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30 フリード・カジラエル侯爵子息の事情

 えっと、自己紹介しますね。


 僕はフリード・カジラエルと言います。

 カジラエル侯爵家の長男です。

 栗色の髪に、黄色の瞳をしています。

 皆様からは、よく歳を実年齢より下にみられるのが悩みですね。

 兄弟は下に弟が一人と、妹が一人います。


 僕の家は代々王宮魔法師団に勤めています。

 現魔法師団の団長は、僕の父です。

 父上は、カジラエル家の当主もしていまして、いずれは、僕がその地位を頂く予定になっています。




*****




 はぁ……今日も「彼女」とご一緒できて幸せでした。

 僕の「女神」。

 彼女の事を思うと、胸がいっぱいになります。


「早く君を僕のモノにしたいなぁ」




 僕は学園から帰宅すると同時に、自室で急いで着替えると、ある場所を目指しました。


 自宅である本邸から少し歩いた場所にある別邸。

 と言っても、屋敷ではなく「塔」なんですけどね。

 僕は、その塔の入り口に着くと、いつものように扉に手をかざしました。


 この塔には魔法錠がかけられています。

 しかも、カジラエル家の人間にしか開けられない仕組みになっているのです。


 指先から魔力の線を紡ぎ、立体魔法陣を描くと、ドアノブから「カシャン」と、音が鳴りました。

 そして、自動で開く扉。


 僕はニヤける顔を正しながら、塔へと入りました。


 いつもながらカビ臭さと、埃っぽい場所。

 でも僕は気にしない………ここには「アレ」が居ますからね。


 何段か階段を登ると、僕は「ある部屋」の前で立ち止まりました。

 何重にも魔法錠が掛けられた特別な部屋。

その錠を全て開けると、僕はゆっくりと部屋に足を踏み入れました。


「お久しぶりですね、叔父上」


 部屋の中は、かなりの広さがあります。

ただ、僕が入れるのはその半分までです。

 何故かと言うと、部屋は真っ二つ分けられ、奥半分は鉄格子で仕切られているのです。


 僕は、その鉄格子の中にいる、やせ細った人物に満面の笑みを見せました。


「………フリード」


 魔力を吸収する魔法陣の上、中にいる人物は虚な表情でボソリと声を発しました。


 相変わらず汚いなぁ………それに。


「フリード「様」でしょ?叔父上。また躾をされたいのですか?」


 口角を上げ蔑むと、目の前の「犬」は、顔色を変え部屋の角まで逃げていきました。

 全く、犬の分際で呼び捨てなど、反吐が出る。


「もっ、申し訳ありません、フリードさま」


 あぁ、説明しますね。


 僕の目の前にいるこの男は、僕の「叔父上」。

 本来なら、カジラエル家の当主になるはずだった男です。

 ある理由から、叔父は廃嫡されこの「塔」に囚われています。


 この塔は、中に囚えた者から魔力を吸い上げ貯める機能を持っています。そして、その魔力は僕の家の「魔法研究」に使われているのです。

 今この塔には五人の「囚われ人」が住んでいます。

 いずれも、カジラエル家出身で、この家に「要らない」と判断された者達ばかりです。


「さて、叔父上。僕が貴方に会いに来た理由はお分かりですよね」


 満面の笑みで叔父上を見ると、彼はビクつきながら頷きました。

 そして、手をかざしある魔法を実行。


 一瞬部屋の中を眩い光が充します。

 そして、それが収まると、部屋の中には「ある映像」が映る球体が幾つも浮いていました。


「あぁ、相変わらず美しいな」


 これは叔父上の「ギフト」。

 「記憶の泉」と呼ばれる、過去の自分の記憶を他者に見せる事ができるギフトです。


 球体に映る映像は、叔父上の過去。

 僕は、それを恍惚な表情で見つめました。


 映像は、叔父上が学園にいた時代の記憶。

 そこには「ある女性」が、満面の笑みで笑っています。


 ララベル・ラファエロ嬢。


 ラファエロ伯爵家の長女だった方。

 昔、たまたま叔父上が彼女の映像を観ていた場面に僕は出会し、その瞬間、衝撃が走りました。

 僕は、一瞬にして彼女に恋をしたのです。

 ピンクゴールドの髪をなびかせ、優しく笑うその顔は「女神」のように美しい。


 本当、学園で「彼女」に会った時は、何の奇跡だと思いましたよ。


 フレア・ラファエロ嬢。


「女神」に似た容姿をした、笑顔溢れる彼女。

 同じラファエロ家、本家の遠縁との話でしたが、きっと「女神」に近しい遺伝子の持ち主なんでしょうね。あの髪に瞳……本当に、奇跡のようにそっくりなんですから。


「はぁ、美しいな………ララベル嬢、フレア嬢。なんて罪なんだ。二人ともここまで僕を虜にして……本当に、イケナイ方々だ」



 あれ?叔父上の表情が変わったね。



「ふ…フレア嬢?」


 震えながら聞いてきた叔父上に、僕は満面の笑みを見せた。

 そう言えば、叔父上の前でフレア嬢の話をしたのは初めてでしたね。


 僕は、叔父上と同じギフトで、この部屋に映る映像を上書きしました。

 実はこのギフト、僕も所有しているんです。


 今日のフレア嬢も可愛かったな…と思いながら、叔父上に映像を見せます。


「あぁ…あ、あ、ら、ララベル!」


 やはり叔父上も同じ反応か。

 僕すら驚いたんだ。ララベル嬢と直接面識のあった彼が驚かない訳がない。


「叔父上、僕は彼女を「妻」に迎えようと思っているのですよ。まぁ、叔父上には関係ない話ですがね…クスリ」


 叔父上に顔を向け、見下しながら満面の笑みを作ると、叔父上の表情からどんどん色が抜けていく。


「羨ましいですか?自分が手に出来なかった「女神」を貴方が大っ嫌いな僕に持っていかれるのは」


 今の半分狂った叔父上には、ララベル嬢とフレア嬢の区別はほぼついていないだろう。

 だが、そんな事はどうでもいい。


「ララベル!ララベル!ララベル!」


 ガシャガシャと音を立てて鉄格子を揺さぶる叔父上。

 五月蝿い犬だ。

 ララベル嬢を手に入れそこない、この塔に囚われたのはアンタの自業自得でしょうに。


「いずれ、僕が彼女を妻に迎えた時は、ちゃんと紹介してさしあげますからね?叔父上」


 僕は悪魔の様な笑みで、叔父上に微笑んだ。

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