51 愛し子
「好きのマジックを貴方に」。
このゲーム世界において、ヒロインは「主人公」たる最高の能力が存在する。
それは「光の精霊の加護」。
まぁ、よくあるお話ですが、好きマジ内のストーリーエンディングは数パターン存在します。
ノーマルエンド…いわゆる「皆んなお友達エンド」。各個人を恋愛対象として迎える「恋愛エンド」。プレイヤー憧れの「ハーレムエンド」。
そして、最高難易度のエンディング、「精霊の愛し子エンド」。
全ての攻略対象をクリアし、主要イベントを全て攻略。そして、ある一定の条件下でのみ発生する裏攻略をクリアした後に出現する「精霊の扉イベント」。
そのイベントで登場する「精霊」と契約する事でヒロインは「精霊の愛し子」と呼ばれる存在になる。
ラノベとかによくある「聖女」とかと同じ存在と言ったら分かりやすいかしら?
精霊の愛し子になったヒロインは、神殿のトップにつき、このアリストラ国の守り手となる。
絶対権力を持った彼女。その傍らには伴侶となった王太子。そして、側近となった攻略対象者達が控える事になる。
まぁ、その他にも色々とヒロインには美味しいオプションがついてくるのだけど、それがあるとサイドストーリーにも有利になってたりするのよね。
当時、私も楽しくなって色々織り込んで難易度マックスのエンディングを作ったせいで、SNSなどでは、攻略に対し「運営ふざけんな!」とか、「運営頭大丈夫か!」など色々言われたのは良い思い出だわ。
まぁ、私達運営側から、このエンドを攻略者した方に「攻略情報をSNSなどに書き込み禁止」と「おふれ」を出していたのにも要因があったんでしょうけど。
(今思うと…大分無理しましたわね)
そんな事もあり、このエンディングを迎えたプレイヤーは「神プレイヤー」として讃えられていましたっけ。
さて、話は「今」に移りますが、現在目の前にいる「猫形の精霊」。この精霊こそ、マックスエンドに登場する「光りの精霊」なのです。
「なんで…光の精霊がいるの!イベントだって!」
まぁ、気持ちは分かりますわ。
その信じられないモノを見る瞳には、驚きや焦りで思考が纏まらないのがよく見て取れますわね。
自分でさえ出現させる事が出来ていない精霊を、まさか退散したはずの「本来のヒロイン」が出現させてるんですもの。
「あら?この子が「何」かすぐ分かるって言う事は……貴女も「そう」だったのね」
コロコロと鈴を鳴らしたような声で話すララベル。
容赦ないですわね。
今の瞬間で自分の娘も「転生者」だと気付いたのでしょうけど……この物語の主人公は「自分」なのだと態度で主張してますわ。
その見下したような瞳。
顔は軽やかな笑顔ですけど、「娘」を娘とも思っていないみたいですわね。
流石クズインですわ。
「ふふふっ、皆様驚きまして?」
楽しそうに声をあげるクズインに、小娘は悔しそうに睨みつける。
自分が成り変わるつもりの物語に、本来のヒロインが登場した挙句、難易度マックである「精霊の扉イベント」の精霊を連れている。
あのゲームを知る彼女なら、この事態がどういったものかよく分かっているのではないかしら。
「お、お母さま…何故屋敷にいた貴女が「それ」をつれているの!」
なりふりかまわず、声を張り上げる小娘。
まぁ、そうなりますわよね…貴女の性格なら。
少しため息をつき、チラリとラファエロ伯爵を見ると、言葉を発する事も出来ないみたい。
そして、シンと静まり返る大広間は、話の行方を皆様が固唾を飲んで見ていらっしゃいますわね。
この国には「精霊の加護」の伝承がずっと語り継がれている。
精霊との契約は「国」にとって一大事。
だからこそ、伯母様が精霊であるリンファと契約した時は大騒ぎだったと聞いていますわ。
「先日ぅ~、屋敷でこの子が目の前に「急に」現れたの。その時からずっと一緒だから「多分」契約できたんじゃないかなぁ?って」
「契約」と言う言葉に「一部」の人間を除き一気に騒つく。
「ララベル、ララベル!まさかお前「愛し子」なのか?」
あら、ラファエロ伯爵が覚醒しましたわ。
覚醒と同時に頭がフル回転したみたいですわ。
どう見ても「光の精霊」だと分かりますし、精霊の愛し子となれば、地位や名誉、全てが約束されますから。
「たぶん~、そうなのかしら?ふふっ。因みにこの子「光の精霊」ですわよ?」
いや、分かる人が見たら光の精霊ってすぐ分かるし。
何でしょう、自慢?
それにしても、この女の話し方イライラしますわ!
猫を被っている時の小娘そっくりね!
「おぉ、なんと素晴らしい!これは「陛下」に報告せねば!私の「娘」が愛し子になったなんて!」
はぁ、壊れてしまいましたわ。
冷静さは何処かに捨てられたみたいね。「娘」の部分を強調して声高々に言われるなんて。
本当に…………陛下が喜びそうだわ。
「お、義父……お祖父様!お母様は罪人ですわ!いくら愛し子とは言え……そ、そうだ!私がその精霊と契約します!だって、私はアシェリー様と懇意にしてるし、陛下だって罪人が愛し子より私の方が契約者として望ましいと思ってくださるはずだわ!」
焦りながら祖父に懇願する小娘に、何故か周りから冷ややかな視線が刺さる。
精霊は基本自分が気に入った人物としか契約しない。
つまり、小娘の発言は精霊に対する侮辱になるのだ。
「私こそ、私こそが愛し子に相応しいの!だって、全部攻略したもの!アシェリー様だって私を好きになったわ!私の物語よ!ララベルは「ざまぁ」されて断罪されたんだから舞台には上がれないわ!」
醜いわね。
余裕がなくなった「フレア」は発狂したように叫ぶと、自分の母親に詰め寄ろうと動いた。
「あらん、だって、私は「ヒロイン」だもの。これは私のための物語よ?何故あなたが主人公になれるの?好きマジに「アナタ」は「居ない」でしょ?」
ニヤリと笑い、自分の娘を挑発するクズイン。
どっちもどっち…ですわね。
本当、なんて醜いのかしら。