5秘密のお茶会②
「で?その娘も転生者なのかしらね?」
冷めかけのお茶を口にしながら、叔母様が盛大な溜息をつかれました。
「多分、そうではないかと思いますが、まだはっきりとは断定出来ませんわね。母親から知識を得た可能性もありますし」
そう、彼女はゲーム用語を口にしただけ。
実際に転生者だと行動で示したわけではない。
「でも、その娘の目的は「ウチの息子」なんでしょ?」
「はい、よくお調べで」
「まぁね、それくらいの情報はすぐ入るわよ」
その瞬間、叔母様は不敵な笑みを私に向けられました。
あ、嫌な予感。
「いっそ、貰ってくれないかしら?貴女が」
「はい?」
「アシェリーの事貰ってくれない?フィオなら陛下だって喜んで承諾してくださると思うわ?」
やっぱりですか。
従兄弟ですからね、確かに婚姻は可能ですが、無理。
「既に私は婚約者がおりますので」
「解消しちゃえば?」
「貴族同士の婚約がどれほどのものかお分かりですよね?それに、アシェの事は知りすぎていてそう言う感情が持てませんし、国母など私には無理です」
まったく、確かにあんなクズ男ですが、家同士で交わされた約束を、私の我儘でどうにか出来るものではない事くらいご存じでしょうに。
「えー、優良物件よ?要らない?」
「要りません!と言うか、アシェは物ではないので要る要らないは失礼ですわ」
叔母様、子供みたいに頬を膨らませたって、ダメなものはダメですからね。
「でも、貴女の婚約者、あの娘に真実の愛とか抜かしたらしいじゃない。私の可愛い姪にあのクズ男は」
「確かにクズ男で間違いありませんが、あれでも昔はまともだったのです。気長に待って調教する他ありませんね」
「調教…するの?」
その瞬間、叔母様のお顔がものすごく引き攣りました。
あら?私何か変な事申しましたかしら?
*****
「来ましたわ」
王妃様とのお茶会が終了し、私はその足でアシェの執務室に参りました。
王妃様と同じく、趣味の良いお部屋。
扉を開けた室内には、書類の山と格闘する従兄弟殿の姿がありました。
普段でしたら、いくら王妃の姪と言えど、この部屋に入る事など出来ません。
ですが、今日はこの部屋の主人直々に招待してくださいましたの。
「母上との時間は楽しめたか?フィオの事は昔から自分の娘みたいに可愛がってるからな」
多分、それは同じ転生者だからだと思いますが。
アシェは知らない事なので黙っておきましょう。
それにしても、さっきから此方を凝視する目が恐ろしいですわね。
「兄様、怖いですわ」
実は、この部屋にはアシェともう一人、背の高い美男子がいらっしゃいますの。
アシェの側近にして、私の実の兄であるマルク兄様ですわ。
長い髪を三つ編みにして、肩から前に流すいつもの髪型に、濃紺の近侍服を着られた、まさに生きたお人形です。
お母様譲りの美貌は伊達ではございませんわ。
「兄様、眉間のシワ…、そんなに深いと元に戻らなくなりましてよ?」
本当、過保護なんですから。
アシェと私が何もないのはよく知ってらっしゃいますでしょうに。
お持ちの木製ファイルが、先ほどからミシミシ鳴ってますが…割れそうですわよ?兄様。
「フィオ!こんな野獣の所に一人で来るなんて!食べてくれと言わんばかりだぞ!」
「あら兄様。私がそう簡単に食べられるとお思いですの?それに、アシェにそんな勇気はありませんわ。優しすぎますから」
そう、優しすぎて「あの」小娘一人あしらえないヘタレですわ。
「フィオ…私をずいぶん信頼してるんだな」
「は?違いますわ。ヘタレだから無理と申しました」
「へっ、ヘタレだと」
「はい、何か間違えております?だから私に毎度魔石を渡す羽目になるのでは?」
「つっ!」
ぐうの音もでませんでしょ?
貴方が私に口で勝とうなど、無理に決まってますのよ。
さて、まぁいいですわ。
そんな事より「もらう物」を貰ってさっさと帰りましょう。
私自身、研究中の魔法が残ってますし。
本当に、こんなところは似てますのよね、私達。
アシェも研究進んでるかしら?今度研究室に入れてもらわなくては。
執務机でショックに打ちひしがれる彼ですが、無視しましょう。
あ、誤って山積みの書類を雪崩させましたわね。
あ、お兄様のご機嫌が………。
「まぁ………いい。フィオ、約束の魔石だ」
そんな兄様の視線にビクつきながら、ガタリと机の引き出しを開けるヘタレ…ではなく、アシェ。
両手に収まるくらいの大きさの袋を、ヨロヨロと私に差し出してきました。
中には、ここ数日取引した分の魔石が多数。
「流石、きちんと魔石同士が干渉しないように封印布を巻いてますわね」
「常識だろ?」
「あら、それが分からず、私の婚約者様は授業で魔石を一纏めに袋に入れて爆破させたらしいですわ」
爆破の言葉に、隣の兄様も驚かれました。
「は?いくらなんでも…」
「あら兄様、あの方に一般常識が全て通じると思ったら大間違いですわ」
「クズ男が」
「否定はしませんわ」
はぁ、本当に。
婚約者様がお兄様みたいな方だったらどんなに良かったか。
使えないどころの話しではごさいませんわ。
本当に、いずれはどうにかしないといけませんわね。