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54 私より悪役してますわ!

「は?………え?」


 直接頭に入り込んできた言葉。

 それにしても、ちょっと声量が大きすぎましたわね。

 この「声」を聞き取ったとみられる全員が、思わず顔をしかめてしまってますわ。


『あぁ、ごめんあそばせ?あまりに可笑しな事を言われたので、私、ビックリして言葉の魔力を直接叩き込んでしまいましたわ』


 今、正に腕に抱かれようとしていた体を優雅に滑らしながら、精霊は呆れた様な口調で愚痴てきました。

 本当に申し訳なく感じていたかはさて置き、今度はちゃんとお口から発声された言葉です。


『さっきから黙って聞いてましたけど、なぁに?お前達…何様かしら?私の事を好き勝手に。頭がとっても残念すぎて私、頭痛になりそうですわぁ』


 ………口調、セリフ、もろもろに一同フリーズ。


 うん、分かりますわよ?そのお気持ち。


 神々しく光を纏う美しい白猫。

 背には光の羽が羽ばたき、その存在自体特別なのだとその全てから醸し出される存在。それが、こんな高飛車令嬢みたいな口調で話すのですもの。

 彼女、悪役令嬢を地でいってますわね。


「残念って!」


 精霊の態度に静まりかえった広間ですが、やはり最初に動きだしたのは、勇者小娘でしたわ。


『残念…はぁ、頭が悪いと言う意味ですけど、理解できませんの?本当、ざーんねん」

「なっ、頭が悪いですって!何言ってるの、たかが精霊の分際で偉そうに!』


 あーもぅ。

 だからフレアさん、そう言うとこですわよ?


 いくら精霊がこんな性格……。

 ゴホン、難しいご性格をされてると言っても、精霊は精霊。

 私達人間とは感覚が異なる事を理解しなくては。


 しかも「たかが」ですか。

 我が国は精霊信仰の国ですのに…何を学ばれて生きてきたのかしら。


「………た、たかが……」


 あ、笑顔を崩さなかったアルス様のお顔に青筋が。

 笑顔で怒ると余計に怖いわね。

 しかも、お母様の従兄弟なだけあってお顔が美しいから余計恐ろしいですわ。


 まぁ、知った事ではないですけど、小娘は更に罪刑が追加ですわね。

 王家に加え神殿ですか…後が怖いですわね。



 まぁ、現状今一番怖いのは「彼女」ですけど。



『今、たかが…と?』



 精霊もまさか「人」からこんな発言をされるとは思いもしなかったみたいですわね。


『ふっ……あははは!たかが精霊と申すか!「たかが」人の分際で何と愚かな。私達精霊が膝を折るのは、自分と同等、または上位と認めた存在のみだと言うのに!』


 そう、それ。

 精霊の本質を知っていたら、さっきのような発言は絶対に出来ませんわ。


「あなた達精霊は人間に力を貸すだけの存在でしょ!ヒロインや悪役令嬢に力を与えるだけの「補助的な存在」のはずよ!メインストーリーを進めるのに必要な「キー」なだけじゃない!」




 ………ちょっと何言ってるのか分からない。



 小娘、アナタよりにもよって、ゲーム用語をペラペラと。

 頭悪すぎて完璧ヤバいヤツじゃない!

 救いようなさすぎて、頭痛いわよ…って、いけない!侯爵令嬢の仮面が思わず落ちてしまいましたわ!


 まぁ、事前に「彼女」にだけは私が転生者である事や、小娘とクズインの内情も説明しましたから、そこらへんは大丈夫でしょうけど。

 流石の彼女もこの対応にはビックリですわよね。


『お前…想像以上に頭が悪いのね?「ワタリ人」って…こんなのばかりなの?』


 ちょっと、そう言った事言いながら視線をこちらに向けてくるのやめてください!

 私は違いますわ!

 後「ワタリ人」って単語はアウトです!

 この中にソレの意味を知る方が二人いますのよ!


「ワタ…?何?、それより、アナタ!私と契約は?ヒロインの私がアナタと契約するのは「当たり前」の事でしょ!さぁ、契約を結んでちょうだい!」


 ちょっとお花畑すぎ!

 少しは脳みそ使ってくださらないかしら!


『煩い!さっきから契約契約しつこいわね!お前の命令を何故私が聞かねばならないの?だいたい、私はもう売約済みですのよ?エセヒロインは引っ込んでなさいな!』


 はぁ…精霊、えぇと、もう名前を呼びますが、「リンネ」も小娘が気に食わなすぎて引く気ゼロですわね。


「は?何言って…売約済み、エセヒロイン?ちょっと待ちなさいよ!どう言う事!」

『煩いですわ!そんな事も理解できないなんて、ワタリ人のくせに酷いったらありませんわね!』

「だから、ワタシビトって何なのよ!」




 …………このやり取り、誰が止めるんですの?




 とりあえず、この二人が言い合いを始めてから、周囲は完璧に置き去りになってますわ。

 あと、ワタリ人を連呼しないで頂きたいのですけど…。


 「ワタリ人」と言う言葉は、この世界では精霊以外では、王家と神殿しか知らないのです。

 その意味は「異界からの転生者」。


 「好きマジ」を制作する際、「私達運営」が転生者を指す言葉として使っていた用語なのですが、原案の段階で転生者設定が消えてしまい、ゲーム自体には登場する事がなかった言葉です。

 ですが、その言葉が何故か「この世界」で残っていたと言う、不思議現象ですわ。


 それよりリンネさん……いくら小娘に腹が立ったからとは言え、ちょっと自重して頂きたかったですわね~。

 先程貴女がチラ見したせいで、私、アシェリーとアルス様から絶対後から何か言われる自信がありますわ。


 この状況、どうしましょうか。

 いい加減軌道修正しないと話がまとまりませんわ。


『本当に、お前といい、お前の母親といい、脳みそを置き去りにして渡ってきたのかしらね。とりあえず馬鹿なお前達にも分かるように教えてあげるわ。私は既にそこにいる「フィオラちゃん」と契約してますの。お前達なんて眼中にありませんわ!』


 あ、話し進みそう?

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