53 ヒロインは誰?
「え……?」
突然の発言に、広間から音が消えました。
クズインも、意味が分からず目を見開いて驚いています。
「で、でも…神官様は私を迎えに来た…と、屋敷に来た時言われたじゃないですか!」
「ええ、精霊様が貴女で「遊びたい」と申されたので、仕方なく貴女にご一緒願いました。何か勘違いされてますが、私が貴女の屋敷にお邪魔したのは、精霊様をお迎えに行っただけですよ?」
ちょっと…いえ、かなり性格が捻くれた回答ですが、つまりは、ララベルは精霊の「オマケ」でしかないと言う事ですわね。
「あ、遊び?えっ…あ、え?どう言う事?」
戸惑うクズインに満面の笑みのアルス様。
本当、性格が悪いったらありませんわね。
「ですから、精霊様は暇つぶしに「たまたま」貴女の側にいただけにすぎません。精霊様が貴女と契約なぞあり得ませんよ?何を勘違いされたのか…私、最初に貴女に言ったはずですよ?「精霊様は遊んであげたいようですよ?」と」
アルス様の言葉に震えながら、拳を握るクズイン。
まぁ、その気持ちはわかりますわよ?でも、話はちゃんと聞いておくものですわ。
それにしても「あげたい」…ですか。
言い方キツっ。
知ってはいましたが、この方の毒舌さは「相変わらず」ですわねぇ。
「なら、何で夜会にまで連れてきたの!」
「貴女が精霊様を離したがらなかった…のもありますが、精霊様もまだ「遊び足りない」ようでしたので。私達神官は精霊様のお願いは極力聞いて差し上げるのが仕事ですしね」
「い、意味が分からないわ!」
確かに、無理やりな理由ですわね。
まぁ、実際彼の存在を此方は知っていましたし、性格があまり良く無いのも知ってましたけどね。
なにせ、彼に精霊とクズインの迎えをお願いしたのは「コチラ」なんですから。
アルス様、実は我が家の血縁者と言うオチですもの。
「うーん、そう言われましても困ります。ただ
貴女に考える力が欠落していただけだとは思うのですが、私が悪いんですかねぇ?」
笑みを崩さないアルス様に、クズインがプルプルと体を振るわせ、怒りを露わにしていますが……。
あら、なんて分かりやすい。
クズインの向かいでは、母親とは対照的に、ニヤニヤと汚らしい笑みを浮かべる小娘の姿。
精霊がララベルと契約していないと分かったとたん、自分にチャンスが来たと考えたのでしょうね。
「やぁだ、ダッサ!お母さま超勘違い?やっぱり貴女はもうヒロインじゃないじゃないの。こんな場所までしゃしゃり出て、ダサいったらないわね」
さっきまでアシェにボロカスに……ゴホンっ、キツくお叱りを受けていらしたのに、元気ですわね。
それにしても、さっきからこの二人、ちょくちょくゲーム用語や前世での言葉を使ってますけど、危機管理全く出来てませんわね。
まぁ、この二人にそこまでの知能を期待するだけ無駄なのでしょうけど。
私ですら、何かあったらと怖くて言葉を選んでますのに…怖い者知らずですわね。
下手をしたら異端者や他国の内通者など、あらぬ疑いを招きかねませんのに。
まぁ、今はこの二人のやり取りが注目されすぎて、単語まで皆様気が回らないみたいですけど。
「ねぇ、精霊さん?あなたが本当に「契約」したかった相手は「私」なんじゃないの?」
予想通りですわね。
小娘は、満面の笑みを見せながら、精霊に手を伸ばしました。
その瞬間。
(これは…この小娘、本当に無自覚ですの?この甘ったるい魔力…以前「散らした」時はアシェの力を介してしか分かりませんでしたけど)
小娘が精霊に手をかざした瞬間、私にも分かる程の甘い香りが彼女を纏いました。
以前学園で彼女の「魅了」を散らした時は、アシェリーの目を借りて初めて私にも見る事ができていましたが、今はあの頃より力が上がっているのか、その甘さが私にも分かるほどになっていますわ。
指輪…アシェリーから貰っていて良かったですわね。
「ねぇ、精霊さん?あなたの「ご主人様」は私。私はこの世界で唯一あなたと契約できる光属性持ちなんだもの」
手をかざしながら、ゆっくりと精霊に近づく小娘。
神官であるアルス様は、小娘の「光属性」と言う言葉に驚いた表情をし、私に視線を向けてきましたわ。
そう言えば…伝えてませんでしたわね。
光属性持ちは確かに珍しいですし、その属性を持つ方は、神殿に登録義務があります。
その義務ですが、ヒロインであるララベルは登録されてましたけど、隠された娘であるフレイは、登録以前に、神殿へ出す全ての届出がされてませんでしたわ。
アルス様経由で調べて頂いた時は、驚きより呆れが上回りましたわよ。
伯爵も頭が大分残念な作りでしたのね。
因みに、何故私が彼女の属性を知っているか…ですけど、ララベルの娘と言う事で、はじめから推測はしてましたの。
まぁ、属性が確実に分かったのは、学園で小娘が無意識に自分に回復魔法をかけていたのが分かったからなのです。
だって、毎日毎日、アシェのストーカーをされてたのですよ?
どこにでも現れるその体力!普通の令嬢ならあり得ない事ですわ。
ですから、私は彼女の魔力の流れを読み、無意識に光魔法を使っていると分かりましたの。
「さ、契約しましょう!」
彼女の行動に固唾を飲む周囲の方々。
その視線を楽しむかのように笑いながら精霊を抱きしめようとする小娘。
その瞬間。
『光属性だから何なのかしら?』