めた瞳で下から覗き込んだ私と目が合うと、そこには憎しみに染まったお顔。


「煩いウルサイ!お前は僕の命令を聞いていればいいんだ!」


 そして、私の腕を掴んでいない方の手を振り上げると、そのまま…。


『パシンッ』


 これだけ煽りましたし、まぁ、このお馬鹿の事ですから、手を上げてくるとは思っていましたけど…やれやれ、過保護ですわね。



「お……王太子殿下」



 振り下された手は、私の後ろに立つアシェリーによって塞がれ、その手首をギチリと握られました。


 いつの間に現れたのかしら、お馬鹿なユリウス様を煽るのに夢中で気配を読むのを忘れてましたわ。


「あら、過保護すぎですわよ?」

「うるさい…ワザと手を上げさせたくせに」


 首を傾けアシェリーを見ると…怒りまくってますわね。

 これ、後で私お説教コースかしら。


「あ、これは、その」


 威張り散らしていたクズ男ですが……流石に王太子殿下には弱々ですわね。

 私の腕から己の手を離しながら、その場にへたり込まれましたわ。


「先程の会話、悪いが聞かせてもらった。……と言うか、あれだけ大声で吠えていれば嫌でも耳に入ると言うものだ」


 まぁ、お声大分大きかったですものね。


「で、殿下……僕は悪くないです!悪いのは婚約者である僕を立てないフィオラだ!」


 何を言ってますの?


「何を言っているんだお前は?」


 そう、それ。


 怒り心頭のアシェリー。

 瞳は氷のように冷め、背後に見えないブリザードを背負っています。

 しかも「お前」と呼ぶと言う事は、お怒りマックスという事ですわ。


「先程申したはずだ…聞かせてもらったと。お前は何を勘違いしているんだ?お家断絶もありえた事を、祖父の功績で刑が軽くなったと言うのに…家を潰したいようだな?………騎士団長」


 アシェリーのパチンと鳴らされる指。

 その音に合わせ現れた人物。その人物を見た瞬間、一気に顔色を蒼白に変え、ガクガクと震えるユリウス様。


「あ、お、お祖父様!」


 そう、現れた人物は我が国の鬼将軍もとい、騎士団長であるラングレー侯爵。

 つまり、このクズ男のお祖父様ですわ。

 お年を召しても衰えを知らない、ムキムキな筋肉を纏う体躯、そしてそれに釣り合う強面なお顔。


「騎士団長…いや、ラングレー侯爵。この馬鹿を即刻引き取ってもらいたいのだが?」


 流石と言いますが、メチャクチャお怒りで子供が見たら号泣間違い無しなお顔のラングレー侯爵を、平然と睨みつけるアシェリー。

 そんなアシェリーに一礼すると、侯爵は片膝をつくき深々と私に頭を下げられました。


「フィオラ嬢。此度は大変申し訳なかった!そこの馬鹿孫はこちらで引き取る!後始末は陛下と其方の家を含め後ほど話させて頂く……おい!」


 警備のため着用していた式典用の鎧をガシャリと鳴らしながら立ち上がる侯爵。そして、そのまま私の前でへたり込むユリウス様の襟首を掴むと、引きずるようにその場を去って行かれました。


 引きずられながらも、何やらまだ騒いでらっしゃいますが……無駄な事ですのに。

 それにしても、お二人が通る広間、まるでモーゼのようですわね。

 招待客の方々が自然と道を作っておいでですわ。


「ご愁傷様ですわね…自業自得ですけど」


 さて、こちらはひと段落。

 後は…私の前で仏頂面をしているアシェリーですわね。


「あの、助かりましたわ」

「本当に、何を考えているんだ!ワザとあんな態度をとったりして、怪我でもしたらどうする!」


 アシェリーの夜色のお髪が夜風に揺れて綺麗ですわぁ……って、現実逃避してる場合ではないですわね。


 やっぱりお説教が始まりましたわ。


「だって、あの態度には腹も立ちますわ。それに、今回の件だけでは縁がちゃんと切れるか保証がありませんでしたもの。侯爵に婚約を継続してほしいと頭を下げられる可能性もありましたし。もし叩かれても後から治癒魔法をかければ解決ですわ?」


 って、あら?

 言葉選びが不味かったかしら…。


「だからって、自分を犠牲にするな!」

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