22 本当に幸せを呼ぶとでも?
「ご機嫌よう、ミリエル」
カランコロンと、ベルが小気味良い音をたてると同時に開かれる扉。
ご機嫌よう、フィオラでごさいます。
本日は、侍女のララミーと一緒に、私がオーナーを務める魔道具屋「マルルーン魔法堂」に来ています。
「あ、フィオラ様!」
私が声を掛けると同時に、この店の店主である、兎獣人のミリエルが嬉しそうに破顔しました。
相変わらずの、真っ白なもふもふお耳に、大きくてキュートな赤い瞳。「可愛い」を体現したような彼女に、もふりたい欲が半端ないですわ。
「いかがされましたか?」
コテンっと、小首を傾げ、不思議そうに私を見る彼女に、思わず手が出そうになりました。
あ、後からララミーのトゲトゲしい視線が刺さりましたわ。
流石、私の専属侍女。
私の好みは完璧把握済ですわね。
「あ、あぁ、いえ。何でもなくてよ。それより、商いは順調かしら?立て直しから一年半だけど、最近は中々顔を出せずにごめんなさいね」
苦笑混じりにそう言うと、ミリエルは、その可愛らしいお顔を、取れそうな程左右にぶんぶん。
「めっそうもございません!フィオラ様がお忙しいのは十分存じております!それに、ご多忙の中、新しい魔道具を定期的に送って頂き、本当に感謝しきれません!」
あー、可愛い!
何ですの、この超絶可愛い生き物は!
是非飼いたいですわ!愛でたいですわ!
は!
「フィオラ様ぁ、お顔が激ヤバになってますわよ?」
後で、微かな魔力の流れが…。
いつもは、ぽやぽやのくせに、こういう所はカトレアと同じなんですから。
自分だって、彼女の可愛さに内心「お持ち帰りしたい」と思っているくせに…。
まぁ、ララミーの場合は、冗談ではなく本気で愛玩にしそうですけど。
「ゴホン、失礼。ミリエル、そんなにお顔を振ると、取れてしまいましてよ?それより、最近の報告で気になる事があったのだけど…。今日私が来たのも、ソレについて直接聞きたくて来たの」
経営難で、明日にも閉店しそうだったこの店に来たのは約一年半前。
店主のミリエルとも、その時からのお付き合い。
始めは、「好きマジ」のキーアイテムである、「笑う門には福来る」を確認するために、店に立ち寄ったのが始まり。
あれは、この世界に一つしか存在しないように、ゲーム内で設定されたアイテム。
つまり、クズインが購入していた場合、現在では絶対に手に入らない代物と言う事です。
あの頃は、まさかクズインの娘が出て来るとは、思いもしませんでしたが、結果、先にこの店に来ていて大正解でしたわ。
初めて生で「ゴル熊」を見た時の感動はなかったですわ。
趣味全開で「考えた」アイテムが本当に実在しているんだもの。
ブサカワ最高ですわ。
あ、………話が逸れましたわね。
それにしても、今思えば、キーアイテムをクズインが購入し、当時の王太子殿下だったアズラエル様に渡していた場合、歴史は本当にゲーム通りになっていたのかしら。
なにせ、ヒロインは頭に花が咲きほこった◯ッチ。
陛下は、ヒロインに出会う前から、既に悪役令嬢だった叔母様をかなり溺愛。
叔母様の話を聞く限り、陛下は叔母様を鎖に繋いででも離す気はなかったような………恐ろしい方みたいですし。
実際、やはりこの世界は、ただゲームに「酷似した」だけの世界のなのだと思いますわ。
皆感情を持ち、各々生活し、生きているのだから。
という事で、当時この店に来て私は、直ぐに「ゴル熊」をお買い上げ。
今では私の研究室の目立つ所に飾られています。
侍女やメイド達から不評なのが解せませんが。
あんなに可愛らしいのに。
そして、私は「これも縁!」と、傾いたこの店を買い取り、私の付与した魔道具を販売し、貴族層のお客様を増やし、見事繁盛店に変えましたの。
そのついでに「ゴル熊」を新しくリニューアル。
ミリエルや侍女達から意見を取り入れ、なんとも可愛らしいクマになりましたわ。
「気になる…とは?売り上げは順調ですし、困った問題は起きてませんが」
「帳簿に不備があった等ではないの。私が気になったのは、「アレ」が売れたんですって?」
そう、先日邸に届けられた帳簿の、売れた商品欄にあった「アノ」名前。
「あ!「笑う門には福来る」ですね!はい、私もビックリしました。まさか、あの商品をご存知の方がいるとは思いませんでした。フィオラ様にリニューアルして頂いたおかげですかね?でも、なんだか、あのお客様……ちょっと複雑そうに購入されてました」
ふむ。
やはり…あの娘かしらね。
「お客様はどんな方でしたか?」
「えーっと、とても目立つピンクブロンドのお髪の可愛らしい方と、あれは…アレクシス家のご長男様だと思います。以前商業ギルドの会合で拝見したので、間違いないかと。お支払いは、即金で頂きました。あんなにお高い品を即金ですよ!流石アレクシス家の方ですよね!」
やっぱりですか。
あのクマ、見た目は可愛い感じにしましたが、付与魔法は、一級品。
魔除けなど、これでもかと私が付与しましたからね。
その分かなり高額商品になってしまいましたが。
元の「ゴル熊」もゲーム内でも、キーアイテムとしてではなく、裏設定でちゃんと持ち主にチート級の加護を与えれるように、作っていましたもの。
いくら作り直したとは言え、手は抜けませんでしたわ。
それにしても……困った小娘ですこと。
まぁ、いいですわ。
あのクマをアシェに渡すつもりでしょうが、無意味ですしね。
本当、相手が悪かったですわね。
どうあがいても、「運営」だった私に勝てるはずありませんのに。
あ、皆様、叔母様はこの事をご存知ないので、ご内密にお願いしますね?クスっ。