ヒーローブライアン
ヒーローのブライアンは、大の虫嫌いだった。
それもくねくねと動くものが嫌いで、ミミズなんか以ての外だ。
しかし今回、どういう訳だか、目の前のデビザーは巨大な人食いミミズを従うミミズ男。
「……きもいな。今は、きしょいの方が使われるんだったか? きしょいな」
「これからは私達が、私の子供達が人間になるのです。今の人間はこの子達の餌になるんですよ」
ミミズ男☆デビザーがしわがれた声で、さも愉快そうにそう言った。
ブライアンはどうにも不快感を煽って来ると思っていた。
そのデビザーの見た目はぱっと見はただの爺、しかし黒髪のボサボサ頭。そして茶色いマント。
何より、顔が醜い。見る人を不安にさせるかのような顔だ。
デビザーになってしまったがために、醜くなってしまったのだろうか。
「お前達の世界なんて来るはずがない」
ブライアンがきっぱりとそう言うと、デビザーは笑う。
「いいえ、私達の時代です。ミミズこそ、世界一」
「……そんなことあるかよ」
このミミズ男☆デビザーは元々、超人について熱心に研究をしていた根からの研究者。
その熱心さはあまりに行き過ぎていて、マッドサイエンティストと呼ばれることもあった。
人気と虫との融合について研究していたのだが、ウイルスに感染後、さらに狂気が加速。
ミミズ人間こそ真の人間、最強の生物であると世に提唱した。
保有している能力は、人食い巨大ミミズの生成だった。
「ック、厄介だな!」
ブライアンはミミズを何度も薙ぎ払うが、次から次へと湧き出てくるミミズに苦戦していた。
薙ぎ払われたミミズはすぐに再生されて蘇る。
奥の手だと、ブライアンは剣を生成した。
「クレイムソード」
それは主に黄金によって生成された大刀だ。
クレイムソードは相手が罪を認めるまで、デビザー本体の力を封じ、あらゆる障害物を切り裂いて対象物、本体に斬撃を与え続けることの出来る剣。
あまりに罪が重い時は、その大刀の刃は燃え死ぬことが救いと感じる者もいる。
「これなら、あの爺さんに直接攻撃が出来る」
大きく剣を振り下ろす。
白い光の斬撃が放たれ、ミミズ男を巨大人食いミミズも含め切り裂き、皮膚を焦がす。
その一撃でミミズ男は悲鳴を上げていく。
それでも諦めないのか、ミミズを使って防御を続ける。
しかし斬撃が放たれる度にミミズの数はどんどん減っていく。
「爺さん、いい加減降参しな。今なら命までは取らねえ」
「私達は最強なんだ。私達は、最強だ!」
ミミズ男☆デビザーは最後だとばかりに残った人食い巨大ミミズを放つ。
「クレイムソードMAX」
ブライアンがそう呟くと剣の刃が虹色に光る。
「お前達が最強だということを見せつけてやれ! 行け!」
放たれた人食い巨大ミミズは最大限まで大きくなり、ブライアンに襲い掛かった。
「遺言はそれだけでいいのか? ……ああ、もう聞こえないか」
人食い巨大ミミズと共に、そのミミズ男はすっぱりと二つに切断されていた。
あまりに見事な切れ味で、ミミズ男は斬られたことにすら気づかなかったようだ。
そしてブライアンはそれを見て、こう言う。
「ミミズなんかに人間様を食わせて堪るかってんだよ。あー、きしょかった」
くるりと振り向いて、ブライアンは野次馬達に優しい笑顔を向けて安心させる。
「皆さん、終わりましたよ。今回のところは、このくらいで」
その時だった。
ブライアンの頭上に何かが降ってきた。
それは紫色の短髪の男だった。
男はブライアンの頭を踏みつけて、着地した。
「ワープ成功!」
両手を広げて男はそう言った。
ブライアンは頭を擦りながら「なんだ、お前」と酷く不機嫌そうに、殺気を混ぜて男に言葉を吐き捨てる。
「新人だかなんだか知らないが、来るならもっと早くに来い。ミミズ男はそこでくたばってる」
「あらま、ホント!? やだー」
「……おい、さっさと行くぞ。俺達の出番は終わっているんだ」
「待ってよー」
紫色の髪の男がブライアンに抱き着く。
ブライアンが怒りでキレそうになりながら振り返った瞬間、突如としてミミズ男の遺体の中から巨大なミミズが生成されているのか湧いて出て来た。
切り落とされた頭側の方からは大きな牙を持ったミミズが大きな口を開けて紫の男を食べようとしていた。
「身体の一部がある限り、無限なのだよ。私は」
しわがれた声がした。
「危ない、逃げろ!」
ブライアンが叫ぶ。
「ん? ああ、そういや産地偽装とか世の中いろいろあったよね。うなぎとかさ。そういうのを考えると、デビザーもヒーローも似たようなもんだよなって思わない?」
「訳のわからないことを言わずに」
ブライアンがその男をミミズから離そうそしていると、その男は「ばーん」と言って笑った。
その瞬間だった。何かがどしゃっと空から音を立てて突っ込んできた。
大きくて重い爆発音。
ブライアンは吹き飛ばされ、周りにいた野次馬達も吹き飛ばされる。
やがて爆風は止み、煙も落ち着いていく。
先程のミミズ男の遺体が完全に灰になり、本当の死を意味していた。
「いやー、いい汗掻いたわ」
紫の男は満足そうにロングコートについた砂埃などを払った。
そして何かを歌い出した。
しかし、明らかにそれは音が外れているし、何より歌詞もめちゃくちゃだった。
声も美しくない。がらついているし、上ずったり裏返ったりしてしまっていた。
「ま、こんなもんか」
「貴様、何というものを聞かせてくれたんだ! 耳が腐る! どういう意味があるんだ!」
「意味なんて忘れた。なんとなく歌っただけ」
「おい! ふさけるな! ヒーロー名教えろ! 文句入れてやる!」
「暗黒デカ☆ジュリー警部だよ」
「……変わった名前だな。可哀想に」
ブライアンは残念なものを見るような顔をしていた。
「ところっで、君は女性を見るならブラジャー派か? それともパンツ派か?」
その言葉を聞いた途端、ブライアンは顔を真っ赤にさせた。
「いい加減にしろ! ヒーローのセリフじゃないだろ!」
「ああ、この体は女性ではないのか。それならば私はマッチョか? ガリマッチョか? 細マッチョか? ゴリマッチョか?」
「もう知らん!」
ブライアンはそう言って足音を立てながら帰っていった。
ブライアンが去っていったその場所で、ジュリアスは誰もいないはずの空間に向かって話しかけた。
「さっきの私の歌声、どうだった? 痺れただろう」
ジュリアスの目には黒いチャイナドレスの女が映っていた。
大地に突っ伏している。
「お前、何者だ?」
そう言う女には金色の剣が刺さっていた。
実は先程の歌声はこの女を攻撃していたのだった。
「ただのミミズハンターさ」
女はふと笑う。
「何者かは知らないが、悪魔を殺せば必ず死ぬぞ。今やこの世は、全ては我々の時代なのだ。悪魔の神であり、そしてその頂点。あの方があの座に」
そう言いかけた女の悪魔に向かってジュリアスは冷たい視線を投げかけ、静かに口を開く。
「あいつは神の王には相応しくない」
悪魔は突如としてどす黒い血を吐いた。
「お前はついていく相手を間違えた」
ジュリアスは無表情でそう言った。
「彼が一番。そしてそれに続く者達も」
悪魔は笑っている。
「そうか。小悪魔。残念だったな」
悪魔に突き刺さった剣が光り輝く。
すると小悪魔の体がぶくぶくと膨れる。
「ルシファー様方……」
そう言いかけて、彼女の身体は弾け飛んだ。
「……ごめんな。穣太郎。刺激が強かっただろう」
後ろにいる青年が言う。
「刺激が強いも何も、何かとんでもないことを話していることはわかったけれど、どうにも現実味がないと言うかさ……。結構な超有名な悪魔の名前とか出て来たし、もうどうしたらいいかわからないよ」
「ああ、それね。ちょっとその件と関係が大有りだから、悪魔を退治しながら解決していくわ」
「はあ。そう。よくわからないけど」
「とりあえず、帰ろう。クリキントン!」
彼は両手を上げて、姿を消した。