11 脳内会議
卑怯も何もありませんでしょうにね。
私は屋敷に戻るなり、疲れたようにソファーに項垂れました。
フカフカのソファーに体を沈め、先程街で起きた珍事を思い出しております。
あのお花畑どもは、何処に行ってもはた迷惑極まり無い方々ですわね。
まぁ、クズ男は元々あのような性格でしたから、まだ私も耐性がありましたけど、小娘は本当に疲れますわ。
あの思考に、あの喋り方。
もう、転生者でほぼ確定ですわね。
母親から色々聞かされた可能性もありますが、あの娘の行動や言葉を考えると、転生者で間違いないと思いますわ。
どこのぶりっ子ですか…本当に。
あー!気持ち悪い!
「お嬢様、お茶でございます」
「ありがとう」
力なく項垂れる私に、カトレアが温かい紅茶を入れてくれました。
今日はストレス発散だと言わんばかりに、お買い物をしてしまいました。
魔導書数十冊に、服に靴、鞄にアクセサリー。
勿論、そのお代は全て私の稼いだお金です。
自分が自由に使う金は、自分で稼ぎませんと。
私は魔法研究者を長年していますからね。一応、国の研究機関にも所属しています。
あぁ、因みに、アシェも王太子ながら所属しておりますわ。
「お嬢様、魔導書はどちらに置いたらよろしいですか?」
「全て私の研究室にお願い……あ、待って?光の魔導書は見たいから、それはいいわ」
隣室のクローゼットでは、別の侍女が今日買った品々を仕舞っているところです。
街で購入した品々が先程全て屋敷に届いたみたいですね。
貴族の買い物は、基本配達です。
店であれこれ選び、支払いをして、後から届けて頂くシステムになっています。
まぁ、大量に買った場合、持っては帰れませんし、良いシステムだと思いますわ。
それにしても。
どうしたものでしょう。
あのピンクと阿呆は。
とりあえず、今日までの事を踏まえて、分かった事がありますわね。
まぁ、半分は「カン」ですが、多分間違いないでしょう。
まず、ピンクの小娘。
あれは私と同じ「転生者」ね。
そして、「好きマジ」のヒロインである、ララベルの娘。
あの小娘は、自分の代で「好きマジ」の世界を再現するつもりではないかしら。
つまり、好きマジの「悪役令嬢」の姪である私を、自称ヒロインである自分の当て馬として据えたい…と。
私を悪役令嬢にですか………ご苦労な事ですわね。
身の程知らずの小娘が。
まぁ、好きになさるとよろしいわ。
あの小娘の感じからして、課金勢だったのでしょうが、「相手」が悪かったですわね。
そして、我が婚約サマ。
何故あんなにクズ男なのかしら。
と言うか、あの男の家と小娘の家は、とことん我がドロッセル家を巻き込みますわね。
叔母様の代でやらかした挙句、今度は私ですからね。
しかも、あのクズ男、小娘を第二夫人にするつもりみたいですわね。
影で動かしたカトレアからの報告を見た時は、呆れて物が言えませんでしたわ。
私を手放すのは惜しいと考えた結果もあるみたいですわね。
確かに、私はお父様より、幼少期から色々とご教授頂いてますし、魔法研究機関にも所属してますわ。
個人資産もかなりの額を持っています。
あの頭の悪いクズ男は、私を自分の傀儡にしたいようですわね。
浅はかすぎて、逆に笑ってしまいますわ。
ドロッセル家の者である私を第一夫人にする事で、お爺さまの顔をたてる事が出来るとお考えになったのでしょうが、それは逆効果だと分からないのが不思議ですわ。
あの騎士団長がそんな馬鹿げた話を喜ぶと、本気でお考えなのかしら。
第二夫人に、「あの」ラファエロ家の娘。
ご当主である騎士団長に話をされた瞬間、即廃嫡間違いなし…ですわね。
本当に、あの男は聞かされてないのかしら。
まぁ、聞いていたとしても、忘れている可能性の方が大ですわね。
「お嬢様?大丈夫でごさいますか?」
「え、えぇ」
いけない、考え込んでいたせいでカトレアに心配をかけているわね。
「お嬢様、さしでがましい事だとは存じますが、このままあの「クズ男」を野放しにされよろしいのですか?」
入れ直してもらった紅茶を飲みながら、盛大に溜息をついてしまいましたわ。
カチャリとカップをソーサーに戻すと、カトレアの手をそっと握りました。
「いつも心配してくれてありがとう。でもね、「まだ」その時ではないの。と言うか、このまますんなり話が進む気もしないのよね」
そう、あのピンクが私を「悪役令嬢」に据えた時点で、流れは決まった。
多分、あのピンク頭は、好きマジの攻略ルートに沿って動き出す。
今の感じだと間違いないはず。
好きマジには、主要攻略者が五人と、サブ的な攻略対象が三人いる。
主要攻略キャラは、騎士の家であるラングレー家。魔術師の家であるカジラエル家。商人の家であるアレクシス家。薬師の家であるマーシャル家。
そして、最終攻略者である、アリストラ王家。
好きマジで王太子を攻略したいなら、四家の嫡男をまず堕とさなくてはならない。
あの小娘は、アシェリー狙い。
つまり、ゲーム通りに動くなら、後三人を攻略するはず。
…………はぁ、極力あの馬鹿供とは関わり合いになりたくなかったのだけど、仕方ないわね。
最悪、叔母様にもお力添えを頼むしかないでしょうね。