48 鈍いと言われましたわ!
「カトレア、ララミー、おかしな所はないかしら?」
姿見鏡の前、クルリと回りながら自分の姿を確認する私。
高めに結われた髪に、私の瞳と同色のサファイアが嵌められたティアラ。
耳にはセットのピアスが揺れ、首にはサファイアとオニキスが使われた金のチェーンの細身ネックレス。
ドレスは、デコルテを美しくレースが隠す派手すぎない上品な薄紫のマーメイドタイプ。裾に向かいながら白から薄紫にグラデーションがかかっている。
「裾に向けてのグラデーションが素敵ね?それにしても、このドレスの送り人は誰なのかしら?届いたのは昨日?」
今日は王城で開催される、一月に一度の定例の夜会。
国の経済を担う王侯貴族と商人が集まり、繋がりを広げる会。
因みに、私は事業もしている関係で、家とは関係なく個人での参加となっています。
「此方のドレスとお飾りは、昨日王城より届いたものですわ。送り人は「国王陛下」でございます」
………は?
ちょっ、ちょっと!何で陛下?
「この度の「例の件」のお礼と詫びのにとの事ですが……」
あぁ、お花畑の…って、ん?
カトレアさん?
顔カオかお!
「カトレア、何か他にもあるんですの?貴女、顔がもの凄い事になってますわよ?貴女らしくない」
普段、感情をあまり外に出さない彼女が、隠しもせず鬼の様に不機嫌な表情に。
「お嬢様…本当に分からないんですかぁ?」
「え?ララミーはカトレアの「コレ」分かるの?」
「うーん、いえ、お嬢様が分からないのでしたら私からは申せません」
テヘペロな表情を作りはぐらかすララミー。
ちょっとイラっとしますわね。
何なんですの?まぁ、教えてもらえないなら聞いても無駄でしょうけど。
「でも、陛下も物好きね。私の瞳と髪は分かるけど、それに「王家」の色を入れるなんて。王妃様とのご縁があるからかしら」
伯母様もだし、お父様も王家の血筋だし…まぁ、あり得なくは…ないのかしら?
「………お嬢様」
「……まぁ、お嬢様ですし」
二人してもの凄い残念な子を見る目ですわ。
「何なんです?ハッキリおっしゃいな」
数刻後、王城の馬車停めに着いたものの、私の表情は冴えないものでした。
支度が終わり、出発前屋敷のエントランスで待つ私の前に「たまたま」お父様が通りかかったのですが…私の姿を見るや、カトレア再来ともいう様に鬼の形相に早変わり。
理由を聞いても教えてもらえず、ただ「フィオが悪いわけではないよ」と言いながら、「あのクソ野郎」だの「腹黒大魔王が」など、多分内容的に陛下の事なのでしょうが、私が出発するまで毒を吐かれてらっしゃいました。
「解せませんわ…しかも、出発前「フィオはそのままでいてね」って、お父様を「回収」しにきたお母様に言われましたし…意味が分かりませんわ」
「まぁ、父上と母上の言う事は分からないでもないですが…はぁ」
馬車の中、今日私のエスコート役で一緒に登城した弟のヘンリーから呆れた声色で返事が返ってきました。
「どう言う事ですの?」
「ま、姉様そういう事には鈍いから…本当、報われないなぁ」
全くもって解せませんわ!
「あ、ほら、降りますよ?」
「……むぅ」
結局、皆んなしてなんなのかしら、鈍い?私が?
それに「報われない」って私の事?
むっとした顔をしながら、ヘンリーの手を取り馬車を降りる私。
そんな私に、ヘンリーは「気にしないで」と一言言いますが、悶々とするのは仕方ないですわよね?
「まぁ、いいですわ」
馬車を降りると、いつもと同じ「侯爵令嬢の仮面」を身につける。
そして、目の前に聳え立つ王城を見上げ、薄く笑みを向けました。
「さて、では参りましょうか」