ポンニチ怪談 その51 議員中継
元INUHK職員ガンダダはニホン国の与党ホンソダ議員を一日中中継し続けるのだが…
ポンニチ怪談 その51 議員中継
“20××年5月25日、8時45分 ホンソダ議員が議員会館にやってきました。今日は昨日より2分遅れています。これよりエレベーターで部屋に向かう模様、中継者もエレベーターに同乗します”
ガンダダは小型マイクで話しながら、ホンソダ議員を小型カメラに収め続けた。うんざりした顔の議員の顔が液晶画面いっぱいに広がる。こちらも飽きるほどみている。嫌そうな顔の初老の男性、こんな顔をみるのは自分だっていやなのだ。しかしガンダダはつづける。
“今、議員はエレベーターを降り、部屋に向かっています。秘書1名が付き添いながら、部屋に入りました。先に来ていた秘書2名が新聞を手渡しました。首都新聞を広げた議員は一面の『元与党ジコウ党の文書交通費の虚偽記載は横領罪との判決』の記事に「100万ぽっちの金なのに」と発言、秘書Aがそれに対し「センセイ、国民にとっては大金でして」となだめるように言い、秘書Bは薬と白湯を差し出し”
議員の一挙一動をつぶさに報告し続けるガンダダ。と、突然
「も。もう、やめんかー」
ホンソダ議員が怒り出す。ガンダダに向かって白湯の入った茶碗を投げつけようとした。
「センセイ、おやめください」
秘書Aが議員の腕をつかみ、ゆっくりと茶碗を手から取り上げようとした。だが、
「は、はなせー」
と、なおも暴れる議員を秘書たち、いや介護職員たちが羽交い絞めにする。
“ホンソダ議員は中継者に対し、暴力的行為を行おうとしたところ、秘書たち、正式には秘書とホンソダ議員が思っている介護職員たちに取り押さえられております。彼らはホンソダ議員、正式には元議員に鎮静剤を打って、ソファアに横たえています”
これもいつものことだ。そして介護職員たちの愚痴も
「また、暴れたか。やれやれ元与党の世襲議員どもは手がかかる」
「そういうなよ。金をたっぷりもらってるし」
「だけどな、俺たちだって、カメラで監視されてるんだぞ、いい気分じゃない」
「まあ、そうだけど、決まりだからな。前政府が国会の中継もしないで好き放題やった挙句、ニホン国は滅茶苦茶。いまや周辺国に出稼ぎにいかなきゃ食っていけないって国民が大半だ。国内に仕事があるだけ、有り難いよ」
「命もな。大人しいといわれるニホン国民が、暴動起こしてジコウ党の奴らやら、太鼓持ちの芸人やら御用学者やら忖度したマスコミの連中を襲いまくったんだ。巻き添えで死んだのもいたんだし」
「しょうがないさ、円安の上にインフレで、一日一食食えたら、マシって人がゴロゴロいるなか、議員だってインフレで大変だ、報酬上げろ、なんて、いいだしたんだぞ、ジコウ党の奴ら。そりゃ皆怒り出すさ、こっちは死にそうだってのに、こいつらはタクシー代が高いなんてぼやくんだから。暴動が起こって、前政府のやつらがやられるのは当然だろ」
「で、あっという間に、大混乱。アメリカだのが介入してきて臨時政府樹立、比較的早く安定、ってことになったけど、でもやっぱり生活苦しいよな」
「俺は前よりマシだけどな。とはいえ、納得がいかない連中もいるから、腹いせついでに議員中継、いや元ジコウ党議員中継をやってるんだろ。ホンソダだけじゃなく、アトウダとかダカイチとかの情けない姿を24時間監視カメラで中継ってな。国会中継すらさせなかった奴らへの報復ってことだろ」
「何十人いる議員全員、一日中見てる奴はいないだろうけど、見られてるって感じだけでも嫌だよな。トイレの中すら撮影。睡眠中でも朝から晩まで、プライベートなしだし」
「だよな。アベノ元総理なんか、目立ちたがり屋だったから、うれしがるかと思いきや、一挙一動監視はやっぱり耐えられなかったんだろうな。一番先にトイレで首つるんだから」
「その様子すら中継されてたんだろ、後悔したらしく、手で縄を外そうとしてあがいたけど、結局、助からなくて。なんで救急車呼ぶやつがいなかったんだろう、カメラで映してたのに」
「夜中だから、ってことになってるけどな。だけど見てたやつはいるから、わざと通報しなかったんだろ」
「まー、中継といっても部屋中の監視カメラからだからな。にしても、このホンソダのジジイ、なんで、監視カメラじゃなくて誰もいないほうに向かって怒るんだろうな」
私が見えてるからでしょ、とガンダダはつぶやいた。だが職員たちには聞こえないだろう、現世の彼らには。
公共放送の名を借りた、実質政府広報となり下がったINUHKの職員で、アベノ元総理に擦り寄り出世したガンダダは暴動の時に真っ先に標的になった。民衆に殴られ、けられ内臓が破裂し骨が砕けた時は酷い痛みを感じたが、死ねば終わると思っていた。だが、それは終わりではなく始まりだった。
前政府のデタラメ政策で死んだ国民の怒りはあの世に行っても収まりきらず、彼らは自分たちを死に追いやった政府の人間、とくにジコウ党の議員の末路を見たがった。そして、元マスコミの死者たちは無理やり彼らを中継させられることになったのだ、24時間、365日。
「もう、だいぶ耄碌してんだろうよ。何しろ、自分の代わりに息子や孫が撲殺されたのを目の前でみたんだから。奥さんの死体なんで、人の形がどうかわからんほど踏みつけにされてたんだから、そりゃおかしくもなるよ」
「惨いとは思うけどさあ。だけど、こいつらのせいで死んだ、最低限の生活をさせられた、それこそ家族が亡くなっただの、苦しんだとかいう人々が大勢いたんだからな。相当恨まれてるよ、こいつらの取り巻きもさ」
「マスコミ、とくにINUHKの連中もさ。ま、大半が死んじまったけどさ。生きてる奴は惨めだよな。原発の処理だの、産廃の片づけだのをやらされてる上、いじめられ、無視され、実質人権なしだし。ひょっとすると早く死んだ方がマシかもな」
そんなことはない、とガンダダはつぶやいた。死んでも、元議員やら御用学者たちに貼りついて彼らの哀れな有様を中継し続けなければならないのだ。議員たちだって死んだら終わりではない。元アベノ総理は彼のせいで死んだ亡者たちに毎日食い殺され蘇る地獄を味わっているのだ。それも、中継されている、ただし、あの世で。
「しかし、ホンソダ元議員さんもだいぶ大人しくなったな。こりゃ、そろそろ危ないかな」
“秘書、正式には介護職員の話も聞こえていないかのように、ホンソダ議員はソファで死んだように眠り続けており…”
ホンソダ議員が死んだら、あの世での中継者に引き継がれるのだろう。今度は誰を中継するのだろう、いつ自分は中継を終えられるのだろう。口を開けて目をつむっているホンソダ議員の寝顔をみながら、ガンダダは透けた体で考えていた。
どこぞの国で国会中継をしつづけないのは、与党議員の醜態がさらされると選挙に響く云々と噂されていますが、これで民主主義の大国~などどいえるのでしょうか