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魔界を統べる者


「死にたくないっ! ……って、あれ?」


目を覚ますと窓から朝日が差し込んでいた。


そこは見慣れた警察寮ではなく、どこか、もっと凄い屋敷とか、そんなところの部屋だろう。


すべすべで柔らかなベッドが僕の体を受け止めている。


全て、夢だったんだろうか。


でも、脳髄を撃たれたあの感覚は、切り裂かれたあの衝撃は「嘘」ではない。


体を小さく折りたたむ。


苦しい。


鼓動が、詰まる息が、執着していた生が僕を妨げる。


「……ぐ、がぁ……っ」


思い出すと、痛い気もする。


しばらく、そのまま自分の身体を抱きしめてじっとしていると痛みは消えた。


痛みのある夢もある。きっと、今回もその類かもしれない。


僕は自分に大嫌いな「嘘」をさも「本当」のことのように思い込むことにした。


大丈夫、大丈夫。


そう思っていると、気づけば僕はあれは「夢」だったと結論付けることにした。


それに、死んでいるはずがないじゃないか。


今こうして生きているのだから。


首だって、繋がってるし。


あー、何て酷い夢見だったんだろうな。


そう思いながら改めて、僕は周りをきょろきょろと見回す。


あれが「夢」ではなかったにしろ、夢だったにしろ、もっと重要視するべきことがある、


ここはどこだ?


どう考えても僕の部屋ではないし、怪しいお店とかでもなさそうだ。


行ったことないから、わからないけれど。


まあ、どちらにせよここがどこだかわからないと動きようがないな。


そう思っていると、僕の隣からもぞもぞとスーツなどが擦れる音が聞こえた。


「すー……、すー……」


誰か寝ている。


そっと布団を持ち上げると、そこには金髪の美しい髪をした女性が僕に背中を向けて寝ていた。


それに、どうやら全裸のようだって、全裸ぁ!?


「こ、これはいけない。服、服……!」


女性が起きた時に羽織るためのものを探す。


クローゼットにベッド周り、テーブルの上。


しかし探したところで見つからない。


僕は普通に服を着ているが、なんだか汚れているから使ってくれなんて言えないし……。


(どうしよう。誰だ、あれ。僕は何をやったんだ。何をされてしまったんだ……! 何をしていたんだ、過去の僕ぅ!)


起きたら女の人が隣で全裸で寝ているという異常事態。


本当に、僕はどうなってしまったんだろう。


そうして、僕が衣服を探していると女の人は「んっ」と声を出した。

目を覚ましたのだろうか。


「あ、いたぁ。もう起きてたんだね」


艶やかで甘い、可愛らしい少女のような声だった。


その人の顔は目が青く、金の髪に長い睫毛、ぷっくりとした唇と、パーツが全て整っている、所謂美女というものだった。


「昨日の夜はありがとうね。とーっても、いい夜だったよ」


目をとろーんとさせて僕を見る。


僕はたらりと汗が流れ出る。


そしてすぐに顔色を真っ青にさせた。


昨日の夜ってことは、つまり、そういうことだから……。


あんなことやこんなこと、してしまったのでは……?


ということは、え!?


「すみませんでした!」


スライディング土下座をした。


頭を何度も何度もふかふかのカーペットに擦り付ける。


「僕がどんなことをしたのかは想像がつきます! でも、すみません! どういう訳だか記憶がなくて! どうやってあなたにお詫びすればいいのか……っ!」


僕が頭を下げ続けていると、その人は「ぷっ」と吹き出した。


あれ? 声、妙に低くない?


「んー、いい眺めだ! あはは、君、面白いねぇ」


思わず僕は頭を上げた。


「っふふ、本当に面白い。人間というものは」


そう低い低い声で言っているのは間違いなく目の前の女の人。


「君、童貞だろう?」


「な、なんでそんなことを、聞く……んですか」


「興味本位的なやつ。童貞なら女が隣で寝ていただけでそこまで謝るなことをしたと妄想してしまうのだな。勉強になったよ」


低い声ってか、これ男の声じゃん!


僕は信じられずにぽかーんと間抜けな顔をしてその人を見ていた。


「リリーの言う通り、やっぱり人間は騙し甲斐がある!」


腕を組んで、その人はにこやかに笑う。


「あ、そうそう。昨日の夜だけど、何もなかったから。君の隣で寝ていただけだ」


「はあ、そうですか」


それは良かった。


「さて、私の名はジュリアス。気軽にジュリーとでも呼んでくれればいい」


彼はそう言ってベッドから降りる。


改めて見てみると、女性的なラインではあるものの、正真正銘男性の体だった。


「それで、ときめいたか?」


「うっ」


男にときめいていた、自分が少し、いや、大分恥ずかしい。


「その様子だと、ときめいたようだなぁ!」


彼は手をひょいっと動かすと光が現れ、そこからティーカップを出して紅茶を注いだ。


きっと、今頃僕の顔は真っ赤だ。


顔中に熱が集まるのがわかる。


「悪魔王として最高だと言われてきた私にときめかないはずがない。よかったよかった」


うん? となる。


今、悪魔と言ったか?


だとしたら……。


「えっと、……ジュリアスさん、あなたは一体、何者ですか?」


僕がそう言うと、彼はにこりと美しい笑みを浮かべた。


「ジュリアス・デュアルエル。悪魔の王であり、この魔界を統べる、言ってしまえば、魔王だろうな」

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