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変態警察官にジョブチェンジとかふざけるな


寮に戻ってから寝て、次の日に出勤すると……。


まあ、ある程度覚悟していたけれど、増田さんからは冷たい視線、本多からも「よく来れたな」みたいな表情を浮かべられるし、神崎先輩からも「あ、変態警察」と凄く馬鹿にしたような顔で言われた。


神崎先輩みたいな変わり者にまでそう言われてしまうなんて……。


なんか、わかりきっていたけれど、ショックだった。


「ジュリアスの馬鹿」


「ごめーん、ね?」


鞄にある仮面からそんな声が聞こえた。でも絶対に反省も後悔もしてない。


「とりあえず、有栖川君。仕事教えていくから」


「あ、はい」


増田さんに仕事を教わる。


「こういう書類は……ここを……」


そう言いながら、僕に教えてくれる増田さん。


メモを取りながら、その書類のやり方を必死に頭に叩き込む。


でも、前にいたところよりもずっと簡単な書類だから、苦労はしなかった。


「こっちは、訂正がある書類ね。ここに訂正印を押して、こっちに……」


増田さんが髪を耳に掛けるその仕草が美しいなって思った。


まるで思春期の男子高校生みたいなものだなぁと思ったけれど、それが男ってもんだと諦める。男はいつまでも少年なくらいが丁度いいんだよ。多分。


「これはわかる?」


「あ、これは以前の部署でやったことがあります」


「そう。だったら説明は要らないわね。……んー、でも少し心配。一応教えておきます」


そう言って、一から教えてくれる増田さん。


……惚れた弱みというやつだろうか。増田さんのことばかり目に入っていて、背後の気配に全く気付かなかった。


「どぅーん!」


「うわぁっ!」


「有栖川君!? ……神崎! あなたの仕業ね!」


どうやら僕は神崎先輩に突き飛ばされたらしい。


ぺちょっと音を立てて倒れた僕は、起き上がる。


地味に膝が痛い。


「だって俺っちのフィアンセを変な目で見てた! 俺っちのフィアンセ汚すな! この変態! 増田っち、泣いてるじゃん! 気づけよ、変態!」


「誰も泣いてないわよ! あなたの方が気づきなさい! 私は新人研修中なの! 教育係なのよ! ……でも確かに変態かもしれない疑惑は」


「いやいや、お二人共間違ってますって! 僕は変態なんかじゃありません!」


「……変態って皆同じことを言うのよね。信じてもいいのか、怪しいわ」


増田さんが何かを思い出すようにそう言った。


もしかして、増田さんが過去に新人だった頃とかに何らかの変態犯人の話を聞いたりしたのか?


「神崎もある意味変態だし、変態って変態を呼ぶのかしら」


「増田さん、それは勘違いです! 僕はあの日、どうにかしていたんです!」


「その言葉は、今後見極めさせていただきます。じゃあ、続きからね。神崎は仕事に戻るように」


よかった。まだ挽回のチャンスがある!


「フィアンセが言うなら仕方ない……。うぅ」


「ま、増田さんありが『あーあ、この前のキャバクラのお姉さんはアフターなかったなー』……!?」


ジュリアス、この野郎!


「? どうしたの、有栖川君」


増田さんは言葉が聞き取れなかったらしくて、不思議そうにしている。


神崎先輩は「やっぱり変態じゃん……。俺っちのフィアンセに、何する気」とまさかの冷たい視線と敵意を感じた。


本多からも「お前、あまりふざけてると、本気で怒るぞ」と通りがかりに言われた。


「あ、いや、あの、何でもないです! ぼ、僕どうしたんだろうー! 虚言壁でもあるのかなー!? 夢遊病かなー!?」


増田さんは呆れていた。


「またまともじゃないのが、一人増えてしまった……。私の苦労が増える……」


増田さんは額に手を当てて項垂れている。

いや、違うんだ。本当に!


「お前もか、穣太郎」


本多は怒る気も失せたという感じだ。


「俺っち、思うんだけどさ……。その、悪いこと言わないから、病院行った方が良いと思う。割とマジで、ガチで。有栖川やばいやつになりかけっていうか、もうなってるって感じが……。心の病院と、脳の病院、念のため両方を受診してきなよ」


まさかの出来事。神崎先輩にかなり心配されてしまった。


かなり真面目に心配してくれてるみたいで、メモ用紙を手渡された。


そこには「おすすめ」の下に「心の病院、あ、クマさんクリニック」と「脳の病院。板井クリニック」と書かれていた。


……なんか嫌な名前の病院だなぁ。


でも、本当に心配してくれていたんだろうな。


そう思って調べてみると、本当にある病院だった。


よかった。嘘じゃない。


本当はいい人なのかもな。神崎先輩。


「何貰ったの? 有栖川君」


増田さんにメモ用紙を渡した。


「……これ、前に神崎が通っていた病院よ」


「へ?」


「神崎、一時期凄く暗い時があってね、その時に通っていたの。脳には異常なかったみたいで、心の病院に通い続けてたって聞いたわ。それからはあんな風にバカみたいになっちゃったんだけどね。まあ、暗くされてるよりずっと精神的にはいいのよね。……だって、辛そうだったもの」


「……そうだったんですか」


「暗かった時に優しくしたら、なんか懐いちゃってね。……あら、ごめんなさいね。こんな話、しちゃって。さて! 長話もここで終わり! 書類実践編よ!」


「え! もうですか!?」


「当り前よ! こんなの試験勉強に比べれば大したことないわ! さあ、やるわよ!」


「……はい!」


その日は、ジュリアスは他に何もしなかった。


ただ、「その病院、気になるな。なんとなくだが……。今度行こう」と言っていた。


何のためかはわからないけれど。


「いつかな」


そう伝えておいた。

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