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40 さあ、開演のお時間です。

「待ってたわ!フィオラさま!」

「あら、こんなところに汚物を置いた方はどなたかしら?」


 朝一番の校舎前。


 私は目の前に立つ人物へと、嫌味ったらしく口を開きました。

 扇で口元を隠し、蔑む視線を向けるというオプション付きですわ。


「………は?、汚物ですって?」


 あまりに大きな声を出すから、ほら、周りにいた皆様の視線が一気に私達へと注がれましわ。


 目の前には「フレア・ラファエロ伯爵令嬢」。

 ここ最近私の前に毎朝突撃してくる小娘ですわ。私からの予期せぬ発言に、表情を歪め、もの凄く残念なお顔をされてますわね。


 あらあら……やはり残念なオツムの小娘には、残念な反応しか返せないみたいですわ。


「そう言いましたが、ご理解できませんでしたの?」


 本当に、おかしすぎて笑いが出ますわ。

 鏡、見せて差し上げた方が良いかしら。


「それとも聞こえませんでしたか?ラファエロさん。貴女の事ですわよ?お耳が悪いのかしら。それとも貴女の頭の中は、そのお髪同様ピンク色のお花畑なの?」


 閉じた扇を突き出し、見下したように微笑む私。

 そんな私に、小娘の顔がどんどん赤く染まってゆきます。


「なっ、何なのよアンタ!誰の頭ん中が花畑ですって!」

「あら、ご自覚がございませんの?……やはりお花畑が広がってらっしゃるのね?一度お医者様に診て頂いた方がよいのではなくて?」


「………つっ!アンタ!」


 あら?

 少し…煽りすぎたかしら?

 顔を赤めたままプルプルと体をふるわせてますわ。


「アンタ何様のつもりよ!」


 はぁ、やはりお馬鹿な小娘ですわね。

 怒りを露わにし、私に手を出してきましたわ。


 でも残念。


 ーパンッ!ー


「いった!」

「ごめん遊ばせ?」


 私は、伸びて来た手を扇で払いつつ、そのまま上からはたき落としました。

 はぁ、何て野蛮で単純な方なんでしょう。



 本当に……期待通りですわ。



「まったく、侯爵令嬢である私に手を出すなんて……頭がおかしいのではなくて?……あぁ、忘れてましたわ。お花畑が広がっているのでしたわね。失礼しましたわ」


 赤く腫れた手を庇い、私を睨みつける小娘。

 ですが、その瞬間ピタリと動きを止めました。



『ス…が………った』



 そして、何かを呟くと、ガラリと一気に表情を変え、その場にしゃがみこみました。


「ひっ酷いです、フィオラ様!私が何をしたんですかぁ」


 本当に、ある意味才能ですわね。


 ご自分の可愛さを存分にアピールされながら、庇護欲をそそられる表情で私を見上げてきましたわ。

 その目には溢れ落ちるギリギリの涙が溜まっています。


「私は身の危険を感じたので、動いたまでですわ」


 満面の笑みを作る私に、一瞬表情を歪めるものの、小娘は自身の両手で顔を覆うと、シクシクと泣き始めました。

 ……本当に、何て演技派なのかしら。このまま劇団に就職された方が幸せになれるのではなくて?


 まぁ、それはさておき……。


 泣きじゃくる小娘を見下ろしながら、口角を上げる私。


「フィオラ!貴様何をしている!」


 やっと登校して来ましたわね。


「あら?おはようございます「皆様」」


 まったく、朝から皆様仲良しですコト。

 私の婚約者であるユリウス様含め、小娘親衛隊のポンコツ三人組ですわ。


 本当、皆様ご苦労様な事ですわね。


 ユリウス様は小娘の状態を見るや、一目散に駆け出し、彼女の側に膝をつきながら手を差し伸べておりますわ。そして、残りの皆様もそれに合わすように駆け出し、小娘を気遣っておいでです。


「ふ、フィオラさまに手を叩かれて…私、何もしてないのに……酷いです」


 涙を一筋流し、赤くなった手を見せながら三バカにアピール。

 腫れはそろそろ引くでしょうし、そこまで強くは叩いてませんが、小娘にとってはいい材料になったみたいですわね。


 彼女の言葉に、一瞬にして、睨みながら私に視線を向ける三バカ。

 その反応に、彼らの後では小娘の口が薄く笑っていますわ。


「フィオラ、貴様!よくもこんな真似を!」

「ドロッセル嬢、これは酷いと思いますが?」

「ドロッセル嬢!僕見損ないました!」


 皆様好き勝手ですわね。

 まぁ、此方としては「手間が省けて」いいのですが。


「あら、皆様何を仰ってるのか分かりかねますわ。私は当然の事をしたまでですのに。それに、爵位が上である私に無礼を働いたのはこの「小娘」ですわよ?」


 思い切り蔑むような視線を皆様に差し上げますわ。

 ついでに、お母様直伝の「人も殺れる微笑み」を追加しておきますね?


「「「「…………!」」」」


 あらあら、楽しいですわね。皆様の表情が一気に凍りつかれましたわ。


「……まったく、無駄な時間でしたわ。貴方方のお相手をしている暇はありませんの。早く教室に行きたいので失礼しますわね」


 未だ動かない四人を無視し、私はそのまま校舎へ。


 これで少しは「噂」が広まるかしら?

 ……これだけアピールしたんですもの。おしゃべり雀さん達に期待ですわね。


 さて、「好きのマジックを貴方に」の開幕ですわ。

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