47 彼女との出会い
さて、いきなりですが、先日家族との別邸ピクニックの日に時は戻りますわ。
ちょっとお話が前後してしまい読み手の皆様にはご迷惑をおかけ致します。
苦情は作者にでも…いえ、あ、何でもありませんわ。
別邸奥の草原地帯。
「………兄様、少しよろしいかしら?」
現在、私は兄様に誘われて二人きりで乗馬中ですの。
高い位置で吹き抜ける風が気持ちいいですわね。
因みに他の家族ですが、弟はお父様と敷地内の小川で釣り。そしてお母様は侍女達と屋敷内で女子会中ですわ。
「フィオも気付いたか」
そんな中、私は「ある気配」を感じ、隣をゆっくり並走する兄様に口を開きました。
「はい……でも、とても微弱ですわ」
何かを察し、探るように辺りを見回す兄様。
兄様は私よりも魔力感知に秀でていますから、きっと私よりハッキリと「コレ」を感じていらっしゃるでしょうね。
「………どこ、でしょうか?大分魔力の揺らぎがあるみたいですが」
「あぁ、大分弱いな。力の流れ的には奥の森だろうが」
兄様が向けた視線の先……。
確かに凄く弱いですが、あちらから魔力の流れがありますわね。
「フィオ、あそこは馬を連れては行けない。とりあえず降りてから歩くぞ?」
「それは…かまいませんが、先にお父様達に報告はよろしいのですか?兄様らしくないですわね」
いつも先を考えながら動かれる兄様らしくないですわね。
この魔力の主はそこまで厄介なお相手なのかしら。
「この部類」の魔力感知が苦手な私ではハッキリ分からないのが悔しいですわね。
「馬は先に帰らす。一筆書いて手綱に付けておくから、父上達も気付いてくださるだろう」
まぁ、我が家の馬は特別な子達ばかりですからね。主人がいなくても家に帰るのなんて朝飯前ですわ。
一応、兄様がお父様達に一筆書いてくださってますし、問題ないかしら?
「さて、事情は書いた。フィオ?森に向かうぞ」
私達は馬に手紙を託すと、その足で奥の森に向かいました。
愛馬達は、二匹でお利口に屋敷に向かいましたわ。
それにしても、本当、パンツスタイルの乗馬服を着ていて良かったですわ。
極端な例えですが、ワンピースやドレスで森に入るのは邪魔でしかありませんもの。
治安がいい土地とは言え、魔物や獣がいないとは言い切れませんしね。動きやすい装いが一番ですわ。
「兄様、そう言えばこの森、奥に小さな泉がありましたわよね?確か…たまに「扉」が出現する場所ではなかったかしら?」
「確かに「精霊の扉」が現れる泉がこの奥のはずだ。フィオ、よく覚えていたな」
精霊の扉は、簡単に言うと精霊のみが使うワープゾーンですわ。
この世界の精霊達は、長い距離を移動する場合この扉を使うのですが、扉の出現場所は固定されているのです。
そして、その扉が我が家の別邸が建つこの土地にあるのですわ。
初めてあの場所で扉が開くのを見たのは、幼い頃一度だけですけど、あの不思議な光景は今でもはっきり覚えていますわね。
そう言えば、あの時は迷子になって偶然見つけたんでしたっけ。
はぁ…それから、後から皆んなに物凄く怒られたのでしたわね。
ちょっと、そこらへんは忘れましょう。
あの時のお母様は思い出したくないですわ…二、三日寝込みそうですもの。
「魔力の流れ的に、やはりあの場所だと思いますが…」
「そうだな。流れる魔力も濃くなってきたし、間違いないだろう」
道なき道を枝や葉などをかき分けながら進む私達。
さっきから色々引っかかって大変ですが、まぁ、普段手付かずな場所だけに仕方ないですわね。
あ~、兄様の頭に色々ついていて美しいお髪がとても残念な事になってますわ。
小枝に葉っぱに…アレは………何かしら?(私は早々に風の結界をはっていて良かったですわ~笑)
「フィオ、余計な事を考えていないか?」
「え?ナンノコトデスカ?」
「はぁ…………まったく。ほら、着いたぞ」
全身に着いた草木を払いながら、こちらを向いた兄様。
物凄く呆れた表情を向けてこられましたが、小枝、頭にまだ刺さってますわよ?笑
「ぷっ……いえ、ゴホン、やっと着きましたわね」
木々が開けた場所に現れた小さな泉。
記憶の中のあの場所ですわ。
「兄様……あれって」
キラキラと太陽の光を反射させる水面。
そこに浮くような形で、水晶で出来たような透明な小さな扉が浮いています。
「精霊の扉…ですわよね?」
「ああ、だが閉まっているな…。もう使われた後かもしれないな」
「兄様、ではこの魔力は扉を使った精霊のものでしょうか?」
辺りに漂う魔力。
この場所に着くと、より強くなりましたわね。
やはりここから流れてきていたみたいですわ。
「だが、何もいないが……っ、ちょっと待て」
確かに視認はできませんが、兄様、何か気付かれたみたいですわね。
本当に、精霊に関しては魔力感知がまったくのポンコツな私の能力が恨めしいですわ。
目を細め、泉の辺りを真っ直ぐ見据える兄様。
そして、何かを確信し、足早に泉へと向かわれました。
「彼……じゃない、毛色が違うな」
何もない空間に手を差し伸べる兄様。
すると「何か」を抱き上げるような仕草をなさいました。
その瞬間、兄様の腕の中で淡い光が弾け、それと同時に一匹の……。
「……猫型の精霊ですか?」
兄様の腕の中には、真っ白な猫型の精霊の姿。
「眠ってますの?……まったく動きませんわ…と言うか」
この精霊の姿。
叔母様の契約精霊である、闇の精霊「リンファ」にそっくりですわ。